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槇と刃 その二

 きおつけて

 気をつけるってなにを?

 きおつけて

 だから気をつけるって何に気をつけるんだ?


 目が覚める。

 なんだか体がだるい。

 また腹の立つ目覚ましのせいで気分が悪いんだろうと思っていたら目覚まし時計より質の悪いものだった。

「もしもし・・・・」

「おはよう。今起きたとこなの?ちゃんと遅刻しないで学校行ってるんでしょうね?」

「こっから高校まで歩いてどのくらいだと思ってるの。そんなくだらないことを言うのに電話してきたんなら切るよ」

「あんたごはんちゃんと食べてるの?冷蔵庫を開けた形跡がないから心配して電話したんじゃない」

 しまった。気をつけてたつもりだったけど開閉作業をここ二、三日してなかったか・・・・気をつけるってこのことか?いやそんなこと誰かに言われたか・・・・

「あんた出来合いのお惣菜食べないでしょ?なに食べてるの?」

 朝っぱらから質問攻めにあうとゲンナリするな・・・・

「最近食生活が洋風なんだよ。朝昼晩パン食べてる」

 洋風だからって三食パンと言うことはないだろうがもうめんどうくさくて適当に答えている。

「そう?それならいいんだけど。食費が足りなくなったらいくらでも送るからちゃんと食事するのよ」

「へいへい。それでご用件は以上でございますか?」

「居間のカメラが動かないけど知ってる?」

 自然故障ではなく物理的に破損していて今は細いコード一本で天井から垂れ下がっている。普段はねらっても当たらないのにあの時はどういうわけかクリーンヒットしたせいだ。

 動かないって言ってるからあれでもカメラ自体は生きてるのか

「こないだ居間で寝てて寝ぼけてオーバーヘッドキックかまして壊れた」

「壊れたじゃなくて壊したでしょ。弁償しなさいとは言わないからちゃんと直しておいてちょうだい」

「わかりました。以上ですか?」

「朝ごはんもちゃんと食べるのよ。いいわね?」

 あとはもうさらに適当に返事をして切った。早くバーチャルクローンが実用化されればいいのに。

 忌々しげに無駄な機能の多い目覚まし時計を見ると今日もやはり今日の標語が書かれている。役に立たないとわかっていてもつい読んでしまうのがよけいに腹立たしい。

「『何もしないことを選択することが時として最悪の結果を招く、こともあるかもしれない』・・・・なんだそりゃ?」


 昨日と同じ時間に昴の家に行くと今日は朝食をとっていた。これがいつもと同じで昨日は昴が遅かったのだが、女の子としていろいろあるだろうから例えどんなに遅れてもその理由はこちらからは訊かないと心に決めている。

「おはようございますお姉さん。おはよう昴」

「おはよ〜」

「おはよ〜先生」

 お姉さんのいれてくれたコーヒーを飲みながら朝食を食べる昴を見る。いつもの朝の光景だ。昴は見た目と違ってモリモリと言った感じで食事をする。食べる量も見た目と違うから知らない人が見れば驚くだろう。

 横に増やしたいのか縦に伸ばしたいのか・・・・昨日のあの感じじゃ縦だろうけど

「先生朝も夜も一人なんでしょう?どうせ同じことなんだから朝ぐらいうちで食べていってくれればいいのに」

 お姉さんがそう言うのを横で聞いていた昴がもぐもぐやっていて話ができなかったので頭を大きくコクコクふった。

「あーいえ、時々ならまだしも毎朝となると母に叱られますので・・・・食費もちゃんとチェックされてるので色々と説明するのにめんどうですから」

「そう?それじゃあ気が向いた時だけでいいから言ってね。遠慮しないで」

「はい」

 とは言ったものの、ここの朝食は毎日すべて冷凍食品なのだ。冷凍庫から取り出してレンジに入れれば見た目豪華な朝食のできあがりというわけだ。だからお姉さんの手を煩わしたくないと言う理由で断っているわけではない。自分がそういった冷凍食品が味云々ではなく気分的に嫌いだからだ。正直に言うと『よくそんなもの毎朝くっていられるな』となるが、朝がこんな調子だからたぶん夜も似たようなものだと推測されるので、冷凍食品率がかなり高いこの家庭の味覚を否定しかねない。

 夜はだいたい自分で作ってるなんて言うと驚かれるだろうなぁ

 料理が上手というスキルは隠しておきたいのでとっととこの話題から離れたい。

「そのかわりと言ったらなんですけど、お姉さんに通信設備関係の知り合いいませんか?ソフトのほうなら自分で何とかするんですけど、居間の天井のカメラを物理的にこわしちゃって」

「それなら知り合いがいるわよ。連絡して訊いてみるわね」

「お願いします」

「急ぐの?」

「いえ、ぜんぜん。自分はそんなもの直さなくてもいいと思っているんですけど、母親にこわれてるのがバレちゃいまして」

「お母さんも心配なんでしょう」

「でも先生、天井についてるのなんてどうやってこわしたの?」

「居間で寝てて寝ぼけてオーバーヘッドキックかまして壊れた」

 もちろん二人とも信じなかった。


 昼休み。

 今日も男三人で昼飯を食べ始めると鈴木がとんでもないことを言い出した。

「吹奏楽部がいいんじゃないかと思うんだが」

「また何か変な勘違いをしてるんだろ。おたまじゃくしはわかるのか?」

「おたまじゃくし?」

「楽譜のことだよ。楽譜読める?楽譜を見ただけで頭の中でメロディーがわかるってことだよ」

「そんなことできるわけないだろ」

「楽譜も読めんやつが行っても向こうも困るだろうが。もう少し他人の迷惑というものを考えなさい」

「でも初心者みんな門前払いってこともないと思うんだけど」

「そうそう。それでだな、右も左もわからないかわいい一年生を・・・・」

「右手でコントラバス、左手でチェロを軽々持ち上げた先輩が」

「ちゃうわ!」

「まったくよくもそう夢を見ていられるもんだな」

 首を横にふって女子二人連れで弁当を食べているうちの一人に声をかけた。

「桑山さん」

「えっ!?」

 友達と楽しくランチしていて突然名前を呼ばれたので女子生徒は驚いていた。誰に呼ばれたのかもわからずにきょろきょろしていたが当然だろう。こうして話しかけるのは自分もこれがはじめてだった。でもなぜ突然よく知りもしない女子生徒に声をかけたかと言うとバイオリンらしきものを持って歩いているのを見ていたからだ。関係者に間違いないだろう。桑山さんではないほうの女子生徒が自分を指差したのでこちらを向いてくれた。

「吹奏楽の仮入部ってまだやってる?」

「え?どうかな・・・・」

「もう受け付けてくれないと思うよ」

 その指を差した女子生徒が代わって答えてくれた。確か橋山さん。吹奏楽部仲間だったようだ。

「部長がきびしい人でねぇ。もう新入生も本格的な練習してるから」

「高校入ってから新しい楽器にさわるような人は入れない?」

「え〜?そんなことはないと思うんだけど・・・・どこの中学にもあるってもんじゃないから・・・・でも、今年はたまたまなのかなぁ。高校入ってからトランペットやりたいとかいうような人がいなくて・・・・」

「新入部員全員が経験者なんだ」

「レベルはバラバラだけどね」

「吹奏楽部に入りたかったの?」

「こいつがね。楽譜も読めないのに」

 それを聞いて橋山さんが大笑いした。

「アハハ!それは当然むりだねぇ」

「やさしいお姉さまに指導してもらうという俺のユメが・・・・」

「アハハ。残念ながらうちの部にやさしいお姉さまなんていないよ。練習はじめる前に校庭十周だもんね」

「そうそう。びっくりしたよね」

「演奏には体力が必要だからって。伝統的にそうらしいよ」

「へぇー。まじめに部活動してるところはやっぱ大変なんだね」

 後藤は感心した様子だった。自身の部活が不真面目なんだろう。

「あ、吹奏楽部の先輩に知り合いなんていないよね?今聞いたこと、ないしょにしておいてよ」

「直接の知り合いはいないけど、もう顔の広い先輩と仲がいいからなぁ。桑山が部長は鬼のようだと言っていたと伝言しておいてもらおうか」

「え〜!私そんなこと言ってないよ!言ったのはハーちゃんでしょ!」

「私も鬼のようなんて言ってないって」

 ハーちゃんこと橋山さんは何となくノリがよさそうだなと思っていたらやっぱりノリがよかった。桑山さんもまじめだけど冗談が通じないわけではない。こうして女子の友だちができたのだが、お姉さまがどうのと言っていたわりに鈴木は女子との会話にキレがない。お調子者を装ってるだけで異性に慣れてるわけではないようだ。

「何かおすすめの部活がないかな?楽器運びとか楽譜持ちとか、そういう雑用ない?」

「こら。俺は雑用なんかしないぞ」

「うーんわかんないなぁ。そもそも私たちも部活探しの最中なのよね。金曜日は体動かすことやれって」

「毎日十周なのにね」

「僕も金曜の運動部探してるとこなんだよ。資料あるよ。見る?」

 鈴木と違って後藤は女子とも普通にしゃべっているのがおもしろかった。そのあと四人は部活探しに出かけていった。自分はその必要がないので教室に残る。

 席に戻ると二つ前の席の女子は相変わらず頬杖をついて外を見ていた。ここからだとその横顔も少ししか見えず表情まではわからなかった。

 昼休みが終わるまでその女子の背中を見て過ごした。


 放課後。

「こんちわ。また部長とふたりっきりですネ」

「昨日言ったことを忘れてるわね」

「え?なにをです?」

「部員一人増強」

「そんなこと、いいましたか?」

「このままだとほんとにまずいわね。文化祭のときままならなくなりそう」

 総合文化部じゃあ何をやってもいいことになってるんだろうなぁ

「今から即戦力を追加ですか?勧誘しようにも何の部なのかを説明するのに苦労するんですけど。そういえば毛筆部は独立をたもっているんですね。人気なさそうなのに」

「失礼なことを言うわね。でもあそこも茶道かなんかといっしょのはずだけど」

「そうだったんですか」

 通学かばんを置くとくるりと向きをかえた。

「どこ行くの?」

「そのへんをぷらぷらしてきます」

「来たばっかなのにもうサボるの」

「その気のないヤツはもう帰ってるし、やる気があって部活が決まってるのは今は部活動の最中なんだし、そうなればやる気があるのにまだ決まってない一年生は今校内をうろうろしてる最中でしょう」

「わりと頭がいいのね。これからもその調子でよろしく。それじゃあさっそく行ってきて」

「部活の内容を書いたチラシみたいなものはないんですか」

「ない」

 と言うわけで手ぶらで校内をうろついている。

 なにかこうもっと効率的に探す方法を考えてみたのだが思いつかなかったので考えを継続しつつ行き当たりばったりに歩いていた。

 向こう側にも行ってみるか

 部室と言ってもただの空き教室だ。文化文明部も他の文化系クラブと固まっていたが別にもう一区画空き教室の部室群がある。そっちへ行ってみることにした。

 でもこっちはわりとまじめなのばっかだからなぁ

 文化文明部の近所は部活というより同好会に近い集団が多いのでアニメとか超古代史とかSNSとか言ったのが軒を連ねている。対してこっちは履歴書に書ける活動も可能だ。

 まったく期待せずに善後策を考えながら部室のある階に着くと・・・・いた。さっき自分が言ったような人が廊下を歩いている。

 そこにいたのは女子生徒だった。

 小さなポシェットのようなものを斜めがけにしているのが目にとまる。

 手にしている端末が古めかしいようなのでそれを専用に入れて持ち歩くためのものだろう。その重そうな端末を見ながら歩いて、立ち止まると教室の方を見て、端末を見て、教室を見て、端末を見て、歩いて、次の教室に着くと端末を見て、教室を見て、端末を見て、を繰り返していた。ヒマだったのでそのまま見ていると結局廊下の端まで行ってしまった。あの調子なら端末を見たまま壁にぶつかるかと思って見ていたが、さすがにそうはならなかった。

 廊下の端でくるりと向きをかえると端末を見たままこっちに来る。

 誰かが声をかけるまでずっとこうしてるんじゃないのか?

 そう思いつつどこで自分に気がつくだろうと考えてからあることをした。あることと言ってもただその女子生徒の進路妨害をしただけだ。

 そして予想は当たり端末を見たまままっすぐこちらにやってきた。自分は何も言わずにその瞬間を待った。

 とんっ

 そんな感じだった。

 いくら小柄な女子だと言っても『ドンッ!』とならずとも『ドン』くらいにはなると思っていた。女子は突然現れた見えない壁に当たったかのように自分だけ跳ね返されて尻餅をついた。そのはずみでスカートがめくれあがる。自分はそれを上から見下ろすことができた。

 おお!やった!部長ありがとう!眼福眼福!しかもシマシマだよシマシマ!シマシマいいよねシマシマ

「大丈夫?」

 自分からぶつかったようなものだったうえに心の中でシマシマを連呼しつつシマシマが見えてることも言わないで、紳士面でシマシマの女子に手を差し伸べた。

「いたた・・・・あ、ごめんなさい。私、ぼーっと歩いていて・・・・あ、大丈夫です・・・・」

 こちらの差し出した手をつかまずに一人で起きあがる。うつむいて歩いていたので気がつかなかったがその女子生徒はメガネをかけていた。華奢な身体と短めで少し縮れた髪とメガネとがよく似合っている。制服はやはりというかセーラーを着ていた。

「その端末はなんともない?」

「あ、はい・・・・なんともないです・・・・」

 廊下に落としたわけではなかったのでなんともないだろうがそう言われて画面を見ている。そうしたことを気にしない性格なのか表示されているものが自分にも見えた。そこには生徒会の出している部活の情報がでている。

「部活、迷ってるの?」

「え?あ、はい・・・・そうなんです・・・・」

 けっこう深刻そうな顔をしているのでそこにつけこんでだまして入部させることはできそうだが、なんとも戦力になりそうにない感じではある。

 とにかく誰か一人連れてかないと部員集め自体が部活動になりかねないからなぁ

 そんな部活はごめんこうむりたいので、ちょっと眼下の小柄な女子には悪いと思ったがだまされてもらうことにした。

「あれもやってみたい、これもいいかもと思っているうちに時が経ってしまって早く決めなきゃと思いつつ今日も廊下を行ったり来たり」

「そ!そうなんです・・・・なんで知ってるんですか?」

「そんなあなたにピッタリの部活があるんだけど、どうかな。まだ仮入部も受け付けてるよ」

「ほんとですか?・・・・でも・・・・そんな都合のいいクラブがほんとにあるんですか?」

 端末の資料を見ながら半信半疑で訊いて来る。

「ほんとにあるよ。ただ、何でもできるかわりに部の先輩の決めたことにただ従っていればいい部とは違うから本人のやる気しだいだけど、あなたにはその覚悟があるかな」

「あ・・・・あります。一年生でもどんどん提案していっていいってことですよね」

 部活が決まりそうで希望の光が見えて眩しかったのだろう、記章が見えなかったようだ。詰め襟の記章を見れば同じ新入生だということは一目瞭然なんだがあきらかに先輩だと思っている。

 こんなん連れてったら怒られるかもしれないけどまぁどうにかなるだろ

 けなげな女子生徒をだましたあげく『こんなん』扱いをしている。どうやら自分はけっこう悪い人間のようだ。

「今からさっそく部室に行こうか」

「はい」

 その女子生徒は当然このフロアーにあると思っていたのだろう、階段を降り始めると一瞬ためらったようだが何も訊かずに、いや、訊けなかっただけかもしれないが、黙って後に着いてきてくれた。

「ただいまもどりました」

「もう挫折したの」

「いえ、強運の持ち主ですから」

 この女子にとっては不運だろうが

 小柄なのでセンパイから見てすっぽり自分の後ろに隠れてしまっていたようだ。自分が先に部室に入って姿が見えるとセンパイが驚いた。

「え?ほんとに部員増強?」

「仮入部希望ですけど」

「お〜借りでも雁でもなんでもいいよ。ささ、すわってすわって」

「あ、はい・・・・失礼します・・・・」

 センパイは自分より背が高いので二人が並ぶとけっこうな身長差がある。

 新仮入部員が遠慮がちに教室に入ってきた。この教室だった部屋、つまり定員四十人の部屋に今は三人しかいないわけだが、それでも広い部屋にぽつんとと言う感じはしていない。原因はゴミ、いや、我が部の歴代の備品の数々のせいだ。文化祭で造ったものが捨てずに置いてあるので大きくてかさばるものがかなりある。これだけ見ると何部なのかさっぱりわからないだろうし、入り口の部の看板を見てもやはりわからないだろう。実際、女子生徒は困惑している。

「ささ、座って座って。私部長。こっちが副部長。あなたは?」

「二組の平奈静かです・・・・」

「ひらなしずかちゃんね。よろしくね。それではさっそく我が部の歴史から説明しよう」

 センパイが作ったのか、センパイより上の先輩が作ったのか、文化文明部の歴史がよくわかる実によくできた資料だったが、これを見るとこの部がいかに変な部なのかも再認識できる。

「ほんとに何でもできるんですね・・・・」

 なんていいかげんな、とは思わずにいいほうに解釈してくれたようだ。

「今年の行動計画を今作ってる最中なの。何か案があったら言ってみて」

「え、でも、私、まだ・・・・」

「あとで入るのやめたってもいいから。今ほかにやってることもないから体験してもらうこともないからさ」

「はぁ・・・・」

 やっぱりセンパイも押しに弱そうだと思ってるのかな

「ここに書き出してあるのでなんか興味があるのがあるでしょ。それを教えてくれればいいわ」

「はい、えーと・・・・」

 昨日見た文化文明部が今までやってきたことが箇条書きになっているページが映し出されている。

「はぁ・・・・やっぱり文化文明部だけあって文化祭が一番おおきな行事ですね」

「そうなの?」

「え?ちがうんですか?でもそこに山積みになっているのってほとんど文化祭のものだと思ったんですが・・・・」

「なんでそんなこと知ってるの?」

「え?なんでって・・・・さっきの写真に写っていたものがそこにあるから・・・・」

「ここ何年かの文化祭の写真?」

 そう訊くと部長がさっき見た写真をまた出してくれた。

「ほんとだ」

 教室を占拠している大型粗大ゴミ、いや、大型芸術作品が確かに写真に収まっている。

「あれってあんなふうに使ったんだ。部長は知ってたんですか?」

「そりゃあ知ってるわよ。まぁこんなにじっくり見るのは私もこれが初めてだけど」

 未だに同じ新入生だと言うことに気づかないでいるので、副部長らしからぬ発言に首をかしげている。センパイもおそらく、女子仮入部部員が勘違いしていることに気づいているのだろうが、センパイもわざわざ教えてあげたりはしない人だ。

「文化祭、好き?」

「はい!あ、でも、好きっていうか・・・・中学の時この高校じゃないんですけど文化祭見に行ってそれがすごく楽しくて・・・・それから高校に入ったら自分があんなことをできるんだって思ってて・・・・具体的にはまだわからないんですけど、なんかこう大がかりなことをやってみたいなぁって・・・・」

 それで部活を迷ってたのか・・・・

 進学前から目標が文化祭というのもめずらしいが、確かに取り仕切りは生徒会でもそれは裏方仕事だし演奏会のような出し物もやはりイメージするものとは違うのだろう。そうなればこの部が一番理想に近い、かもしれない。

「よし!それじゃあしずかちゃんのために文化祭に向かって突き進もう!ね!副部長」

「そうですね・・・・」

 蛇に睨まれたカエルと言うか、退路を断っておいて正面から向かっていくと言うか・・・・自分が連れてきておきながらちょっとかわいそうになってきた。

 そのあとも膨大な数の写真を見ながらの話が続いたが定時になる前に部長が今日の部活動を終わりにした。

「これから用事があるから悪いけど今日はこれでおしまいね。しずかちゃん、明日も来てくれる?」

「あ、はい・・・・」

 蛇部長に睨まれた平奈ガエル。ゲコゲコ。

「よかった。副部長、あんたちゃんと迎えに行ってあげなさいよ」

 逃げないようにってことですか?

 うちの部も存亡の危機にあって、さらにもう一人というのもなかなか厳しく自分も『いやならいいんだよ』とも言えない。ここはやはり平奈さんには文化文明部の礎になってもらうしかない。

 それから三人で昇降口まできた。ここまで来れば気がつくかと思ったが平奈さんは気がつかない。センパイが自分の靴棚のところへ行き自分もそうしたのだが、学年ごとに棚は固まっているので一年の棚から靴を取り出せばさすがに気がつくと思ったが、気がつかなかった。

 やっぱり戦力にはならないかな

「ちょっとこっちに用があるから」

「はい。それじゃあ副部長さん、さようなら」

 手をちょっとひらひらさせてグラウンドの方へ行って平奈さんとわかれた。

 新入生が副部長で一人で部員集めをしてるなんて普通は思わないだろうけど・・・・それにしても間が抜けてるような・・・・ああ言うのを思いこみが激しいって言うのかな?

 目的の人物がちょうどそこいらに居ないかなと思ったがタイミングが悪いらしく見た範囲内で確認できなかった。こんなところをうろうろしているのを柳川さんに見つかると面倒なことになるのですぐにあきらめて撤収した。



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