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スーパーショートショート

作者: 潮原 汐

1.蛇口


 ある飲料会社が売上を伸ばそうと、家庭にコーラの出る蛇口を設置するサービスを始めた。

 目論見通り、会社の売上は急上昇した。

 三ヶ月後、今度は会社の売上が急降下する。

 代わりに、歯医者の売上が急上昇した。




2.忙しい社長


 毎日が忙しい社長は、どうにか休みが欲しかった。

 そこで、とある技術者に頼んで身替わりのロボットを作ってもらうことにした。

 社長の仕事をこなすロボットなんて、作るのは難しいだろうと聞く社長に、技術者は簡単ですと答える。

 翌日、技術者は完成したロボットを持ってくる。

 社長は半信半疑ながらも、会社をロボットに任せてゴルフに出かけた。

 そしてその日、社長がロボットと入れ替わったことに気づいた社員はいなかった。

 技術者がロボットに搭載した機能は三つ。

 頷き、コーヒーを飲み、椅子にふんぞり返ることだけだった。




3.メリーさん


 私メリー。今、あなたの住む町に着いたわ。


 私メリー。今、あなたの家が見えたわ。


 私メリー。今、あなたの家の玄関よ。


 私メリー。今、あなたの後ーー


 振り返った拍子に、何かを踏んだようだ。




4.嘘つきの一日


 朝、起きてきておやすみなさいと言う。


 昼、こんばんわと会釈する。


 夜、おはようと行って別れる。


 眠る前、おやすみなさいとベッドに潜る。


 その夜、嘘つきは眠らずに過ごした。




5.バベルの塔


 バベルの塔の再建計画が持ち上がった。

 かつて天に届くほどの高さを誇ったバベルの塔も、神の怒りを買い、建設に携わる者達の言葉をばらばらにされて崩壊した。

 今度はそのような失敗をしないため、ある対策が執られた。

 言葉でのやり取りを無くし、手話を採用したのだ。

 塔はかつてのように天高くそびえ立った。

 神は怒り、人間から手を奪った。




6.へそのごま美容法


 世間では一風変わった美容法が流行っている。

 その名も「へそのごま美容法」だ。

 することは至極簡単。自分のへそのごまを湯に溶かして飲むだけ。

 それだけで肌が潤い、白くなり、髪に艶が出るのだ。

 この美容法をアイドルや女優が行っていると噂が流れ、世の女性たちの間に爆発的に広まった。

 テレビでは特番が、雑誌には特集が、あちこちでへそのごま美容法が取り上げられた。


 それを見た情報の発信源は、醜い顔をさらに歪めてほくそ笑んだ。




7.セコイヤ杉の森


 とあるセコイヤ杉の森。青空を支える柱のように伸びる沢山のセコイヤ杉の中に、ただ一本、子供の背丈ほどしかないセコイヤ杉があった。

 ノッポのセコイヤ杉達は、口々にチビのセコイヤ杉を馬鹿にした。

「お前は本当にセコイヤ杉か」

「あまりにも小さ過ぎて、ときどき見えなくなるよ」

「ああ、そこにいたのか」

「そんなんじゃ、太陽の光も浴びれないだろう」

 しかし、チビのセコイヤ杉は「チビでいいんだ」と返すばかりだった。


 それから数年後。

 ノッポのセコイヤ杉達はみんな切り倒され、唯一残ったチビのセコイヤ杉は全身に太陽の光を浴びている。




8.世界一賢い男


 男は頭が良かった。

 誰もが解けなかった数学の問題を解き、新たな物理法則を見つけ、難病の治療法を確立し、人と変わらぬロボットを作った。

 皆が彼の頭脳を頼り、彼の下には毎日沢山の手紙が届いた。

 その中に一通、可愛らしい字で書かれた少女の手紙があった。

 内容はただ一文、「どうしたら世界は平和になりますか」とだけ。

 それは、男が生涯で唯一解けない問題となった。




9.旗


 一人暮らしの老人が孤独死する問題が起きている。

 しかし、だからといって老人の家を毎日訪問して確認なんてできない。

 そこで考えられたのが旗だ。

 一人暮らしの老人には毎朝、玄関先に旗を出してもらう。夕方には旗をしまってもらう。

 昼間に旗が出ていなかったり、夜に旗が出したままになっていたら何かがあったのだとわかる算段だ。

 効果は覿面だった。老人の異変は早急に発見され、孤独死は激減した。

 私の近所にも一人暮らしのお婆さんがいる。

 お婆さんは毎日、旗の出し入れを欠かさず行っている。

 私はお婆さんの家の前を通る度に旗を確認していた。


 ある日、そんなお婆さんの家にパトカーが止まり、人集りができていた。

「何かあったんですか?」

「異臭がするから警察が訪ねてみたら、お婆さんじゃなくて、男が住んでいたらしい」




10.自慢の茶碗


 古くから続く名家。その蔵には貴重な骨董品が沢山あった。

 主人は休日になると近所の人を集めてそれを自慢した。

 主人が披露する骨董品は、近所の人達にはよくわからなかったが、とにかくすごいものなのだろうと、とりあえず褒め称えた。

 その日、主人はとっておきだと言って茶碗を出した。

 なんの変哲もない茶碗だ。

 むしろ、いささか形が悪かった。

 しかし、主人がとっておきだと出したのだ。ただの茶碗の筈がない。

「これは見事な茶碗ですね。色合いが、この間見せていただいた大陸の茶碗と似ているようですが、もしかしてこれも?」

「だとすれば、かなり歴史があるのでしょう。清ですか? 明ですか?」

「素朴でありながら品がある。さぞ名の知れた作り手に違いない」

 皆、口々に誉めそやすが、それを聞いた主人は笑い出した。

 茶碗を指差し、

「それは孫が図工の時間に作ったものだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 良いですね! こういう感じのちょっぴり皮肉のこもったストーリー! かと思ったら最後の話でほんわかした気分にさせられました^^
2011/10/18 22:29 退会済み
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