嫌気がさせば
ある一軒家。小さくもないし、大きくもない。いや、少し小さいか。
しかし、一人暮らしのその男にとっては、ちょうど良い広さであった。
「あ~あ、暇だな」
その男は背もたれの緩やかな椅子に座り、大きくあくびをした。
窓の外には夕焼け空が広がっていた。
男は眠りかけ、やげて目を閉じようとした。
しかし、それはできなかった。
男の座っている椅子の脚の一本が、突然折れたのだ。
男は床に投げ出され、一気に目を覚ました。
「いたた…何が起こったというんだ」
男は椅子を調べたが、不審な個所は見つけられなかった。
「おかしいな。他の脚は大丈夫そうだが」
すると、台所の方で物音がした。
「なんだ」
男が駆け寄ってみると、食器棚の扉が外れ、何枚かの皿が床に落ちて割れていた。
「これは一体…」
男が不思議がっていると、背中の方で金属的な音が響いた。
男が驚いて振り返ると、そこには包丁が落ちていた。
普段は専用のフックにかけて置いてあるのだが、それのネジが外れて落ちたらしい。
「危ないな。欠陥商品だったかな」
男は包丁を拾い上げたが、その包丁の刃はひどく磨耗していた。
「なんだこれは…昨日までは普通だったのに」
しかし、異変はそれだけではとどまらなかった。
ベッドの脚は折れ、物干し竿はたわんで地面に落ちた。
さらにはテレビの映像が乱れ、電源が消えた。
「何が起こっているというんだ…」
男はこの怪奇現象の中で、直感的にあることを悟った。
物が限界に達しているのではないかと。
自分たちは、物を酷使し続け、飽きたら捨てる。
長年愛用してきたものでも、機能しなくなると憐れみなく廃棄する。
彼らは、そんな非情でかつ自分勝手な自分たちに嫌気がさしたのではないか。
そうに違いない。そうとしか考えられない。
他に説明がつくものか。
「でも、こんなの、信じたくない」
彼が現状から目を背けているのをよそに、異変は続いていった。
涙でうるんだ彼の眼には、壁に亀裂が走っていくのが映った。