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森人の詩  作者: すばる
第七章 汝が望むこと
42/49

(3)

 ふうとため息をつく。

「理由は答えられない。でも、本当なんだ。このまま小夜(さよ)は……きっと……」

「私は村を出る気なんてまったくないんだぞ? それでもそういえるのか?」

「言えるよ。君の意思は…関係ないから……」

 どこか遠くを見るような瞳で伊吹は答えた。

 小夜は、開きかけた口を閉じる。しばらく何かを考えているかのようだった。いつもであったならば、小夜は本人が話したくないと思っているということを察知すると、無理に聞き出そうとすることはなかった。

 必要なときがくれば、きっと相手から話してくれると信じていたからだ。

 だが、伊吹にその考えは通用しないことが、もう十分にわかっていた。

 最後の最後まで彼は黙っているのだ。たとえ何があったとしても。そしてそれは、小夜に大きく関わりのあることであると、彼女自身うすうす気がついてはいた。

 今、彼が心の奥底に隠そうとしていることも、おそらく小夜に関係のあることだ。そして、彼はまたいつものように決して自ら話してくれることはないだろう。

 今回の「森告げの巫女」に告げたという小夜の未来について話してくれたのは、たぶん、どうしようもなくなってしまったからに違いない。

 「来ないで」といわれたのに、伊吹の言葉を無視して再びここに来てしまったから…かもしれない。

(私を…ここから遠ざけたいのか?)

 考えても、答えが出てくるものでもない。

 けれど、正面から問うても、伊吹はこれ以上答えてくれることはないだろう。小夜は心の中で小さく息をつくと、別の方面から問いを投げかけた。すなわち、「私はどうなるのだ」と――。

 伊吹は驚愕のあまり言葉をつむぎだせないようで、唖然として小夜を見つめた。

 だが、直に我に返ると、きゅっと唇をかみしめた。

「――言えない……」

 さきほどと同じ様な答えが返ってきた。

 やはり彼は最後まで自分には何も教えてくれるつもりなどないらしい。いや、ひょっとしたらその「最後」すらないのかもしれない。永久に彼は小夜自身に教えてくれることはないのかもしれない……。

 小夜はこんなにも伊吹を信頼しているのに、伊吹は自分のことを信じてくれてはいないのだろうか、と少しばかり悲しくなった。

 何を告げても、それをしっかりと受け止めることができる、と。

 それとも、何か悪いことがおきてしまう、ということなのだろうか……。だから、自分を気遣って何も告げられない、と言っているのだろうか。

 となれば、無理に聞き出すことは、やはりやめたほうがいいのだろうか。

 いろんな思いが小夜の心の中をぐるぐると走り回る。

 自分がどうしたらいいのか、正直、わからなくなってきてしまった。

 

――次代ノ……森人……――


「!」

 頭上から聞こえてきた声に、伊吹は大きく瞳を見開いた。

 小夜はその言葉の意味がわからず、大樹の言葉を繰り返した。

「次の……?」

 森人……。

(森人……? 誰が……)

 はっとなって、伊吹に目をやる。伊吹はすっと視線をそらした。

 そこで小夜は確信した。

 彼が何を恐れていたのか。

 自分の汚れた過去を話すことで、小夜からわざと嫌われるようにしてみたり、「もうこないで」と言ってみたりして、小夜をここから遠ざけようとしていたのか――。

「私が……次の森人になるというのか?」

「違う、違う! 小夜は違うっ!」

 激しく否定すればするほど、そうなのだと肯定することになるのだと、伊吹は気づいていないようだった。

 強い衝撃を受けた小夜は、ふらりとその場に座り込んだ。

 次の巫女に、と収穫祭で発表されたときよりも、心にずしんときた。

「だめだ、だめだっ! 小夜が次の森人なんて、そんなのだめだっ!」

 伊吹は泣き喚いた。

「絶対にだめだっ!」

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