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自分のせいだ……。
強い絶望感と、己への激しい怒り。そして――後悔。
どうしようもなく押さえがたい強い想いは、やがて大きく膨らみ、自分を呑み込んでいってしまう。
そうして伊吹は願ってしまったのだ。
――ここから逃げることができたなら……。
すべてを忘れることができる世界へ、この「現実」とは別の世界に行くことができたなら――。いっそうのこと、死んでしまえたら……。
「ぼくは卑怯な人間なんだ。ここにやってくる魂たちには現実に帰るように説いているのに。ぼくは…現実に帰る勇気もない」
よしんば帰る勇気があったところで、もう外の世界にでることなどできはしないのだけれど、と自嘲気味に伊吹は笑った。
そして、彼はこう付け足した。
「これでわかっただろ? ぼくは汚い人間なんだ…」
もう…ここにはこないで。
彼は最後に小夜にそっと囁いた…。