1/49
序章
遠い遠い昔の日の物語。
人がまだ森と共にあったころのお話。
とある山合いにある小さな村の東に深い森があった。
その森の奥は神が住まう「神域」として、村の者たちが踏み入ることはなかった。
人は決して入ることのできない森の最奥。
そこにいったい何があるのか知る者は――誰もいない。
シャランシャラン……
静かに木の葉が揺れる。
銀色に輝く大樹の傍らで、ひときわ強い光が現れた。
光はふわりふわりと浮きながら、大樹の周りを回る。
そうして、スウッと光を失った。
――また……迷い子か――
低く大樹は呟いた。
シャランシャラン…シャラ…
はかなげな音が静かに響き渡る――。