番外編『ノストラダムス・コード:創世記』第1話「ヒトラーと予言」
【巻頭詩:予言集 第8巻 第59番(1933年偽造版)】
*Le grand Napolitain le pont rompra,*
*Dans l'intérêt des Anglais et des Bretons:*
*L'homme d'Aries par la lune finira,* *Le bleufoncé au ciel plus grand sera tonné.*
訳詩:
大いなるナポリ人は橋を壊し、
イングランド人とブルトン人の利益のために。
牡羊座の男は月によって終わり、
青銅色の空に雷鳴が轟く。
注釈:
1933年、ヒトラーが手にしていた偽造版予言集より。この詩は「第三帝国の運命」を示すと解釈され、ナチス政権の戦争政策を正当化した。
## 1
1933年2月24日、午後8時17分。
ベルリン、ライヒスターク総統官邸の地下会議室。
暖炉の火が赤く揺れ、重厚なマホガニーの机に古びた本が置かれていた。
『ノストラダムス全予言集・1555年初版対照』と金文字で刻まれた革装本。
アドルフ・ヒトラーは、そのページを食い入るように見つめていた。
彼の目の前には、一人の男が立っている。
カール・フォン・シュタイナー。
43歳。銀縁眼鏡をかけた瘦せた体躯、しかし目は異様に鋭い。
彼は、後に「ル・プロフェット」の創設者として知られる男だった。
「閣下、この詩をご覧ください」
カールが指差したのは、8-59番の四行詩だった。
ヒトラーは眼鏡をずらし、独語訳を読み上げる。
「『大いなるナポリ人は橋を壊し……イングランド人とブルトン人の利益のために……牡羊座の男は月によって終わる』」
彼は顔を上げた。
「これは私を指しているのか?」
「ええ、閣下」カールは静かに答えた。
「牡羊座(3月21日〜4月20日生まれ)の偉大な指導者。貴方がまさにそうです。この詩は、第三帝国の運命を示しています」
ヒトラーの目が光る。
「運命?具体的には?」
カールはゆっくりとページをめくった。
次の詩が現れる。
*Par mer frappé du port de Malthe,*
*À la boüe la teste sanglante:* *L'heur de l'Aigle au Lyon sera perdu,*
*Et la flotte à l'Italie destincte.*
訳詩:
マルタ港で海に打たれ、
泥の中で血塗れの頭。
鷲の幸運は獅子に失われ、
艦隊はイタリアで滅びる。
「これは?」ヒトラーが聞く。
「1940年、地中海での敗北を示しています。貴方の海軍は、マルタ島で大損害を受けます。しかし、その後の詩で、貴方は復活します」
ヒトラーは暖炉の火を見つめた。
「予言は、敗北も予見するのか」
「ええ」カールは静かに答えた。
「しかし、最終的には勝利します。最終詩をご覧ください」
カールが本の最後のページを開いた。
そこには、鉛筆で書き加えられた一節があった。
*En l'an mil neuf cens quatre vingt neuf,*
*Le grand Roy d'effrayeur descendra:*
*L'Aigle Germanique à la mort sera pris,*
*Et le monde tremblera de sa fin.*
訳詩:
1989年、恐怖の大王が降臨し、
ゲルマン帝国の鷲は死に捕らわれる。
世界は、その終焉に震えるだろう。
ヒトラーは眉をひそめた。
「1989年?それは私の死から44年後だ。私が死ぬというのか?」
「いいえ、閣下」カールは静かに首を振った。
「これは第三帝国の終焉を示しています。貴方は死にません。貴方の帝国が、1989年に新たな形で復活するのです」
ヒトラーの目が輝いた。
「千年帝国……」
「まさにその通りです」カールは微笑んだ。
「ノストラダムスは、貴方の偉大さを予見しました」
## 2
翌日、1933年2月25日。
国会議事堂放火事件の翌朝。
ヒトラーは、カールを含む側近たちと緊急会議を開いていた。
机には、ノストラダムスの偽造版予言集が広げられている。
「この詩を見ろ!」
ヒトラーが一節を指差す。
*L'an mil neuf cent nonante neuf sept mois,*
*Du ciel viendra un grand Roy d'effrayeur:*
*Resusiter le grand Roy d'Angolmois,*
*Avant après Mars regner par bonheur.*
訳詩:
1999年7月、空から恐怖の大王が来る。
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
その前後、火星は幸福に支配する。
「1999年7月、世界が終わる!」
ヒトラーは興奮して叫んだ。
「その時、我が第三帝国は復活するのだ!」
ヨーゼフ・ゲッベルス宣伝相が目を輝かせた。
「閣下、これは国民に伝えるべきです!」
「そうだ!」ヒトラーは立ち上がった。
「予言は我々を支持している!共産主義者、民主主義者、すべてを打ち砕く運命が決まっているのだ!」
カールは静かに微笑んだ。
彼の目的は、ヒトラーを予言に依存させることだった。
## 3
1939年9月1日、第二次世界大戦開戦の日。
ベルリン、総統官邸。
ヒトラーは、再びカールの前に座っていた。
予言集は、すでにボロボロになっていた。
「カール、この詩はどう解釈する?」
ヒトラーが指差すのは、別の四行詩だった。
*Par feu du ciel la cité presque aduste:*
*L'Vrne, l'Aqueduc perdus, qu'on bruslera:*
*Melite, le chef s'enfuyant espostute,*
*Grand aux esclaves, grand naufrage à son fait.*
訳詩:
天からの火で都市が焼かれ、
ウルネ、導水管が失われ、焼き払われる。
メルリテ、首長は逃亡し、
奴隷たちに大なる破滅をもたらす。
「これはポーランドの敗北を示しています」カールが答えた。
「メルリテはワルシャワ、導水管は交通網です」
ヒトラーは満足げに頷いた。
「予言通りだ。連合軍との和平交渉はどうなっている?」
カールは静かに答えた。
「閣下、予言には和平の道は書かれていません」
ヒトラーは予言集を叩いた。
「その通りだ!イギリス、フランス、すべてを叩き潰す!」
カールは内心で微笑んだ。
ヒトラーは、すでに予言の奴隷となっていた。
## 4
1945年4月28日、ベルリンの地下シェルター。
総統官邸地下深く。
ヒトラーは、震える手で予言集を開いていた。
ページは燃え焦げ、インクが滲んでいる。
「カール……どこだ……」
彼は呟いた。
だが、カール・フォン・シュタイナーはすでにいなかった。
1944年、彼はベルリンを離れ、スイスの銀行に資産を移していた。
ヒトラーは、最後のページを見つめた。
そこには、彼自身が書き加えた一文があった。
*1945年4月30日、地下シェルターにて、第三帝国は終わる。
しかし、1989年、我が鷲は蘇る。*
彼はゆっくりと銃を手に取った。
予言は、成就する。
暖炉の火が消え、地下室は暗闇に沈んだ。
## 5
1945年5月8日、ベルリン陥落。
連合軍の兵士が、総統官邸の書庫から一冊の本を見つけた。
ノストラダムスの予言集。
ヒトラーが最期まで握りしめていたものだ。
兵士の一人、ジョン・ロックフェラー四世が、その本を手に取った。
彼はページをめくり、最後の書き込みを見つけた。
*1989年、恐怖の大王が降臨し、ゲルマン帝国の鷲は蘇る。*
ロックフェラー四世は静かに微笑んだ。
「面白い。父上に持って帰ろう」
その本は、後にニューヨークのロックフェラー財団図書館に収蔵された。
そして、1989年。ベルリンの壁が崩壊した。
予言は、再び動き出す。
【次話予告】
番外編第2話「ロスチャイルドの工場」
1945年、ベルリン陥落直前。
カール・フォン・シュタイナーが、ロスチャイルド家の軍需工場をロックフェラー財団へ「ただ同然」で譲渡する。
予言を口実に、世紀の大スワップが始まる——。
【巻末解説:ヒトラーとノストラダムス】
実際、ヒトラーはノストラダムスの予言に強い関心を持っていた。ナチス宣伝省は、予言集をプロパガンダに利用し、「第三帝国の千年繁栄」を予言として国民に信じ込ませた。
本作では、この史実を基に、予言操作の始まりを描いた。




