第7話 入学式
体育館へと向かい、座席に座ってから数分後、入学式が開始された。
ながったるい校長先生の話に欠伸をしながら、なんとか寝ないように耐える。
すると、高校の生徒会長だという女の子が、舞台の上に立った。
その女の子に、俺は見覚えがあった。
そう、何を隠そう先ほどあった茜のお姉さん、晴美さんだ。どうやら、茜を引き取った里親のところの子らしい。
先ほどまでのふわふわとした雰囲気ではなく、キリッとした、これぞ生徒会長というオーラを、体育館全域に放っていた。
「皆さん、ご入学おめでとうございます」
そんな晴美さんから放たれた挨拶は、オーラとは裏腹にとても可愛らしい声であった。
先ほどまで威嚇してきた猫が突然甘え出すという感じがし、なんだか生徒達が和んだような気がした。
その後は、あるあるといっては晴美さんに可哀想だが、よくある新入生への挨拶の定型文を読み、舞台から降りて自席へと静かに、そして上品に音もなく戻っていった。
その後、入学式はただの睡魔との戦いで終わった。
長ったるい学年主任と、来賓とやらのお偉いさんの話を、それとなく聞き流した。
途中、抑揚のないおじさん達の声のせいで、何度も眠りに落ちかけたが、入学式で寝落ちなど先生に目をつけられてしまうのが確定なので、なんとか耐え忍んだ。
* * *
教室へと戻る最中、綺麗に並んでいた列は移動するにつれて次第にぐちゃぐちゃになり、先頭にいたはずの俺は気がつけば後方の方にいた。
「なんで拓翔がこんなところにいるんだ?」
その時、秋に後ろから声をかけられた。
「気がついたらこんなところにいてな。先頭集団から都落ちしたみたいだ」
冗談めかしてそういうと、秋は「ははっ」と笑みをこぼした。
「それはそれは。あ、そうだ。せっかくならこの後、東京観光しないか?瑞稀とか茜さんとかと一緒に」
秋の提案に二つ返事で了承し、この後に東京内を見て回ることにした。
幸い、今日は入学式のみで、この後に担任の先生からの一言二言を聞いて解放されるはずだ。
この後どこに行って何をしようかなどと妄想をしながら教室への足を進めた。
* * *
その後、案の定教室についてから数分程度で帰りの挨拶をし、足早に茜のところへと向かった。
「なぁ茜、この後空いてるか?」
帰りの身支度をしている茜に後ろから問いかけた。
すると、茜はビクッと体を震わせ、勢いよく俺の方を振り向いた。その顔は若干紅潮していた。
「あ、空いてます!」
「それならよかった。秋と瑞稀と俺の三人で東京観光しようっていう話をしてたんだけど、やっぱり俺達も東京なんて初めてでな。よかったら茜も来ないか?」
そういうと、茜はうんうんと頷いてから「いいですよ」とにこやかに微笑んで、新しい傷ひとつない革製の学生鞄を手に取った。
それと同時に、瑞稀にことの詳細を話し終えた秋が、瑞稀を引き連れて俺たちの方に向かってきた。
「茜さんはどうなった?」
「いけるってさ」
秋にそう言うと、またもや瑞稀と二人で内緒話を始めた。
いいかげん、何を話しているのか気になるな……
「なぁ、ここで茜さんがどれだけの脅威か測った方がいいよな?」
なんていったかは聞き取れなかったが、秋が瑞稀の耳元に向かってそう囁いた。
すると、瑞稀も秋の耳元に顔を近づけ、何やら囁き始めた。
「確かに。いい案だね」
俺と茜は二人がなんて言ったのか聞き取れず、ぽかんとしていた。
この二人がチラチラとこちら側を見ながら話してくるのがさらに怖い。なんか愚痴や文句でも垂れているのだろうか。
「じゃあ行こうか!俺、池袋行ってみたい」
秋はこちらを向き、声を張り上げてそういった。すると、俺のかたにポンと手を置き、教室を瑞稀と共に出ていった。
茜と横並びに歩きながら、俺たちは二人の後を追った。
「池袋ですか。いいですね。ここからもそこまで遠くないので行きましょう!」
茜は、俺たちに向けて元気に、そして明るくそう言った。
初対面の墓場まで行く道であった時の茜よりも、少し心を開いてくれている気がして、なんだか少しホッとした。
茜を見習って、俺も秋や瑞稀に開ききれていない心を開かなくてはならないなと自負するのであった。
* * *
数分ほど歩いて、俺たちは最寄駅から電車に乗車した。
ここら池袋までは電車で一本らしい。
平日の昼間のせいか、電車内には人はまばらであった。秋や瑞稀共に、俺も電車から見える車窓に釘付けになっていた。
何度見ても慣れない高層ビル群に、たくさんの人が行き交うところを、高架を走る電車から眺めるというのはさぞ壮観なものである。
「すげぇ……人がゴミのようだ……」
秋が、どこぞの大佐みたいなセリフで感嘆を漏らす。
すると、茜が「ふふっ」と可愛らしく笑みをこぼした。
「皆さん、少しはしゃぎすぎじゃないですか?」
茜の声には、怒りの印象はなく、俺たち三人を見て面白がっているように感じた。




