第4話 再びの再会。そして、幼馴染の困惑
あれから数日後、本日は高校の入学式であった。
距離と仕事のため、両親は出席できないが、俺は前向きであった。
あのあとも、何度か茜とのメールのやり取りを交わした。すると、茜も俺と同じ高校へと進学するということがわかった。
つまり、茜に過去のことを思い出させる機会はいくらでもあるのだ。
一度大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせてから制服に着替え始めると、俺のアパートの部屋のドアが三回ノックされた。
「おーい、拓翔? 早くしろよー?」
ノックの後、俺の部屋には一人の男の声が響いた。
声の主は、頼樹秋だろう。机に置いてある昨晩用意をした学生鞄を手に持ち、玄関の方へと向かった。
玄関の扉を開けると、最初に秋の姿が目に飛び込んできた。運動部らしい体つきに、何やら参考書のようなものを広げて熟読していた。
秋は見た目の割に勉強熱心で、「ギャップ」という感じで女子からの人気もそこそこある。
秋に「おはよう」というと、秋の後ろから、何やら人影が出てきた。
そこにいたのは秋だけではなかった。
「なんだ、瑞稀も居たのか」
「うん」
そこに居たのは白神瑞稀。俺の小学校の頃からの知り合いだ。
肩ほどの長さのキャラメルブラウンの髪の毛を靡かせ、俺に微笑んでいた。
「おはよう」
「うん、おはよう」
瑞稀は俺の言葉を噛み締めるかのように、一度うんと頷いてから、くるりと振り返ってアパートの階段の方へと向かっていった。
一瞬見えた瑞稀の顔は、何故なのかは分からないが、少し微笑んでいるように思えた。
その顔は、どこか幸せそうで喜んでいるように感じた。
「なぁ秋。なんで瑞稀はあんな嬉しそうな顔してるんだ?」
隣にいた秋にそう問いかけると、「はぁ……」と深いため息を吐かれた。
俺は意味がわからず、キョトンとした顔をした。
「お前、本当にわかってないのか?」
秋にそう問いかけられたが、わからないものはわからないのだ。俺は素直にコクリと頷いた。
すると、またもや秋が深いため息を吐き、俺の方を睨んだ。
「お前ってやつは……まぁいいさ。行くぞ」
秋は無理矢理話を終わらせ、俺の背中をビシッと叩いた。
俺は階段へと向かって歩いていく秋の後を追っていった。
桜の咲く並木道を、俺たちは三人並んで歩いて行く。時折後ろを振り返り、通行人が来ていたら退くようにしている。
そもそも並ばなきゃ良いんじゃないかと思うだろうが、俺達は昔からこうなのだ。今更誰かが後ろにいったりなんてしないのだ。
実のところ、茜と再会してから二人ともう少し深く関わろうかなと考えているのだ。
友好関係の一つや二つ、築く事もできないようでは、茜ともう一度仲良くすることなんて、不可能なんじゃないかと思ったのだ。
その時、温かい春風と共に、目の前に一枚の桜の花びらがひらりと舞い降りた。
桜の花びらは秒速五センチメートルで落ちるらしい。だが、俺はその速度がもっと遅いように感じた。
次の瞬間、目を開けると目の前には茜の姿があった。
「あ、雨宮さん。おはようございます」
茜は俺に気がついたのか、優しく微笑みながらこちらに小さくてを振ってくる。
俺も茜に手を振り返す。
そんな俺たちに、瑞稀と秋は戸惑っているのか、キョトンとした顔をしていた。
「ねぇ拓翔? あの綺麗な女の人って誰?」
制服の袖をちょいちょいと引っ張り、瑞稀が俺に尋ねてきた。
秋も、「おい誰だよ! あの可愛い子!」なんて、間抜けた声で叫びながら俺の肩を揺らす。
「瑞稀、覚えてるか?小学校の時に話た天道茜だよ。秋にも昔話たことあるだろ?」
瑞稀は数秒間、うーんと唸りながら記憶を辿ると、突然はっとしたような表情をした。
「え⁉︎あの小学校の時に拓翔が話してた子? でも、確か事故で死んじゃったんじゃ……?」
「生きてたんだよ。東京でな……」
瑞稀はそう言うと、下を向いて黙り始めた。
すると、突然ばっと顔を上げて、秋に何やら耳打ちをした。
「どうしよう秋。あの子って拓翔の初恋で、今だに拓翔は引きずってるんでしょ? ピンチだよ大ピンチ!」
なって言ってるのかは聞こえていなかったが、瑞稀も秋も顔を赤らめていた。
俺たちが立ち止まっていると、なんでこっちにこないのだろうかと不審に思ったのか、茜がこちらへと近づいてきた。
「おはようございます。雨宮さん。そちらのお二方は……雨宮さんのご友人……でしょうか?特に、お二人は仲が良いのですね」
茜が、今だにくっついて内緒話を続ける二人に、優しく微笑みかける。
声にビクッと反応し、二人は勢いよく離れて茜の方を向く。
「お、おはようございます! 拓翔の幼馴染の白神瑞稀と」
「頼樹秋です!」
二人はコンビ名を紹介するかの如く、ハイテンションで茜に挨拶をした。
すると、茜はそんな二人を見て、ふふっと笑みをこぼした。
「本当、仲が良いのですね」
そんな茜を見て、瑞稀が不思議そうな顔をして、俺の制服の袖をまたもや引っ張ってきた。
すると、瑞稀が俺にだけ聞こえるような小さな声で耳打ちしてきた。
「ねぇねぇ。小学校の時に聞いてた話じゃ茜さんってもっと活発な女の子だったんじゃ……?」
「あぁ、そのことか。実はだな──」
瑞稀だけでなく、秋と茜にも聞こえるほどの声量で、茜の記憶がない、ズバリ記憶喪失状態だと言うことを話した。




