第2話 再会、そして嬉し涙
「ここまで、案内してもらってありがとうございました」
間宮さんが俺にお辞儀をし、優しく微笑みながら礼を述べる。
「あの……これも何かの縁ですし……その……連絡先とかって……」
間宮さんがポケットからスマホを取り出し、口元を隠して少し恥ずかしがりながらそう言う。
断る理由もないので、俺もスマホを取り出して連絡先を交換する。
すると、間宮さんはうれしそうに笑い「ありがとうございます」と、可愛げに述べた。
間宮さんのそんな顔が、なんだか懐かしく思えた。もしかしたら、本当に間宮さんは死んだはずの茜なのだろうか。そんな考えが頭をよぎった。
「あの、どこかであったこととかってありますか?」
恐る恐る間宮さんに尋ねた。
すると、間宮さんはポカンとした顔をし、俺の顔をじっと見つめた。
数秒ほど見つめると、間宮さんは「うーん」と唸りながら俺から少し距離をとった。
「すみません……どこかでお会いしましたか?」
やはり、俺の思い過ごしだったのであろう。
流石に、あの記憶力の良い茜が俺のことを忘れるなんてこと、あり得ないのだ。
ただの同名なだけ。そして、笑い方が茜に似ていただけなのだ。
「いえ、ただの人違いみたいでした」
「……大丈夫ですか……雨宮さん?」
間宮さんが俺のことを心配そうに見つめる。
「大丈夫ですか?」俺はその言葉の真意がわからなかった。なんで急に心配そうにするのだろうか。
その理由は、俺の頬を伝う一滴の雫によって判明した。
そう、俺は無意識のうちに泣いていたのだ。
「……!」
俺は洋服の袖で涙を拭った。
……なんで泣いてなんかしてしまったのだろうか。
なんてそんなこと、考える必要もなかった。茜のことを思い出してしまったのだ。
「全然! 大丈夫です!」
作り笑いを浮かべて間宮さんに微笑みかける。
そのまま何とか間宮さんを押し切り、解散にした。
間宮さんは先にやることがあるというので、俺一人で墓地へと向かうことにした。
墓地内へと入ると、人はほとんどおらずシーンとしていた。聞こえるのは鳥のさえずりと、外から聞こえてくる車の走行音のみであった。
とりあえず、墓地内を探し回ることにした。
墓石をしらみつぶしに見ていくと、とうとう茜達一家の墓を発見した。
墓石には、「天道家之墓」と彫られている。おそらくここに茜たち一家が眠っているのだろう。
……墓石を眺めていると、なんだか目頭が熱くなってきた。また無意識にも泣いてしまっていたのである。
俺は墓に花を手向け、線香をあげた。
その間も、涙は止まらなかった。五年もこの墓参りを待ちわびていたのだ。
葬式にも出られず、茜の最後も見れなかった。その無念は晴れなかったし、今後一生晴れることはないと思う。
それでも、前のときよりも心が軽くなったような気がした。
「また来る」
涙を拭い、墓石を眺めながらその場を後にしようとした。
でも……
まだ話したいことが、もっと一緒に過ごしたかったのに……そんなことを考えるとまた目頭が熱くなってくる。
俺はこの場から去りたくなかった。
そんなとき、俺に声がかかった。
「……雨宮さん?」
その声の主は間宮さんであった。
長く綺麗な黒髪をなびかせて、手には花と線香が握られていた。
俺は乱暴に自分の涙を拭い、間宮さんの方を向いた。
「間宮さん。どうかしましたか?」
優しく、そして平静を保ちながら間宮さんに微笑みかける。
だけど、茜のことを考えると、間宮さんを茜と重ねると……今にも泣きそうになってくる。
でも、これ以上泣いてはだめだ。茜も言っていたんだ「男の子なんだから」って。
俺は涙をぐっと堪える。女の子の前ぐらい、男という生き物は格好つけたいのだ。
「い、いえ……なんで、雨宮さんが私の両親のお墓にって……」
俺は、その瞬間、驚きで身動きが取れなくなってしまった。
間宮さんは確かに言った。この墓が自分の両親のだって。でも、茜のほかに子供はいないはずだ。
まさか……間宮さんは本当に茜なのだろうか。
だとしたら、さっきの態度はおかしいはずだ。
流石に五年間会ってなかったとはいえ、毎日のように遊んでいた子を忘れるわけがない。
先述の通り、茜はただでさえ他の同年代の子記憶力がいいのだ。五年ちょっとで忘れるはずもない。
でも……もしも間宮さんが本当に俺の知っている茜だったら……一%にも満たない確率でも、試してみる価値はある。
それに、その理由は後から聞けばいいのだ。
「もしかして……間宮さんって小学生のときに雪見沢ってところに住んでたり……」
恐る恐る聞くと、間宮さんはコクリとうなずいた。
間違いない。間宮茜は俺の知っている天道茜と同一人物だ。
俺は今までこらえていた涙がぶわっと溢れ出た。他にもたくさんの疑問がある。でも、いまは茜が生きていたという事実が、うれしくてたまらなかった。
急に泣き出した俺を見て、間宮さんこと茜がうろたえているが、関係なしに俺は泣きじゃくった。
まるで子供みたいに。
「あ、雨宮さん⁉ どうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたも。だって……死んだと思ってた幼馴染が生きてたんだ。嬉しいに決まってる」
茜の方を向いて、目に涙を浮かべながらそう言う。
あのころとはガラッと変わってしまったが、よく見れば面影もある。なんで気が付かなかったのだろうか。
けれど、そんな俺とは対照的に、茜はぽかんとした顔を浮かべていた。
俺はそんな茜の行動に嫌な予感がした。
まさか、本当に俺のことを忘れてしまったのだろうか。でも、もしそうなら思い出させればいい。
俺は茜との再会を最悪なものにしたくなく、できるだけ他のことは前向きに考えるようにした。
「ほら、小学校中学年ぐらいのときに、毎日一緒に遊んでた雨宮拓翔だ。覚えてないのか?」
だけど、茜の顔には俺のように再開の喜びによる涙ではなく、警戒の色が浮かんでいた。
なぜだろう。俺と茜は、ずっと仲良くして遊んできた仲だ。警戒なんてするわけない。
なんだか嫌な予感がした。先ほどから茜の言動が俺の経験した過去の出来事と重ならないのだ。
茜は俺から一歩後ずさりして離れた。
どうして警戒するのだろうか。昔なんて一緒にシャワーを浴びてような間柄だ。
茜は少し考えだし、一つの結論に至ったのか、申し訳なさそうに俺の顔を覗いてきた
「五年前、私は大きな事故に巻き込まれて両親を失ったんです」
そんなことは知っている。
そう言おうとした。けれど、何故か口からその言葉が出てこない。茜は今からとんでもないことを言うのだろうと、そう確信したからだ。
「それで……その事故以前の記憶を失ってしまったんです」
その瞬間、俺の心にとてつもなく鋭い矢が、何本も貫通したように感じた。




