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誤解された光

アイソロンの夜は、雪誠が想像していた以上に賑やかだった。 市場の灯火が石畳を照らし、空気には香辛料と酒の匂い、そして異種族の言語が混ざり合っていた。 彼は人混みを抜け、静かな場所を求めて裏路地へと足を踏み入れた。


角を曲がった瞬間、壁際から黒い影が走り抜けた。


「近づかないで!」 その声は低く、警戒心に満ち、獣のような震えを帯びていた。


雪誠は足を止めた。 壁の隅にうずくまる少女がいた。 銀白の長髪、額には小さな角、瞳は紫紅に輝いている。 衣服はぼろぼろで、腕には石をぶつけられた痣が残っていた。


魔族——。


だが、その瞳には狂気も殺意もなかった。 あるのは、疲れと防御だけだった。


「傷つけるつもりはない。」 雪誠は静かに言い、両手を上げて無害であることを示した。


少女は数秒間彼を見つめ、ようやく握った拳をゆるめた。


「あなたは城の衛兵でも、神殿の者でもない……誰なの?」


「旅人だ。」 雪誠は彼女の向かいの石段に腰を下ろし、距離を保った。 「雪誠という。」


「旅人がこんな裏道を通るわけないでしょ。」 彼女は冷笑した。 「迷ったの?それとも……あなたも嫌われ者?」


雪誠は答えず、ただ彼女の瞳を見つめた。


「君は?なぜここに?」


少女はしばらく沈黙し、やがて低く答えた。 「リーヴ。魔族よ。生まれた時から『闇の種』って呼ばれてきた。 でも、誰も傷つけたことなんてない……魔法さえ使えない。」


彼女は自分の手のひらを見つめ、声を震わせた。


「ただ、生きたいだけ。でも、彼らは人間のように生きることを許してくれない。」


雪誠の胸に微かな痛みが走った。 彼は自分の胸に刻まれた契約印を思い出した。 母の沈黙、村人の視線、神の裁き——すべてが蘇る。


「わかるよ。」 彼は言った。


リーヴは驚いたように顔を上げた。


「怖くないの?」


「怖いのは、魔族でも闇でもない。 怖いのは——人が、見ようともせずに、君が何者かを決めつけることだ。」


二人は夜の静けさの中、黙って座っていた。 遠くから神殿の鐘の音が響く。 まるで、彼らとは無関係であるかのように。


その瞬間、雪誠は悟った——自分だけが異端ではない。 リーヴもまた、誤解された者だった。 彼らはもう孤独な異端ではない。 互いにとっての鏡となったのだ。

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