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すれ違い
家を離れた春、雪誠は十七歳だった。 彼は手紙も残さず、別れの言葉も告げなかった。 ただ、簡素な荷物を背負い、古びた経典と一本の木剣を持って、山深くへと踏み出した。
ある朝、山腹で剣の稽古をしていた雪誠は、遠くから鐘の音と人々の声を耳にした。 崖の縁に立ち、眼下を見下ろすと、宝奥村の広場に多くの人影が集まり、村の入口には数頭の白馬が止まっていた。
目を細めて見ると、銀の鎧をまとい、腰に聖印を佩びた者たち——伝説の勇者団だった。
彼は山を下りなかった。 自分の身に刻まれた契約の印が、誤解と追放を招くことを知っていたからだ。 それでも彼は崖の上に立ち、村人たちが勇者団を囲み、敬意と歓喜に満ちた表情を浮かべる様子を見つめていた。
彼は復讐を望んではいなかった。 村を滅ぼすことも、誤解した人々に報復することも、彼の願いではなかった。 彼が望んだのは——
彼らのように、尊敬されること。 彼らのように、人を守れること。 彼らのように、母に誇らしげに見つめられること。
だが彼は知っていた。 自分は勇者ではない。 契約者——神に忘れられ、人に誤解される存在なのだ。




