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彼女も言った

焚き火の光が徐々に消え、残るは赤く染まった灰だけ。 夜風が静かに吹き抜け、咆哮の余韻をさらっていく。


雪誠はその場に立ち尽くしていた。 呼吸はまだ整わず、 彼はリーヴを見つめていた。 それは裁きの瞬間を待つようであり、 救いを求めるようでもあった。


リーヴは顔を上げた。 瞳にはまだ涙の光が残っていたが、もう震えてはいなかった。 彼女は彼を見つめ、 まるで何かを壊さないように、静かに言った。


「これ……私のために、わざわざ学んだの?」


雪誠は迷わず、頷いた。


彼女はしばらく彼を見つめ、 そして、ふっと微笑んだ。 その笑みは、霧が晴れた後の月光のように—— 優しく、少しだけいたずらっぽかった。


彼女は一歩近づき、 彼の耳元に顔を寄せ、魔語で囁いた。


「Zuur’vel・Ghra’khan。」


雪誠は驚き、眉をひそめた。 その意味を探ろうとするように。


リーヴは何も説明せず、 ただ一歩下がり、微笑んで、テントへと向かった。


「おやすみ。」 彼女は言った。


雪誠はその背中を見つめながら、 その言葉の響きとリズムを何度も心の中で繰り返した。


意味はわからない。 だが、それが——自分に向けられた言葉だということだけは、確かだった。


焚き火は消え、夜は静寂に包まれる。 雪誠は石のそばに座り、 膝の上には魔語の巻物。 だが、一ページもめくることができなかった。


テントの中からは、穏やかな寝息が聞こえる。 リーヴはすでに眠っていた。 彼女はあの言葉を残し、説明もせず、振り返ることもなかった。


「Zuur’vel・Ghra’khan。」


彼はその言葉を繰り返した。 音節の中に、答えを探すように。


その時、馴染みのある気配が近づいてきた。 赤虎が森から姿を現す。 足取りは軽く、瞳はきらめいていた。


「言ったの?」 彼女は尋ねた。 その声は冗談めいていたが、どこか優しさもあった。


雪誠は顔を上げ、複雑な表情で答えた。 「言った。」


「彼女は、どう返した?」


雪誠は少し黙り、 そして低く答えた。


「彼女は——Zuur’vel・Ghra’khanって言った。」


赤虎は目を瞬かせ、 そして笑った。


「そう……ふふ。」


彼女は翻訳もせず、問い返すこともなかった。 ただ彼の隣に座り、夜空を見上げた。


雪誠は彼女を見て、尋ねた。


「意味、教えてくれないのか?」


赤虎は伸びをしながら、軽く言った。


「もう、わかってるんじゃない?」


雪誠は眉をひそめた。


「わかってない。」


赤虎はさらに深く笑った。


「なら、彼女に聞いて。私じゃなくて。」


彼女は立ち上がり、彼の肩を軽く叩いて、 森へと戻っていった。


雪誠はその背中を見送りながら、 心の中はさらに混乱していた。


彼は低く、もう一度その言葉を繰り返した。


「Zuur’vel・Ghra’khan。」


そして、ふっと笑った。 理解したからではない。 ただ——次に彼女がその言葉を口にした時、 今度こそ、心で聞き取れる気がしたから。

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