剣が振り下ろされる前に
勇者が剣を掲げるたび、魔獣は咆哮する。 村人は叫び、神官は祈り、剣の光は裁きの炎のように閃く。
だが——剣が振り下ろされる前に、 必ず二つの影が現れる。
雪誠とリーヴ。 彼らは、いかなる神殿にも属さず、いかなる王国にも忠誠を誓わない。 勇者を止めることもなく、魔獣に加担することもない。 ただ、近づいていく。 誰も耳を傾けようとしない声を、静かに聞くために。
魔獣は時に、傷ついた守護者。 時に、追放された種族の残党。 時に、痛みに迷い、言葉を失い、咆哮しかできない魂。
雪誠は跪き、手を地に置く。 契約印が微かに光を放つ。
リーヴは彼の隣に立ち、古語を低く唱える。 空気に満ちた怒りが、少しずつ静まり始める。
魔獣の瞳が変わる。 狂気から困惑へ。 そして——悲しみに近い静けさへ。
咆哮は止み、衝突も消える。 魔獣は静かに、森へ、谷へ、深淵へと戻っていく。
勇者たちは理解できず、神官たちは疑念を抱く。 だが、村人たちは覚え始める。
咆哮を鎮める者たちは—— 殺すために来たのではない。 聞くために来たのだと。
雪誠はかつてこう言った。 「すべての咆哮が邪悪なわけじゃない。 中には、痛みが長すぎただけのものもある。」
リーヴはこう言った。 「私たちが聞かないなら——誰が聞くの?」
彼らは名を残さない。 感謝も受け取らない。
だが、勇者が剣を掲げる場所には、 魔獣が咆哮する限り—— 彼らは現れる。
剣が振り下ろされる前に。 世界に、もう一つの選択肢を残すために。




