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亀裂の始まり
その日の夕暮れ、雪誠は山林から戻ってきた。 顔にはまだ泥と汗が残り、手には神の紋章が刻まれた石板を握っていた。 彼は渓流のほとりでそれを見つけ、心に希望を抱いていた。
しかし、村の入口にはすでに人々が集まっており、空気は異様な緊張に包まれていた。
「そいつだ!」 教師が雪誠を指差し、鋭い声で叫んだ。 「私の家が盗まれた。今日村にいなかったのは彼だけだ!」
雪誠は呆然とし、手の中の石板を落としそうになった。
「ぼくは……ぼくはあなたの家に行っていません。山にいたんです……」
「まだ言い訳する気か?お前の父親も昔、神殿をうろついていた。今度はお前か?」
人々はざわざわと囁き始め、視線が冷たく、見知らぬもののように変わっていく。
雪誠は母の方を振り返った。 彼女は人々の後ろに立ち、顔色は青白く、何も言わなかった。
「母さん……ぼくのこと、信じてくれるよね?」
彼女は答えず、ただ静かにうつむいた。
その瞬間、雪誠の胸は重い鉄槌で打たれたように痛んだ。 疑われたからではない。 母の沈黙が、何よりも彼を傷つけたのだった。




