刻印の下で
アイソロンの城外、「黄昏の息」宿屋。 夜は更け、風の音は厚い木の窓に遮られ、室内には蝋燭の微かな光と、二人の呼吸だけが残っていた。
雪誠はベッドの端に座り、リーヴに背を向けたまま、長い沈黙を保っていた。 彼のマントは椅子の背に掛けられ、湿気はまだ残っていた。 彼は自分の手のひらを見つめ、指先がわずかに震えていた。
「あなた、ずっと何かを隠してる。」 リーヴは向かいの長椅子に座り、静かだが鋭い声で言った。 「あなたが普通の信徒じゃないこと、わかってる。」
雪誠は否定しなかった。 ただ、ゆっくりと立ち上がり、蝋燭のそばへ歩み寄った。
「君は言ったよね。僕は苦しんでもいいって。」 彼は低く語った。 「だから、君にも見せたい……僕の痛みの根源を。」
彼はシャツのボタンを外し、蝋燭の光が彼の胸元を照らした。 左半分には黒い紋様——燃え上がる呪文のような印。 右半分には銀白の光痕——神聖な羽のような印。 二つの印は交差し、一つの魂に無理やり刻まれた二つの運命のようだった。
リーヴは息を呑んだ。
「これが僕の契約印。」 雪誠は言った。 「左は魔王との契約。右はキティの応答。」
「ずっとこれを背負って……ここまで来たの?」
「力を使うたびに、何かが削られていく。 肉体じゃない。信念だ。」
彼は胸元を見つめ、風のように軽い声で言った。
「それでも、僕は歩くことを選んだ。 強いからじゃない。 ただ……この印を、呪いだけにはしたくなかったから。」
リーヴは立ち上がり、彼に近づいた。 その瞳には複雑な感情が揺れていた。
「あなたは、本当の姿を見せてくれた。」 彼女は低く言った。 「だから、私も——あなたに私の本当の姿を見せる。」
彼女は一歩下がり、目を閉じて深く息を吸った。
次の瞬間、空気がわずかに震えた。 彼女の姿が変化し始めた——指先が伸び、肌には銀灰の紋様が浮かび、耳は獣の形に長くなり、瞳は琥珀色に輝き、月下の獣のような瞳孔が現れた。 背には半透明の霊質の翼が浮かび上がる。 それは獣の魂であり、古の守護者のようでもあった。
彼女は完全な魔族でも、純粋な獣でもなかった。 彼女は捨てられた血脈、誤解された存在。 だが今、彼女は何も隠さず、雪誠の前に立っていた。
「これが、私の本当の姿。」 彼女は言った。 声はかすれていたが、恐れはなかった。 「誰にも見せたことがない。 見せれば、皆叫び、逃げ、剣を抜くから。」
雪誠は一歩も退かなかった。 ただ静かに彼女を見つめ、その瞳は優しかった。
「僕は逃げない。」 彼は言った。 「だって、本当の姿こそ——記憶に残るべきものだから。」
リーヴは目を伏せ、唇がわずかに震えた。
「怖くないの?」
「怖いのは君じゃない。」 雪誠は静かに言った。 「怖いのは——君が、自分が見られる価値があると信じられないこと。」
彼女は顔を上げ、その瞳には微かな光が宿っていた。
二人は蝋燭の光の中に立ち、契約印と獣の姿が交差し、運命と選択が交差した。
その瞬間、彼らはもはやただの旅の仲間ではなかった。 互いの証人。 互いの器。 互いの「家」だった。




