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彼女の応答

黒塔の頂、風雪はすでに止んでいた。 雪誠の言葉はまだ空気の中に残響として漂っていた。 彼は遠くを見つめ、低く、しかし優しく語った。


「リーヴ……もし君が望むなら、僕は君にここにいてほしい。」


それは「一緒に来て」でもなく、「君が必要だ」でもなかった。 それはただの招きだった——彼女の“存在”への、静かな肯定。


「帰ってこい」ではなく、 「僕のそばにいてもいい。もう逃げなくていい。」


——それは彼女への言葉であり、同時に彼自身への言葉でもあった。


リーヴは石段に立ち、静かに彼を見つめていた。 心臓の鼓動は早く、風の冷たさではなく、あの言葉のせいだった。


彼女には「家」がなかった。 生まれた時から、彼女は追われる存在だった。 逃げることに慣れ、隠れることに慣れ、信じられないことに慣れていた。


だがその瞬間、彼女はふと思った—— もし彼のもとへ歩み寄れば、そこには神殿でも種族でもない、 ただ「止まってもいい場所」があるのではないかと。


彼女は石壇へと歩み出した。 その足取りは軽やかでありながら、確かなものだった。


雪誠は振り返り、彼女の瞳を見た。 そこには、もはや警戒も疑念もなかった。 あるのは——柔らかな決意。


「あなたは、私が誰かを知っている。」 彼女は静かに言った。


雪誠は頷き、口を挟まなかった。


「それでも、私があなたの隣に立つことを望んでくれる。」 彼女は彼を見つめ、瞳に微かな光を宿した。 「だから……私も試してみたい。 あなたの隣に立つということが、どんな感覚なのか。」


彼女は手を差し出した。 掌にはまだ血の痕が残っていた。 それでも、彼女は迷わなかった。


「信仰のためでも、世界のためでもない。 ただ……あなたに近づきたい。」


雪誠はその手を握った。 契約印が微かに光を放つ。 それは灼熱の呪いではなく、 どこか温かな、応えるような光だった。


彼は何も言わず、ただ静かに頷いた。


その夜、黒塔の頂には—— 世界に拒まれた二人が、肩を並べて立っていた。

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