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宣言の夜

夜が深まり、黒き塔の頂では風が唸りを上げていた。 雪誠は石の祭壇の中央に立ち、背後には渦巻く黒霧、前方には遠くの村の微かな灯火が揺れていた。 彼のマントは風に裂かれ、胸の契約印は淡く光を放っていた。


彼は誰かに語りかけているわけではなかった。 演説でもなかった。 それは——神に、魔に、そして自分自身への宣言だった。


「僕は勇者じゃない。」 彼は低く語った。 だがその声は、谷間に響き渡った。


「人々に愛されてはいない。 彼らは僕を『悪魔の使徒』と呼び、神殿の門前で拒み、疫病のように避ける。」


彼は顔を上げ、星空を見つめた。 その瞳には、揺るぎない意志が宿っていた。


「それでも、僕は世界を救いたい。 栄光のためでも、復讐のためでもない。 ただ——魔王にも救いがあると、僕は信じているから。」


彼は一歩一歩、祭壇へと歩みを進めた。 その足取りは重く、確かなものだった。


「僕は僕だ。 真田雪誠。 宝奥村の村人。 人々の目には異端。 勇者の敵。」


彼は立ち止まり、胸の契約印に手を添えた。


「そして——魔王を救う者だ。」


風が止み、霧が静まり、黒き塔全体が息を潜めたようだった。


「僕はキティの使徒。 選ばれた者ではない。 自ら信仰を選んだ者だ。」


彼は背を星空に向け、黒霧を見据えた。


「もし神がまだ僕の声を聞いているなら—— どうか、この道を見届けてほしい。」


彼は遠くを見つめ、声は低く、しかし優しく響いた。


「リーヴ……もし君が望むなら、僕は君にここにいてほしい。」


雪誠はそっと息を吐いた。 その瞬間、彼の瞳は変わった。 冷たい氷ではなく、懐かしい柔らかな光に。


それは、あの春の日—— 畑の端で静かに弁明していた時の眼差し。 神像の前で、世界に誤解されないよう祈っていた時の眼差し。


彼の声も変わった。 毒舌でも、裁きでもない。 低く、温かい響き。


彼は石の祭壇に立ち、マントは破れ、契約印は微かに光る。 だが、彼はもはや魔王の使徒ではない。 キティの契約者でもない。


彼は雪誠—— 泣くことを許し、信じることを選び、歩むことを望む者。


彼はようやく「帰ってきた」。 過去にではなく—— 自分自身に。

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