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侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~  作者: 蒼黒せい


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終幕~わたしはもう死に戻らない⑦~

「なっ!」


まさかの差出人にウルスラは驚きの声を上げた。


フェリクスはいつもの張り付けた笑みに代わり、オーティスは手紙を睨みつけている。


一体どうやって手紙をユーリスに渡したのか。ユーリスの様子からして、受け取ったわけがない。すぐ近くにはオーティスもいたのだ。フェリクスも周囲に目を光らせていた以上、モートンがいたという可能性も低い。


ではどうやって?しかもユーリスに一切気付かれずに、ポケットに手紙をねじ込むことができたというのか。その疑問に、フェリクスが答えた。


「やられたね。おそらく裏ギルドの連中の仕業だ。道ですれ違う一瞬に手紙をポケットに差し込んだんだと思う」

「そんなことが可能なんですか?」

「そのくらいはね。例えば…ほら」


そう言ってフェリクスが手を上げると、そこにはユーリスの手にあったはずの手紙があった。盗られたユーリスは目を見開き、すぐに自分の手元を見るもそこには手紙は無い。ウルスラも、ユーリスの手とフェリクスの手を見比べるが、一体いつの間に盗ったのか、全く気付かなかった。


恐るべき早業だ。こんなことができるというのなら、気付かれずにポケットの差し込むくらいわけないのかもしれない。


「まぁ手口は察しが付く。問題は中身だ。一体彼は、何を伝えようと手紙を書いてきたのか、だ」


そう言ってフェリクスは手紙をユーリスに返した。受け取ったユーリスは、まるで汚物を扱うかのように、指先でつまんでいる。


その表情からも、こんな手紙読まずに捨てたいという気持ちがありありとしている。とはいえ、わざわざ向こうから来た手がかりだ。捨てるわけにもいかないという苦悩が、そのつまんだ指先に表れていた。


ユーリスからすればもう過去の男。そんな男が、自分あての手紙を書いてきて、それを読まなくてはいけないとか、どんな拷問だと訴えたいだろう。


しかし、この手紙の中身次第で、敬愛するウルスラを助ける手立てを得るかもしれないのだ。彼女は断腸の思いで封を切り、便箋を取り出した。


「……………読みます」


ユーリスが読み上げた手紙の内容は、それはもう……ひどいの一言に尽きる。


ユーリスがウルスラに脅され言いなりになっていて可哀そうだということから始まり、そこから怒涛の恋のポエムがつらつらつらつらと。読み上げるユーリスはもちろん、聞いている他の三人も、今すぐに耳を引きちぎりたい心境に駆られながら、なんとか我慢した。


そして最後の部分に、モートンはウルスラを殺し、ユーリスをウルスラの呪縛から解放する。そのために、まずは自分の元に来てほしいと、指定の場所・時間にモートンが待っているという記載があった。手紙の9割5分駄文だったことに、ユーリスは怒りの表情に染まっている。


「~~っ!!!」

「…ユーリス、気持ちは分かるけどまだ大切な手がかりだから破いて捨てないでね?」

「………はい!」


ウルスラになだめられ、ユーリスはかろうじて力の入りまくった手から手紙を離した。それを受け取ったオーティスは、くしゃくしゃになったところを適当に均すと、さっさと封筒に戻す。そして、濡れたわけでも汚れたわけでもないのに、手をハンカチで拭ったのである。


見ると、ユーリスも手を拭ってた。もはや汚物扱いではない。汚物だ。いや、呪物と言ってもいいかもしれない。


(もう二度と読み返したくない…いや、開きたくない手紙だわね。まぁ内容を覚えておけば……うう、背筋がぞわぞわするわ)


思いだすのもイヤだが、思いださないと対策が練られない。矛盾した気持ちに苛まれながらも、ウルスラは気を引き締めた。


「…とりあえず、モートンはユーリスを手元に置きたいようね。その上で、私を殺したいと、そう考えていると」

「ずいぶんと杜撰な計画ですね。手紙で堂々とそんなことを言うなんて、やっぱりあの男の考えることは分かりません」


そう、杜撰だ。あまりにもひどすぎて、逆に罠なんじゃないかと疑いたくなる。そこまで頭が回らない男だったのかと、今更ながらにちょっと心配になってきた。


ウルスラとユーリスが顔を見合わせてう~ん…とうなっていると、横のオーティスから声がかかる。


「…………あの、思うのですが」

「何?」

「…その手紙、本当はユーリス一人で読まれる前提だったのでは?おそらくあの男の中では、自分からの手紙を受け取ったユーリスが喜び、部屋で一人でこっそり読まれるものだと。ユーリスが脅されているという前提ですからね。だから、早々にお嬢様に知られてしまうのは想定外かと」

「…………それもそうね」


そう思えばつじつまが合う。ウルスラの前で手紙が読まれることを前提にこんなことを書いていたのだとすれば、とんでもない策士と言える。疑心暗鬼に陥り、こちらをかく乱させるつもりだったと思うこともできただろう。


真相はなんてことない、ただの頭お花畑が勘違いと妄想を駆使して書いただけにすぎないのだ。深読みするだけ馬鹿を見るのはこちらになってしまう。


なんだか呆れてため息をついてしまうと、それまで沈黙を守っていたフェリクスが口を開いた。


「…彼一人なら、妄言と切りすてて考えてもいいんだけどね。その背後に裏ギルドが控えていると考えると、そう楽観視もできないかなぁ」

「あ、そうですね…」


そうだ、モートンの背後には裏ギルドがいる。少なくとも、裏ギルドはモートンがどうしたいのかを把握し、その上で動いているはずだ。だからユーリスに手紙を届けた。


いずれにせよ、現時点ではモートンがどうしたいのかは分からない。ユーリスを取り戻したいのと、ウルスラを殺したいことだけは分かるが、具体的な動きはまだまだ不明だ。


そうなると、やはり現状の最善手は、ユーリスがモートンと接触することになるだろう。だが、嫌悪が最高潮に達しているユーリスにそれを強いるのは酷である。


何か別の手は無いか…そう考えていると、ユーリスは覚悟を決めた顔をウルスラに向けた。


「お嬢様。私、あの男に会ってきます」

「…ユーリス、無理しなくてもいいのよ?」

「いいえ。お嬢様の身の安全を守れるのなら、この程度無理のうちにも入りません。それよりも、あの男から計画を聞き出し、それを逆手にとって今度こそ始末しましょう」


胸の前で拳を握り固めたユーリスの覚悟は本物だ。ウルスラのためにそのくらいやってのけようという覚悟を前に、ウルスラはそれ以上何も言えなかった。


ユーリスが覚悟を決めた一方で、ウルスラは何もできない。それが歯がゆく、つい膝に置いた手に力が入る。その手に、そっとフェリクスの手が乗せられた。


顔をフェリクスに向けると、彼は少し眉尻を下げた困ったような笑みをしている。


「ウルスラ、まだ気負わなくていいよ。おそらくだけど…君にしかできない、大仕事がある。だからその時まで、君の覚悟はとっておくべきだ」

「フェリクス様……」


フェリクスはその先を読んでいるのだろう。その上で、自分ではなくウルスラにしかできないことがあると断言した。


なら、その言葉を信じよう。ウルスラにしかできない役目を全うするために、このもどかしい気持ちを今は心にとどめておく。いつか来るその時を待って。

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