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侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~  作者: 蒼黒せい


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終幕~わたしはもう死に戻らない⑥~

 めでたくフェリクスとウルスラの婚約が済み、今日は二人でデートをしている。


 王都で人気のカフェに入り、二人はテラス席で仲良くランチを楽しんでいた。なお、少し離れた席にユーリスと、今日の従者役であるオーティスもいる。


 流石人気のカフェだけあって、雰囲気もランチも質が高い。部屋の広さやテラスのスペースに対し、席数はかなり少ない。それだけに席と席の距離も広く、客同士のお喋りが聞こえづらい配慮がなされている。


 店内は季節の花束で彩られ、美しいガラス細工も飾られている。そのガラス細工の職人は、ウルスラもお気に入りのガラス職人であり、最新作だというそれは、見事な鷹をかたどったガラス像だった。気高く翼を広げたそれは、雄々しさを見事に再現していると同時に、間違って落としたら粉みじんになりそうな恐ろしさも秘めている。


 カフェオススメのメニューは、ランチプレートという代物だった。たった一枚のプレートに、料理が全て盛り付けられている。個別で盛り付けるのと異なり、全て盛り付ける様は全体のバランスが難しいはずだ。それなのに、見事な色彩の調和でもって、目で楽しませてくれる。


 今日のオススメは子羊のローストに季節の野菜のテリーヌだ。白パンも添えられ、スープだけは別にマグカップに注がれている。中身はアサリのクラムチャウダーだ。デザートは今が旬のリンゴのコンポート。


 ウルスラはそれぞれに舌鼓を打っていると、フェリクスがじっと見ていることに気付いた。最近のフェリクスは、ウルスラを見るときいつも穏やかな顔をしている。その表情を向けられるのが自分だけだと四つ子に教えられて以来、自分だけのフェリクスがそこにいるような感じがして、嬉しかった。


 とはいえ、じっと見つめられれば、恥ずかしくなってることに変わりはない。だから、いつもウルスラはそのことについて話しかけてしまう。


「フェリクス様、そんなじっと見つめられては恥ずかしいですわ」

「仕方ないじゃないか、可愛いんだもん」

「……………もう」


 ポッと顔を赤くしたウルスラは、誤魔化すようにテリーヌを口に運んだ。


 丁寧に下処理された野菜は歯応えと汁気が見事に閉じ込められ、噛むたびに旨味が溢れる。野菜を包むゼラチンのスープも見事で、口の中で崩れながら舌に感じる野菜たちのエキスは、絶品の一言だ。


 最初こそ動揺して頭を真っ白にしていたウルスラも、何度もフェリクスに褒められれば、耐性も付くというもの。今は顔を赤くするだけにとどめられるようになったのだから、進歩といえよう。


 なお、今回のデートはただのデートではない。


 モートンの動向を探るため、わざとウルスラを衆目のある場にさらしてその様子を見るためだ。


 あれからモートンがどうしているかは、依然とつかめずにいた。4つ子も奮闘しているが、フェリクス曰く裏ギルドの拠点はいくつかあり、最初にモートンが入った建物と別の建物は地下でつながっているものもあるという。


 地下で行き来されてはどうしようもない。範囲が広がりすぎる。結局、モートンを探ることを諦め、むしろウルスラを餌として食いつかせようという手段にでた。


 発案者はもちろんウルスラ。ユーリスと4つ子は止めたが、持久戦を強いられては先に参るのはウルスラ側だ。4つ子とて、常に緊張を強いられては肝心なときに緩みかねない。


 それでこうして、わざわざテラス席があるカフェを利用しているのだが、周囲に怪しい気配はない…らしい。


「…何もありませんね」

「まぁさすがにそうすぐに動いてくるとは思えないけどね。ただ君の死に戻りの中で、彼は街中でも平気で刺してきたそうだから、油断はできない。彼の容貌は良くも悪くも目立つから近づいてくればすぐ分かる。今は大丈夫さ」

「はい」


 自分で発案したのだ。当然ビビってはいられない。それに、目の前にフェリクスがいるし、護衛もいる。絶対に大丈夫だ。


 その後、ランチを終えた二人は王都の宝飾品店や、服飾店を見て回った。ついでとばかりにフェリクスからウルスラへ、ブラックダイヤの付いたネックレスがプレゼントされる。


 ブラックダイヤ。それはフェリクスの瞳の色であり、それを纏うということは、フェリクスの色を纏うということ。それが何を意味するか知らないほど、ウルスラはもう初心ではない。


 ブラックダイヤは希少中の希少品だ。その値段は並の宝石の30倍以上で、滅多に出回っていない。それをフェリクスは、呼吸をするかのようにウルスラにプレゼントした。


 いくら侯爵令嬢のウルスラでも、ブラックダイヤは持っていないし、見たことも初めてだ。そんな高級品を受け取るなんてと一瞬ためらう。しかし、渡そうとするフェリクスがそれはそれは嬉しそうな顔をしていたので、ためらいの心はすぐさま頭から投げ飛ばした。


「付けてもいいかな?」

「……はい」


 ネックレスを手にしたフェリクスが、ウルスラの向かい合わせに立って少し膝を曲げ、その首にネックレスを掛けた。当然、二人の顔はこれまで以上に接近することとなり、今回ばかりはフェリクスもほんのり頬を染めている。


 そんな甘い空気に、宝飾店のオーナーとユーリスは温かいまなざしで2人を見つめ、オーティスはちょっと気まずそうに視線をそらしている。彼の気まずさは、ウルスラよりもフェリクスのほうに原因があるのだが。


 そうして、何事も起きず、二人はただ楽しいデートをするだけになってしまった。


「何も起きませんでしたね」

「それならそれでいいさ。今日のデートは、楽しかったかい?」

「っ……はい、楽しかったです」


 デート。改めてそう言われると、また照れてしまう。フェリクスと一緒に居るときは、照れっぱなしだ。どんな時もフェリクスがウルスラを優しい目で見ているせいである。


 ウルスラがフェリクスに目を向けると、必ず目が合う。見られていたと気付けば、それが恥ずかしくないわけがない。自分以外を見てほしいと言っても、フェリクスは「君をいつも瞳に映していたいんだ」なんて言われたら、何も言えない。


 一応、フェリクスとしては常にウルスラに何か仕掛けてくる怪しい人物がいないかという意味合いも兼ねているが、せっかくのデートでそれをバラすほど、彼は無粋ではない。


 帰りの馬車の中。4人が座った車内の雰囲気は、なんとも奇妙なものだ。フェリクスとウルスラは言わずもがな。ユーリスはそんな2人を温かく見守り、オーティスは無表情である。


 二人にずっと付いてきたユーリスとオーティスに、ウルスラは声を掛けた。


「ありがとう、二人とも。二人は楽しめたかしら?」

「はい。お嬢様が本当に楽しそうで何よりです」

「同じく」

「もう……」


 そういうことが聞きたいわけではなかったのに、そう言われては何も言えない。本当は彼ら自身も楽しんでほしかったが、さすがに職務中の二人にそれを望むのはわがままが過ぎるか。


(今度はオフの時に、ユーリスと一緒に楽しみたいわね)


 そんな風に思っていると、フェリクスがユーリスを見ていることに気付いた。その目は真剣で、何かあったのだと感じさせる。


「フェリクス様、どうなさいました?」

「…ユーリス、君のそのポケットの紙は何かな?」

「えっ?」


 フェリクスの言葉に、ユーリス以外の3人の視線が全てユーリスへと向けられる。突然呼ばれたユーリスはあたふたと混乱し、フェリクスに言われたポケットに手を突っ込んだ。


 侍女服のスカートに縫い付けられたポケット。そこにユーリスが手を突っ込むと、カサッと音が聞こえた。


「えっ……?」


 ユーリスはその紙に覚えが無いようで、驚きながらゆっくりとポケットから取り出した。紙と指摘されたそれは、やっぱり紙だったが、手紙だった。少しシワになっているが、未開封である。


「あれ?手紙なんて、入れた覚えは……」


 不審に思いながらも、ユーリスは手紙を手の中で回した。その顔は、本当に心当たりが無いようで不思議そうにしている。


「フェリクス様、良く気付きましたね」

「ちょっとだけ、紙の擦れる音がしたからね。行くときには聞こえなかったから、もしやと思ったけど……それで、差出人は誰なんだい?」

「あっ、はい…ええと…」


 手紙の裏をユーリスは見た。


 その顔が徐々に険しくなっていく。それだけで、車内の緊張も同時に高まっていった。


 ごくりと、ユーリスはつばを飲み込む。そして、差出人の名を告げた。


「…………モートン、からです」

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