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侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~  作者: 蒼黒せい


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序幕~必ず殺してくる男⑤~

「うっ………ああ…………」


 再び9歳に死に戻りしたことに気付いたウルスラは、うめき声をあげて布団にくるまった。


(何で…何で、何で、何で、何で…!……何で私は死ねないの?)


 死んでいるのに死ねない。どうしてこんなにも辛い思いをしないといけないのか、理解できなかった。


 三度死の苦しみを味わい、そのたびにモートンの恐怖に支配された人生に、ウルスラは目覚めた時点で生きる気力が無かった。


(どうせ殺されるのなら………もう、何もしたくないわ)


 布団にくるまったままの無気力なウルスラを見つけた侍女は、何事かとウルスラの両親を呼びに走った。


 娘の思わぬ姿に両親は驚き、なんとか力づくで布団を娘からはぎ取ると、娘を抱き締めた。


 抱き締められるぬくもりに、ウルスラは二度両親を殺されたことを思いだす。このぬくもりをもう失いたくない。喪う辛さはもうコリゴリだ。それだけを想い、ウルスラは生きる気力を取り戻した。


(今度は…もうお父様もお母様も失いたくない。そのためには…どうすればいいかしら?)


 それからウルスラは、両親と執事長が殺されたときの状況を必死に思いだそうとした。そして、殺された時は領地で行われるお祭りに参加するため、出掛けた時に起きていたことに気付く。


(私が14歳の時、お祭りに参加するための道中で盗賊に襲われて殺されているのよね。しかもなぜかその時に限って護衛が体調不良を起こして、警護の人数も減っていた。だから、なんとかしてお祭りへの参加を見送ってもらわないと)


 おそらく、たまたま張っていた盗賊に襲われたのだから、その日を避ければ大丈夫のはず。これでもう、両親を失う辛さから逃れられるはず。そう確信して、その時を待った。


 それに、両親が助かれば、自分の命も助かるかもしれないという淡い期待もある。


(モートン様が私からすべてを奪うためには、爵位を持つお父様の存在が邪魔だった。だから、お父様がそのときに死ななければ、私を殺してもヴィンディクタ家を奪うことはできなくなるはず。そうなれば、モートン様も私を殺さない…かもしれないわ)


 自分で考えて、その可能性は低いだろうと思った。


 モートンのウルスラを殺すことへの執着は異常だ。死に戻りの一度目では両親が生きていても、ウルスラを殺されている。それでも、ウルスラはもう両親が殺されたという知らせを聞きたくない。その一心で、ウルスラは両親の生存を願った。


 それから、10歳になるとモートンと出会い、婚約。

 とにかく両親を殺させない。その一心で、14歳の時を待った。その間、また孤立するといった理不尽な目にあったけれど、我慢。

 また、両親と一緒に殺されてしまった執事長についても、もし生きていればその後の状況が変わるかもしれないと思った。


(執事長が殺されて長男が継いだけど、それから余計におかしくなったのよね。古参の使用人がほとんど解雇されて、私には教育不足の新人があてがわれて…。執事長が生きていれば、それも防げるはずだわ)


 例えモートンと結婚することになっても、両親と執事長が健在なら変わるかもしれない。それだけを希望に、ウルスラはその時を待った。


 そしてついにその時が来た。

 2週間後に行われる領地の祭りに、両親と執事長が祭りの3日前に出掛ける予定が決まったこと。

 領地のお祭りだけに、領主である父とその伴侶である母が赴かないわけにはいかない。また、現地で祭りの後に決算などの手続きも行うため、執事長も同行する。

 簡単には変えられない内容だ。ウルスラが「行かないでほしい」の一言で済むものではない。

 それでもどうにかしなければ、殺されてしまう。


 そこでウルスラが思いついたのは、予定を早めることだった。そのために、自分も同行して一足早く領地を見たいという作戦を思いつく。

 ウルスラは夕食後の家族団らんのときに、早速話題に出すことにした。


「お父様、私もお祭りに一緒に行ってみたいです」

「おお、そうか。ウルスラも興味をもってくれるなら嬉しいな。ふむ…なら、早めに出掛けるとしよう。祭りの前に領地を知っておけば、より楽しめるだろうからな」

「っ!はい」


 自分から切り出すどころか、父のほうで勝手に出掛けるタイミングを前倒しにしてくれた。思いのほかあっさりうまくいき、拍子抜けしてしまった。


 しかし成功は成功だ。そのことにウルスラは心の中で歓喜の声を上げた。


 その後、早い方がいいだろうと、明後日には出掛けることが決まった。祭りの11日前の出発である。

 これだけ日にちがずれれば盗賊も張ってないだろうし、ウルスラも同行するということで、護衛は倍の20人が予定されている。


 これなら安心だ。ようやくウルスラの顔に笑顔がもどってきたころ、出発の前日にふと屋敷の廊下で誰かが言い争っているのが耳に届いた。


(誰かしら…これは、執事長とそのご長男よね?)


「父上。出掛ける予定は1週間先だったじゃないですか。何でそんなに早く…」

「お嬢様が同行されると決まったからだ。それに、お前が焦る理由がどこにある?」

「えっと、それは……色々準備が……」

「準備は既に済んでいる。少し滞在日数が延びることになるが、この程度問題かなろう。お前は屋敷で留守番をしていればいい。一体何が問題だ?」


 どうやら執事長の長男が、急遽出掛ける予定が早まったことに動揺しているようだ。


 長男は屋敷の留守番で、あちらに行くわけでもない。準備はいらないし、何か緊急の要件があれば早馬を走らせればいいだけ。それだって、長男以外にも優秀な執事がいるので問題ない。


 それなのに一体何なのか。


 そこでふとウルスラは過去の記憶で、執事長の死後に長男が執事長という役に着いてからおかしくなったことを思いだした。


(まさか……お父様たちが殺されたのは、ご長男が原因?そういえば、ご長男はもう自分が執事長になってもいいはずだと、お父様に直談判してたのよね。でも、執事長がまだその資格は無いと突っぱねてた。まさかそれを逆恨み…そう考えれば、あの盗賊も偶然じゃなくて、用意されているとしたら…辻褄が合うわ)


 自分の推理に背筋が凍りつく。


 まさか、そのためだけに雇い主も実の父親も殺そうとするだろうか。だが、モートンに三度殺されたウルスラにとって、人が誰かを殺すのに大した理由など無いと思い始めている。


 三度殺されてもなお、ウルスラにはモートンが自分を殺す理由が分からずにいた。散々隷属したはずの前回ですら殺されたのだ。もはやウルスラには理解できないことなのだろうと、考えることは諦めている。


 その後、予定通りウルスラと両親、執事長一行は出発した。


 護衛もしっかり20人が警護につき、道中は驚くほど何もない。


 ウルスラだけは、両親たちが襲われたとされる箇所を馬車が通り過ぎるまで気が気ではなく、表情はずっと強張ったままだ。それを両親は馬車酔いと思い、頻繁に馬車を止めたり、爽快感のあるハーブ水を飲ませてくれたりと気遣ってくれる。


 そして、例の箇所を無事に通り過ぎたことで、ようやくウルスラの懸念は解放された。大きく息を吐き、強張ったままの肩の力が抜けていく。


(やった…!みんなが生きて通り過ぎることができたわ。これでもう、お父様もお母様も、執事長も死なずに済むはずよ)


 執事長の長男が犯人だったのか、それはもうウルスラにとってはどうでもよかった。


 領地に着くと、両親と一緒に現地の町長の案内を受けながら領地の特産品や交通事情、街中の状況を視察。


 祭りは大いににぎわい、領主の娘ということで紹介を受けると、住民はもろ手で歓迎してくれた。久しぶりの大騒ぎに、ウルスラは笑顔で過ごすことができた。


(ああ、このまま幸せでいられるのね……)


 領地から屋敷への帰り道。馬車はゆっくりとゴトゴトと音をたてながら進んでいく。疲れから馬車の中で父にもたれかかりながら、ウルスラはそう願っていた。


 この幸せは確かなもの。このままずっと続くものだと、疑うことはしなかった。


 その3週間後に、両親と執事長が毒殺されるまでは。


 3人の棺が、ウルスラの前にあった。つい先日まで、笑い、語り合った両親。後ろでにこやかに見守っていた執事長。その三人が、もう物言わぬ骸になり果てている。


「…………」


 なんで。どうして。ちゃんと回避したはずなのに。目の前の現実を、ウルスラは信じられない気持ちで見つめていた。


 犯人は料理長だとして、すでに衛兵に捕まっている。本人は否定しているが、彼の自室からは犯行に使われた毒薬が入った瓶が押収されており、言い逃れは不可能だ。


 茫然自失となったウルスラを、モートンが優しく支えている。他の弔問客に背を向けた二人の状態は、他の誰にも分からない。


 だが、ウルスラだけは、モートンの言葉をしっかり聞いていた。


「ふふ……やっと彼らは、行くべきところに逝ってくれたね」


 その言葉に、ウルスラは背筋を凍り付かせた。


 執事長の長男は犯人ではなかった。犯人は、今自分の横にいるこの男。


 そこでやっとウルスラは、一度目に殺された時のモートンのあの言葉を思い出した。


「貴様の両親と執事長が殺されたのも、全て俺が仕向けた」


(私は…どうして、こんな大事なことを……!)


 モートンが犯人だと知っていたのに。彼が、一度失敗した程度で諦めるような男ではないと知っていたのに。


(私が…思いだしていれば……。私が、お父様もお母様も、執事長も死なせた…!私の…私のせいだ………)


 ひたすらに自分を責めた。三人が死んだのは自分のせいだと。何度責めても、彼らが生き返ることはないのに、それでも責めるのをやめることはできなかった。


 ウルスラはこの事件を機に、完全に屋敷に引きこもるようになってしまう。


 その後、ウルスラは第一子を産んだという情報が知れ渡る。さらに、産後の肥立ちが悪かったという情報と一緒にひっそりとこの世から姿を消した。


 その死の真実を知る者の中に、良心を抱くものは一人もいない。

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