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侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~  作者: 蒼黒せい


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序幕~必ず殺してくる男④~

「うっ………はっ!」


 ウルスラは目を覚ました。


 そこには見覚えがあるベッドの天蓋があり、部屋は薄暗い。心臓はやかましく騒ぎ、冷汗がびっしょりと身体を濡らしている。


 目を閉じれば瞼の裏にはモートンの笑みが張りつき、すぐに見開いた。あの恐ろしい笑顔には恐怖しか感じない。


 今の自分がどうなっているのかを確認しようとし、刺されたはずの胸に手を当てる。


 そこには何もなかった。包帯も巻かれていないし、16歳としてほどほどに膨らんだはずの胸も無い。


 そこから、ウルスラは自分の身に何が起こったのかを理解した。


(私、また戻ってきたの……?なんで、どうして……!?)


 一度目は、何かの奇跡だと思った。

 二度目ともなれば、奇跡で済ませていいことじゃない。何者かの仕業か、それとも自分が全く知らない何かなのか。

 全く分からないけれど、胸を刺された痛みと、その後絶命するまでの苦しみだけは鮮明に覚えている。


(あれで終わりだと思ったのに……私が一体何をしたっていうの……?)


 モートンに二度も殺され、二度も死に戻りをしている。ウルスラは、呪いのような自分の生に疑問を感じ、落胆するしかなかった。


 フラフラとベッドから抜け出すと、今日の日付を確かめようと日記帳を取り出す。日付は想像した通り、一度目の死に戻りと同じ日付だった。


 つまり、また9歳に戻っていたのだ。


(愛していても殺される……婚約しなくても殺そうとしてくる……私は、どうすればいいの?)


 どうすればモートンに殺されずに済むのか。

 ベッドに戻り、布団にうずくまって考えても分からない。


 そのうち、ウルスラを起こしに来た侍女が部屋に入ってきて、準備を整えられると食堂に連れていかれる。最初と異なり、二度目では殺されなかった両親。その事実だけが、ウルスラの心を軽くした。


 暗い顔をしたウルスラを両親は心配するが、夢見が悪かったといってその場は誤魔化しておく。もちろん、心の暗さはそのままだ。


 その後、ウルスラはどうしたらモートンに殺されずに済むのかを考え続けた。


 しかし、そのたびにモートンの恐ろしい笑顔がちらつき、恐怖で考えがまとまらない。いくらモートンを避けても、必ずモートンはウルスラに近づいてくる。それが前回で証明されてしまったため、避ける作戦も使えない。


 そのうちに1年が過ぎ、10歳になってモートンと出会うことになるお茶会に出席することになってしまった。


「おいお前、なんだその髪は!変なの~」

「ほんとだ、縮れてておかしなやつだ!」


 そこで2人の少年に絡まれてしまう。

 彼らは怖くない。二度も16歳まで生きたウルスラにとって、同じ年ごろの彼らのからかいなどもはや何の効果も無いのだ。


 だが、彼らが出てくるということは次にどうなるのか。それが分かっているウルスラの表情はこわばり、それは少年たちのからかいを恐れているように見えるだろう。


 そこへ、あの男が出てきて、少年たちとウルスラの間に割り込んできた。


「やめろよ!彼女が嫌がっているだろう」

「げっ、モートンじゃん」

「くそっ。あっち行こうぜ」


 少年二人はさっさとどこかへ行ってしまった。初めての時はそれにどれだけモートンを頼もしく思ったことか。


 今は違う。彼が振り向くことが恐ろしくてたまらない。


「大丈夫かい?怖い思いをしたね」

「ひっ…!」


 ウルスラからすれば、今目の前にいる男こそが最も怖い存在だ。

 だがモートンはウルスラの恐れを、あの二人のせいだと思い込んでいるようだ。


「ああ、こんなに怯えて。大丈夫だよ、彼らはどこかに行ってしまった。これからはぼくが君を守るから」


(いや、いや、いや!来ないで来ないで来ないで来ないで……来ないでぇ!)


 モートンの極上の笑みに、遠くで黄色い悲鳴が上がった。

 まだ少年と言える10歳のモートンだが、この時で既に彼の美貌は知れ渡っている。だからこそ、ウルスラへの嫉妬や妬みはすごいものであり、その後にウルスラが孤立することにもつながるのだが。


 その美貌もウルスラには全く効果が無い。その笑顔は死神の微笑みにしか見えないのだから。前回の死に戻りの時と同じく、モートンのウルスラを見る目には獲物を狙う狩人の殺意が込められている。


 恐怖で動けなくなったウルスラの手を無理やり取ったモートンは、そのまま茶会の場へと連れ戻していく。


 握られるのが嫌で、その手を今すぐにでも振りほどきたかったけど、モートンの力は強かった。それに、ウルスラの恐怖は増していくことになる。


 この件がきっかけで、モートンの実家であるラトロ家からウルスラへの婚約の申し出が出された。それをウルスラは虚ろな目で了承した。


 どうせ断っても、彼は衛兵として屋敷にやってくる。どちらを選んだとしても、彼から逃げることはできないのだから。


(……もう、殺されないように、彼の言いなりになりましょう。決して彼には逆らわず、私の命以外はすべてを彼に捧げましょう……)


 ウルスラは命が助かること以外の全てを諦めた。決して彼には逆らわず、隷属することを決める。それ以外に、彼女が助かる道は無いのだと思うしかなかった。


 二度も同じ人物に殺されれば、逆らう気も起きなくなる。


 奴隷のようにモートンに従うウルスラに両親は訝しむが、ウルスラは決して胸の内を明かすことはなかった。


(私が言いなりになれば、きっとお父様もお母様も殺されないはずだわ。だから、きっと……大丈夫……)


 何の根拠もなく、ウルスラはこれが正しいのだと信じ切っていた。いや、それ以外に選択肢が無かったとも言える。


 だが、それはたやすく裏切られることになる。

 12歳の頃には、やはりウルスラは友人たちとの間でお茶会に呼ばれず、招待しても断られるようになり、孤立していった。


 14歳のときには、両親と執事長の乗った馬車が襲撃され、命を落とした。


 最初の時と何も変わらず、大切な人の命を守れなかったウルスラは心を壊し、まるで操り人形のようにモートンに付き従うだけの存在となった。


 そして17歳になる前。再び毒を飲まされ命を落とした。


 ウルスラは思い知られることになる。モートンは何があろうと、ウルスラの死を望んでいることを。


(モートン様は……そこまで私を憎んでいるのね……)


 死の直前、モートンの憎しみの深さを思い知りながらウルスラの意識は闇に沈んでいった。

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