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侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~  作者: 蒼黒せい


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第四幕~あなた自身の手で堕ろしてくださいな⑧~

「う、ウル…スラ?」


 倉庫に入ってきたモートンは、呆気にとられたような表情を浮かべていた。それをウルスラは、いつもの何の邪気も感じさせない笑みで出迎える。


 まさかの人物の登場に、モートンの理解は追い付いてないようだ。彼の中では、ここでウルスラが現れるとは微塵も思っていなかったのだろう。


 それはそれで残念に思うところだ。こんなことをしでかすとまでは、ウルスラは思われていなかったのだから。思った以上にモートンは能天気だと、ウルスラはモートンの評価を下方修正した。


 しばし唖然としたモートンだが、やっと頭が追い付いてきたのだろう。表情を険しくさせ、ウルスラを睨みつける。


「…どうして君がここにいる?」

「ふふっ、私のことなんかより、気にすべきことがあるんじゃありませんか?」


 そう言って、ウルスラは横にそっとどける。その後ろに、椅子に縄ごと縛り付けられたユーリスの姿があった。


「モートン様!」


 泣きそうな顔のユーリスが、愛しい人の名を叫んだ。


 その姿に、モートンの表情は一瞬ほっとするも、再び険しいものに戻る。


「ウルスラ!どうして彼女をこんなところに!?」

「どうして?お分かりになりませんか?」


 怒るモートンと反対に、ウルスラはどこまでも余裕だ。今も、モートンを出来の悪い生徒でも見るかのように、呆れた視線を飛ばしてくる。


 それがモートンの神経を逆なでした。本当は今すぐにでもユーリスを解放し、こんなところから出ていきたい。


 だが、ウルスラはモートンの婚約者だ。当然、ユーリスとの関係は秘密である。ここでウルスラよりもユーリスを優先させる行動に出れば、彼女に疑念を抱かせかねない。


 しかし、ウルスラはそんなモートンの懸念を鼻で笑う。


「私の婚約者の浮気相手に、お仕置きをするのは当然ではありませんか?」

「なっ!?」

「っ!!」


 まさかバレているとは思わなかったのか、モートンもユーリスも驚愕している。


 ウルスラは本気で呆れた。あれでバレていないと思っていたことに。モートンはただでさえ目立つ容姿なのだ。少し街中に出れば、あっという間に見つかるほどに。気付かないというほうが難しい。


(やれやれだわ…。まぁそれはいいとしましょう。本当にやりたいことはここからなのだから)


 ウルスラは顔を無邪気な笑みに戻した。


 それにモートンは一瞬怯えた様な表情を見せる。今のモートンには、こんな状況であまりにも不似合いなウルスラの笑みほど恐ろしいものはない。


 その笑みは、ヴィンディクタ侯爵夫妻暗殺失敗を暴露されたあの時を彷彿とさせた。モートンの背筋を悪寒が走り抜ける。強張りそうな顔を、必死で押しとどめていた。


「ねぇモートン様、浮気をしていたことに何か弁明はありますか?」

「……浮気?何のことだ?」


 ここでモートンは予想通りの反応を示した。そう、自分は浮気などしていないという反応を。


 手を上げ、いかにも「何のことだかさっぱりだ」という仕草。顔も、やれやれと言った感じである。


 それにユーリスは険しい顔を浮かべている。彼女とでバカではない。ここで下手に発言すれば、自分が浮気相手だと認めることになってしまう。


 それではモートンの目的は果たせなくなる。目的のためには、モートンはウルスラの婚約者という地位を捨てられないのだ。「浮気をしていたから婚約解消しましょう」とは、絶対に言わせてはならない。


 だからといって、自分が何の関係もない相手だと評されるのも癪だ。今のユーリスの心境は複雑である。


(ふふっ、そう来るわよね。でも、いつまでしらを切れるかしら?)


「まさかそこにいる娘に、ぼくが浮気をしているとでも?そんなわけないだろう、私はウルスラを愛しているのだから。それを信じてくれないのかい?」


 よくもまぁつらつらと出まかせを言えるものだと、ウルスラは感心した。口だけは達者な男だ。だが、いつまでその口が持つか、見ものである。


「なるほど。つまり、この娘とあなたは全然関係ないと?」

「ああ、そうだ」

「ではなぜ、あなたはここに来たのですか?」

「それ…は………、そう、行きつけの酒場の店員なんだ。そこの娘はね。少しばかり親交があってね、今日は店に来ていないというから、少し気になって探してただけなんだ」

「あらそうでしたか。この娘がどこの部屋に住んでるのか知っていて、それが少し親交がある程度だと、そうおっしゃるのですね」

「っ!!」


 そのウルスラの発言に、モートンは睨みつけてきた。


 それはつまり、ウルスラがユーリス誘拐の犯人だということだ。状況的には真っ黒だが、当人が認めた。


 しかしこれはまずい。下手に問答を続けると、どこでぼろが出るか分からない。モートンはなんとかさっさとこの場を収める方向に切り替えた。


「それも酒場のおかみに教えてもらったんだよ。ああ、見つかったのならもういい。さぁ、帰ろうかウルスラ」


 モートンはウルスラへと手を伸ばした。エスコートするかのように、顔にはここにきて初めての笑みを浮かべて。


 だがウルスラはその手をはじいて除けた。パンと音が鳴り、モートンは自分の手が跳ねのけられたショックで硬直した。


「そんな言い訳など通じませんわ。私の諜報部員が見ていましたから」


 ウルスラが指を鳴らすと、一気に『五つ』の影が、ろうそくの光に合わせてうごめいた。


 3人を取り囲むように現れた5つの陰。特にその中の4人にモートンは目を見開いた。


「なっ!?同じ……顔…だと」


 いつもウルスラの背後に控えていた白い髪と肌の従者。それが4人いた。5人目だけは帽子を深くかぶっているので分かりづらいが、見える髪色は緑のように見える。


 それにはモートンも、ユーリスも驚いていた。こんな全く同じ容姿の人間が4人もいるなんて、見たことなど無いだろう。


「彼らは私の従者兼護衛、そして諜報も行う私の手足ですわ。…彼らはあなたをずっと監視しておりました。ですから、誤魔化さなくても結構ですわ。彼らは全てを見ておりましたから」


 ウルスラはゾッとするような笑みをでモートンを見据えている。


(こ、こいつ…!そうか、こいつらのせいで…)


 1年前を思い出す。どうしてマイクと共謀したことがバレたのか。


 こいつらのせいだったのだ。こいつらがいるせいで、全て明るみにされてしまった。


 見られてしまったというのであれば、もう誤魔化しは効かない。モートンの顔を冷汗が流れる。浮気を隠すことはできない。


 どうすればいいのか。必死に頭を巡らせるモートンに、ウルスラは更なる追い打ちをかけてきた。


「そうそう、モートン様。彼女、あなたとの子どもを宿していますわね?」

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