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侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~  作者: 蒼黒せい


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33/62

第四幕~あなた自身の手で堕ろしてくださいな⑤~

「こちら、ユーリスの身元の報告書になります」

「ありがとう」


 麗らかな日差しが差し込むお昼すぎ。ウルスラは自室でのんびりしていたところに、オーティスから報告書を受け取っていた。


 今日は紅茶ではなく緑茶だ。なんでも、発酵させる前の茶葉を使った飲み物らしく、紅茶と違う香りと味が楽しめるとフェリクスに教えてもらったのだ。


 そこで、紅茶の産地に直接発酵前の茶葉を融通してもらい、試飲している最中でもある。


 これがなかなか美味しい。紅茶とは違ったすっきり感に、さわやかさがある香り。残念ながらクッキーやケーキとは合わなさそうだが、あとでフェリクスに合いそうなお菓子も教えてもらおうと頭の片隅に留めて置く。


 試飲の緑茶を楽しみつつ、報告書に目を落とす。そこに網羅されたユーリスの情報に、ウルスラは片眉を上げる。


「……ただの平民ではなかったのね」

「はっ。没落貴族で、かつては子爵令嬢だったようです」


 思わぬ情報に、ウルスラの心には苦いものがせり上がった。


 元の名はユーリス・ニグラム。


 父が投資に失敗し、多額の借金を追うことに。結局借金が払えずに破産、爵位を返上したことで平民となった。父は投資の失敗に心を病み、自殺。母も父の後を追うように病を患い、亡くなっている。


 今は平民として、酒場で働いていた。


(天涯孤独の没落令嬢、ね。シチュエーションとしてはありきたりと言ったところかしら。美しい王子様に出会えて、さぞ喜んでいることでしょう)


 前世の記憶には、恋愛小説を散々読み明かしていたようで、様々なパターンがある。こういった不幸からの成り上がりも多数存在していた。


 だがここは妄想の世界ではない。まごうことなく現実。少なくとも、ユーリスの前にいるのは、品行方正な王子様とはかけ離れた存在である。


 報告書には、投資に失敗した原因は、そもそも投資話がそもそも詐欺であったというものだ。それもまた、ユーリスの父が自殺をした原因だと推測されている。


 その投資話を持ち掛けたのが、今も存続している侯爵家だ。ウルスラの記憶ではあまりいい話は聞かない。金遣いが荒く、何人も妻が代わっている。娘がいて、一応それなりに美しい。ただ父と同様金遣いが荒いようで、茶会や舞踏会では毎回金がかかった新品のドレスや装飾品を見せびらかすのが趣味のようだ。


(あの家に狙われた一家だったのね。ご愁傷様…と言いたいところだけど、モートン様に関わったのだから、容赦はしないわ)


 一瞬同情心が沸くも、それは瞬く間に消え失せる。


 悲しい過去があろうと、それで手を緩めるウルスラではない。彼女もまた、死に戻りの中でウルスラの死を望んだ一人だ。


 ウルスラの中には既に策が出来ている。これまで以上にモートンを追い詰める策だ。


 常人ならば絶対に考えないであろう策。まともな倫理観があれば、躊躇って当然。如何に相手が悪人であろうと、それを執行したのであれば精神を疑われるだろう。


 それでもウルスラは止まらない。モートンという個人にあっては、この世の誰よりも残酷になれるがウルスラだ。


 この策を実行したとき、今度こそモートンは立ち直れないだろう。完全に彼の心をへし折るものだ。


(ねぇモートン様……愛していた者に裏切られる苦しみを、あなたは知っていまして?)


 思いだしたくもないあの苦しみ。ずっと好きで、愛していて、生涯をささげると誓った相手。そんな相手に裏切られたのだ。当時のウルスラの苦しみは、早く死を願うほどに。


 その苦しみを、モートンが味わう番が来たのだ。果たして、彼はどんな苦しむを顔を見せるだろう。ウルスラが苦しみ様を見て喜んでいたモートンだが、今度はその立場が完全に入れ替わる時が来る。


 その様子を思い浮かべて、醜悪な笑みがウルスラの顔に浮かんだ。これまでずっとウルスラに付き従っているオーティスですら、ゾッとするほどの。


 報告書を読み終えたウルスラは、それをオーティスに戻す。報告書を後ろに控えたオーティスに、ウルスラは声を掛けた。


「これからも監視を続けてちょうだい。多分、『見たくもない』ものを見なきゃいけないかもしれないけど、我慢して頂戴ね」

「……はっ」


 オーティスは恭しく頭を下げる。すました顔からは感情が窺えないが、その内心はうんざりしたものだ。


 モートンの監視が、ではない。監視の中でおぞましいものを見る可能性があるということ。ウルスラの言うところの『見たくもない』ものだ。


 せめて自分が監視に着いた時にはしないでほしい。そうオーティスは願った。



 ***



 それから数か月が経ち、ウルスラは16歳になった。


 この国では16歳は成人とみなされ、結婚できる歳でもある。


 節目となるウルスラの誕生日は屋敷を上げて盛大に行われた。王都中の花を集めたのではないかと思うほどに、パーティー会場のあちこちに花束…いや、花の塔が飾られている。豪華な料理も酒もふるまわれ、ヴィンディクタ家の威勢と、ウルスラの将来を誇るようなパーティーだ。


 たくさんの友人や知り合いが訪れ、ウルスラにお祝いの言葉を投げかけてくれた。たくさんのプレゼントも受け取ったが、やはり話の中心はウルスラの結婚についてだ。


「ウルスラ様には、もっとお似合いの方がいらっしゃるような気がしますわ」


 そんな言葉を、ウルスラは何度受け取ったか。


 モートンと婚約した当初は、誰よりも羨ましがられ、妬まれたこともあった。しかし今では、誰よりも憐れまれている。


 令嬢や夫人たちの間でのモートンの評価は地に落ちていた。いつもマスク姿、目を合わせても微笑むどころか顔をそらす始末。屋敷で暮らさず宿舎にいるところから、実家と何かもめごとを起こしているという噂。さすがにそこまでいけばいくら顔が良くても、男や結婚相手としての魅力は感じられなくなってしまう。


 さらに、今日ウルスラの誕生日だというのに彼の姿はない。もちろん招待状は送っているが、返事はない。婚約者の誕生日に来ず、プレゼントも無いでは誤魔化しようもないだろう。尤も、来ない当人は誤魔化す気もないようだが。


 ラトロ家の面々はいるが、肝心のモートン不在のせいでだいぶ肩身が狭そうだ。


 さきほどウルスラの母が声を掛けたので、近々退席するだろう。こちらとしても、そんな様子で長居してもらうのはしのびない。


 そんな言葉が投げかけられる度、ウルスラは決まり文句のように同じ言葉を返している。


「良いのです。私はあの方を愛していますから」


 それを聞いた令嬢の反応は半々。賞賛と、呆れ。


 そんな反応も、ウルスラにはどうでもいい。なにせ6回目の16歳の誕生日である。感慨も何もあったものではない。


 それよりも、モートンが取り返しのつかないことをしてくれたことに、彼女の心は狂喜乱舞している。


 華やかな誕生日パーティーの中で、主役のウルスラはただ一人、誕生日のことなど全く関係ない笑みを浮かべ続けていた。



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