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侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~  作者: 蒼黒せい


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19/62

第三幕~あなたに奪える命はありません②~

 マイクを監視させ始めてから2週間が経過。


 晩餐を終えたウルスラは、入浴を済ませたあとに自室で調査結果がまとめられた報告書を受け取った。その内容を読んで、自分の推理が当たっていたことにウルスラはほくそ笑む。


「やっぱり、マイクには何かあったのね」


 ウルスラの言葉に、報告書を届けたアーサーは静かに頷いた。


 報告書にはマイクが夜な夜な出掛けては、実はカジノに入り浸っていたことが発覚。しかも勝率は高いとは言えず、借金をしてしのぐ日もあるという。今はまだ勝ち越しているが、おそらくそれはカジノ側の策略だ。勝てると意識に根付かせ、退くという考えを失わせてから徐々に搾り取る気だろう。


 これが今後どう影響してくるか。今はまだこの状況にモートンが関与している様子はない。しかし時間の問題だと思う。いずれマイクは借金を繰り返し、どうにもできなくなる。その時こそ、事態が動く時だ。


「引き続きマイクの監視は続けてちょうだい。とくに、モートン様との接触がありそうなら要注意ね」

「かしこまりました」


 指示を受けたアーサーは恭しく頭を下げ、部屋から退出していった。マイクの監視のためだ。それを見送ったウルスラは、改めて両親殺害の状況を思いだしていた。


 両親と執事長が死んだのは、盗賊に襲われたのが原因だ。


 しかし、高位貴族の当主が領地へと出掛けるのに護衛がいなかったのか。当然護衛はいた。しかし、当日になって問題が発生したのだ。


 それは護衛を担当するはずだった衛兵たちが続々と腹痛を起こし、任務に就くことができなかった。そのため、体調に問題ない衛兵だけが急遽護衛についたが、本来10人編成のはずがたった4人になってしまう。


 本来万全の警護体制が敷けない場合、外出は取りやめになる。だが、領地での祭りへの参加のため延期できなかったことと、当主である父が「何かに襲われたことはない。きっと大丈夫だ」と楽観視したため、強行された。


 結果は、『たまたま』居合わせた盗賊が護衛の少ない馬車を襲撃。両親と執事長、そして護衛は全員殺されてしまったのだ。


 以前の何も知らないウルスラは、「どうしてこんなことに…」と嘆くばかりだった。だが今は違う。そこに、明確な悪意が込められているはずだと推測した。


(あの悲しい思いをするのは……もう嫌だわ。今回は絶対に、どんな手を使ってでも防いで見せる。モートン様は両親の存在を疎んでいるはず。確実に仕掛けてくるはずだわ)


 ウルスラは表情を厳しくし、絶対にそんなことはさせないと決意を新たにする。


 また、死に戻りの中で盗賊襲撃を避けたこともあった。しかし、それでも次の手が打たれて両親は殺されたのだ。なら、起きるであろう盗賊襲撃を避けるよりも、それを利用したほうがいい。


 ウルスラは万全の構えを取るべく、今後の対応をノートにまとめていく。そして一通り書き出した後は、それを部屋に控えるオーティスに渡した。


「では、いつも通りお願いね」

「かしこまりました」


 ウルスラの復讐計画を書き込んだノートは、決して外には出せない代物だ。誰にも見られるわけにはいかない。部屋には鍵付きの引き出しがあるが、万全とは言えない。悪意あるものが部屋に侵入すれば、真っ先に狙われる場所だ。安心できるわけがない。


 そこでウルスラはノートを4つ子に預けることにした。4つ子には一つの大きな部屋をあてがっている。4つ子はルーティーンで仕事と休みを交互に取っているため、部屋には誰かしら一人は必ずいる状態だ。つまり、一番安全とも言える。


 ちなみに閲覧も許可していた。内容を把握してもらったほうが、各自の判断で動きやすいと考えてのことだ。明確な指示はウルスラが出すが、現場で即時判断が求められる場合、死に戻りの中で何が起きたかを知っていれば、動きの方向性も立てやすい。


 ノートを受け取ったオーティスは部屋を退出していった。一人になった部屋で、ウルスラはゆっくりと目を閉じる。


 瞼の裏に浮かぶ、棺に納められた両親の姿。涙が枯れてもなお泣き続けるほどの悲しみ。死に戻るたびに生きている両親との再会に喜び、失う悲しみを3度味わわされた苦しみ。それを思い出すだけで、ウルスラの目には滲むものがあった。


「っ……もう、絶対に許さないんだから。今度こそ、必ず守って見せるわ」


 目元に浮かぶ涙をハンカチで拭い、強く誓う。惨劇を繰り返さないための誓いを。




 ****




 それから1週間後。


 屋敷内を歩いていたウルスラはどこからか言い争う声が聞こえてくることに気付いた。


「誰かしら、言い争っているのは」

「これは……おそらく、執事長とその息子かと」


 傍にいたデニスが答えた。さすがは諜報部、耳がいい。


「方角的には屋敷の東のほうかと」

「東……使用人たちの部屋のほうね。……行きましょうか。こっそりね」

「はっ」


 ウルスラの提案にデニスはうなずいた。本来は主人といえど、そうやすやすと使用人たちの居住に踏み入るものではない。まして、親子での会話なのだから、なおさらだ。


 しかし、相手は執事長の息子であるマイクだ。どんな内容で言い争っているかは把握しておいたほうがいいだろう。


(そういえば、死に戻りの中でこの2人が言い争っていたことがあったわね。あのときは、盗賊回避のために祭りに参加するための日程を早めたことにマイクが文句を言っていただけど、今回は何なのかしら?)


 足早に声のしているほうへと足を進める。曲がり角を曲がろうとしたところで、デニスに腕を掴まれ止められた。振り向くと、唇に指を立てている。どうやらこの曲がり角の先にいるらしい。


 廊下の壁に背を預け、声に耳を傾ける。どうやら、マイクは自分の待遇について執事長に文句を言っているらしい。


「親父、なんでだよ!もういいじゃないか!」

「ダメだ。まだお前には務まらない」

「そんなことない。俺にだってもう執事長は出来る!親父は隠居してろよ」


 聞き耳を立てていたウルスラは隣で聞いていたデニスと顔を見合わせる。どうやらマイクは自分を執事長にするようにと父親に直訴しているようだ。


「……デニスは、マイクに執事長が務まると思う?」

「無理ですね。知識、教養、経験何もかも足りていません。その下の弟のほうが見込みがあります」

「バッサリね」


 デニスの一切忌憚のない意見に、ウルスラは苦笑した。


 執事長には二人の息子がおり、マイクの下には弟がいる。弟もヴィンディクタ家の屋敷で従僕として働いていたはずだ。ウルスラはよく知らないがデニスは面識があるようで、弟のほうを評価している。


 執事長は屋敷を統括する立場だ。携わる業務は広く、その権限と責任は大きい。それに見合った収入も得られる。


 ウルスラはデニスと小声でこっそり話し合う。


「…やっぱり、カジノの件で焦っているのかしら?」

「おそらく。ここ最近は負けが込んでいるようです。まだ借金はさほど大きくはありませんが、今以上に膨らめば督促という形で屋敷に乗り込んでくるかもしれません」

「それは焦るわね」


 カジノの件がバレれば、最悪マイクは解雇だ。いくら執事長の息子と言えども、処分は免れない。だからこそマイクは早く収入を増やしたくているのだろう。


 二人の言い争いはまだ収まらない。


「大体、他の家じゃあ親父の歳ならとっくに後を譲ってるんだ。その立場にしがみついてるのが恥ずかしくないのかよ」

「しがみついているのではなく、任せるに足るものが育ってないから譲らないだけだ。…そもそも、お前には決定的に足りてないものがある」

「決定的にだと?何だって言うんだよ」

「主君を裏切らない誠実さだ。……カジノに行くようなお前には任せられん」

「っ!?」


(あら)


 思わぬ執事長の言葉にウルスラもデニスも目が点になった。執事長は息子がカジノに入り浸っていることを知っていたのだ。その上で執事長という役職を任せられないと明言した。


 二人の言い争いは執事長が一方的に打ち切り、どこかに行ってしまった。ウルスラたちもバレる前にそそくさと自室に戻ることに。


「……執事長は知ってたのね」

「そのようですね」


 ウルスラの自室に戻ってきた二人は、う~んと見合わせた。


「…これが、執事長まで殺された原因、でしょうね」

「だと思います。マイクにとってみれば、父親はこの上なく邪魔であり、殺してしまってもよかったんでしょう。情けは一切無用かと」

「ええ、分かってるわ」


 思わぬ形で、マイクが執事長を、ひいては両親を殺す動機が見つかってしまった。ウルスラの両親を排除したいモートンと、執事長を排除したいマイク。利害の一致する二人が手を組んだ…そう考えるのが妥当だ。


 マイクが共謀者なのは確定。ウルスラはニィと口角を上げ、この後の展開を想定し、指示を出す。


「これからマイクは、何らかの方法で両親と執事長を殺害するために動くはずだわ。しっかり警戒してちょうだい」

「かしこまりました」


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