第6話:醤油と味噌が外交の火種に
味噌汁の衝撃から数週間。
村では毎日のように味噌汁が食卓に上がるようになった。
「殿!味噌で煮込むと肉が柔らかくなるぞ!」
「醤油を焼き魚に塗ると香ばしい!」
おばちゃんたちはレシピ開発に勤しみ、子供たちは「おみそしる〜」と歌いながら走り回る。
すっかり“味噌文化”が根づいてしまった。
……が、問題はそこからだった。
―――
ある日、父上(現領主)の執務室に呼ばれた。
「布武丸……お前が広めた“黒い汁”と“茶色いドロドロ”の件だ」
やばい、めっちゃ怒られるやつ?
「隣領の使者が来ている。どうやら、そちらの村にも“醤油”と“味噌”の噂が広まったようだ」
父上が重々しく言う。
俺は内心で土下座した。
すみません。俺がやりました。
―――
謁見の間。
隣領から来た使者は、仰々しく膝をついて言った。
「マークガーフ殿。我らが領主は問うておられる。
――“黒き妙汁”を供出せよ、と」
……やば。
醤油を“妙汁”って言った。なんか禁断の秘薬みたいな扱いになってる。
父上が困惑気味に俺を見る。
完全に俺のせいじゃんこれ。
「布武丸……これはお前が?」
「……のーちかいかく……おまけ……」
俺は小声でごまかしたが、周囲の重臣たちがざわついた。
「殿の御子息が生み出された品だと!?」
「ならば他領に奪われる前に我らで守らねば!」
おい、戦の理由が醤油と味噌になるのはやめてくれ。
鉄砲でも刀でもなく、調味料で戦争勃発ってどういうことだ。
―――
その夜。
村人たちは焚き火を囲み、また味噌汁を啜っていた。
「やっぱりこれが一番だねぇ」と笑う声を聞きながら、俺は決意した。
天下布武――その第一歩は、鉄砲でも魔法でもない。
味噌と醤油の外交戦。
布武丸、3歳。
調味料で国境が揺れた夏の出来事である。