第3話:のーちかいかく!
数日後。
俺は再び村の畑へやってきた。
もちろん2歳児。
足はよちよち、手はぷにぷに。
だが――脳内は信長フェイズである。
「よし……いくぞ」
俺は棒きれを握りしめ、土の上に再び図面を描いた。
昨日よりも詳細に。水の流れ、田んぼの形、畝の並び方。
「ここ!みず!ながす!」
村人のおばちゃんが鍬を担いで近づく。
「殿……また土いじりかい?」
「いじりちがう!かいかく!」
「改革……?」
俺は全力でアピールした。
両手をばたつかせ、水路を掘る真似をする。
それから、両手を左右に振って「畝をまっすぐ!」を表現。
「こう!まっすぐ!きれい!」
村人たちは顔を見合わせる。
「なぁ……殿、なんか意味があるんじゃねぇか?」
「うーん……子供の遊びにしては筋が通ってる……?」
……お、いけるか?
―――
その翌日。
「じゃあ殿の言う通りに、ちょっと掘ってみるか」
ついに実験が始まった!
村人三人組が鍬を持って水路を掘る。
俺は小さな手で「もっと右!」「まっすぐ!」と指示。
「おい、殿が監督してるぞ」
「かわええなぁ」
「いやでも、思ったより理にかなってるな……」
水を流してみると――おお、すげぇ。
きれいに畝に水が行き渡った!
「おおお!?流れたぞ!」
「おい、田んぼ全体に水が回った!」
「こりゃあ豊作の予感だな!」
村人がざわつき、俺は胸を張った。
「これぞ!のーち!かいかく!」
拍手が起きる。
いや……拍手というか、笑い混じりの手叩き。
「ははは!殿は面白いことを思いつくなぁ」
「おーい、殿が“かいかく”だってよ!」
村中に「かいかく」という新しい言葉が広まった。
――――
そして数か月後。
確かに収穫量は増えていた。
「殿の“かいかく”のおかげだな!」と村人が笑っている。
俺は天を仰いだ。
あぁ、信長よ……あなたは銃を持って天下を制したが、
俺は鍬で天下を取るかもしれん。
赤ん坊布武丸、2歳。
農地改革で初陣を飾った秋の出来事である。