第2話:殿、まずは農地改革でございます
俺の転生先は――どうやら「どこぞの領主の家」。
まだ赤ん坊だから詳しくはわからないが、屋敷はやたらデカい。メイドっぽい人がいる。兵士っぽい人も出入りしてる。
領主の子息=俺。
つまりこれは、戦国オタクが一番テンション上がる「国持ちルート」!
「天下布武」いけるやん。
ただ問題は……。
「うぶー」
俺の身体がまだ赤ん坊ってことだ。
戦もできなければ、采配もできない。歩くことすらままならん。
―――
で、数年経った。
よちよち歩けるようになった俺は、庭に出ては村人たちの姿を観察していた。
彼らは鍬を振るい、汗を流し、畑を耕している。
だが――俺の戦国脳が真っ先に気づいた。
「あれ……畝、ガタガタじゃね?」
田んぼもどきはあるが、水が全然均されてない。水路も適当。
これじゃあ収穫量、ぜってー少ねぇ。
戦国時代の米の収穫量だって、灌漑次第で跳ね上がったんだぞ?
今ここで農業革命を起こせば……!
「……農地改革だ!」
赤ん坊ボイスで叫んだ俺を、村人のおっちゃんが怪訝そうに見ている。
「……殿?今『のーち』って言いました?」
「のーち、かいかく!」
おっちゃんは眉を寄せ、近くにいた仲間にひそひそ声で話す。
「また殿が変なこと言ってるぞ」
「まあ、子供だからな……放っとけ放っとけ」
俺の決意は、完全に「幼児の奇行」として処理された。
―――
だが、俺は諦めない。
赤ん坊なりに絵を描いた。
木の枝で土に「水路の図」を描き、指で「ここから流す」ってやってみせた。
「ほら!こーして、水を横に!畝はまっすぐ!」
「……殿……なんか必死に説明してるぞ」
「おお、かわいいな。よしよし」
頭を撫でられた。違う、そうじゃない。
これ領地経営の第一歩だから!遊びじゃないから!
でもまあ、いい。最初は理解されなくても、やがて実績が追いつく。
俺は戦国オタク布武丸、夢は天下統一。
第一歩は――農地改革。
赤ん坊が指で土をいじった落書きから、後に領地の豊穣が始まるなんて、この時はまだ誰も信じてなかった。
布武丸、2歳。
天下統一計画、まずは畑からスタートした夏の出来事である。