第1話:天下布武(てんかふぶ)って乳児が言うことじゃないよね?
……気がついたら、やたら狭くて柔らかい空間にいた。
いや、狭いっていうか、手足を伸ばしても届かない感じで、視界もぼやけている。
しかも、目の前にあるのは布のような布じゃないような……ザラザラで、なんか古臭い。
赤ちゃん?これ、俺赤ちゃんになってない?
手を動かしてみる。ぷにっとした。
おお……これは……。
赤ちゃんの手だわ。
「うぶぁー」
あ、声出た。俺の声?いや、泣いてる?泣かされてる?わからん。
とにかく分かることは一つ――俺は戦国オタクの会社員・布武丸、齢三十路。
ブラック企業に疲れ果て、ついに「家康の生涯年表」眺めながら眠ったその翌朝……気が付いたら赤ん坊でした。
転生ものかこれ。
ついに来たか俺の天下統一ルート。
でもさ……赤ん坊スタートって、どうすんのこれ?
信長の「天下布武」だって、赤ん坊の時はミルク飲んでただろ?
「おぎゃー」
いや、俺も飲まなきゃ死ぬけど。
―――
母親(?)と思われる人影が近づいてきた。
髪は青紫で、目は金色。もうファンタジー。戦国どころじゃない。
それに、俺の体がふわっと浮いた。
浮いた!?抱かれてる!?いや、触られてないのに!?
魔法やん。
完全に戦国+ファンタジーの世界観やん。鉄砲も忍者も陰陽師もいる感じのカオス戦国じゃん。
そんな中で俺ができることはただ一つ。
「……てん……か……ぶ……」
言えた。たぶん言えた。
母(?)が「あらあら〜」って笑ってるから意味は通じてない。
でも俺はこの瞬間、己の旗印を掲げた。
天下布武。
赤ん坊布武丸、ゼロ歳。
生まれて早々、天下統一の野望を抱いた……が、村人からはただの可愛い産声としてスルーされていた春の出来事である。