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婚約破棄から始まる宇宙旅行 (Eine Weltraumreise, die mit einer geplatzten Verlobung beginnt)

『私、ブライアン・ハイランドは、マルガリア・フォン・アンベルクとの婚約を破棄する!』

 画面の中では美丈夫が婚約破棄を叫んでいる。

 それに続いてマルガリア嬢の罪の数々を並べ立てる。最初は同級生のコーンウォール男爵令嬢への虐めの数々だったが、最後は王国に対する謀反という壮大な話になった。

「何を観ているんですか?」

 副長のヴァネッサ・ヘルネが隣から俺のコンソールを覗き込んできた。

「王国の宣伝放送(プロパガンダ)だよ。しかし内容に一貫性がないな。最初は子供同士の虐めの話だったのに、最後は謀反ときた。帝国(うち)は王国の属国じゃないんだから謀反なんて起こしようがないんだが……こんなのが王太子って、王国は本当に大丈夫なのか?」

「艦長が心配することではないでしょう」

「王国じゃなくて姫様の心配をしているんだよ。この王太子(バカ)がトチ狂って帝国(うち)の姫様に手を出さないとは限らないだろう」

「さすがにそこまでのバカではないのでは」

「バカじゃなかったら、この政略結婚の意味を理解できないはずはないんだがね」

「いくら王太子といえど、独断で軍は動かせないでしょう」

「あれ、知らないの? ゴードン国王は急病で入院して、今は王太子が摂政を務めているんだ」

「それってつまり……」

「うん、今は王太子が代理で王命を出せるんだよ」

「……さすがに周囲がお諌めするのでは?」

「じゃあなんで婚約破棄なんて暴挙をしたんだ」

「……」

「我々は軍人だからな。最悪の事態を想定して、それに備えるしかない」

 俺がそう言ったせいじゃないだろうが、船務長が最悪の報告を上げてきた。

「〈ブリュンヒルデ〉を捕捉、王国の軍艦の追跡を受けています!」


 ハイランド王国とアンベルク帝国の仲は、昔からそれほど良くはなかった。そこで両国の緊張緩和のためにハイランド王国のブライアン王太子とアンベルク帝国のマルガリア第一皇女の政略結婚が決まり、マルガリア皇女がハイランド王国の王立学院へ留学した。ブライアン王太子の同級生となって、関係を深めるはずだった。

 ところがアホ王太子は婚約者を放置して、国内の貴族令嬢に入れ込んだらしい。そして学院の卒業式のサプライズで、婚約破棄を宣言した。

 そこでマルガリア皇女は政府専用船の〈ブリュンヒルデ〉でハイランド王国を脱出し、アンベルク帝国へ帰国することになった。俺たちの乗る帝国海軍高速巡洋艦〈ロスバッハ〉は〈ブリュンヒルデ〉が公海に出たところで護衛に就くことになった。

 そして王国の領海のギリギリ外側で〈ブリュンヒルデ〉を待っていたら、王国の軍艦が姫様のケツをつけてきたというわけだ。


「〈ブリュンヒルデ〉と王国軍艦は交戦状態にあるのか?」

「いいえ、追跡されているだけです」

「まだ照準レーダーは照射するなよ。牽引(トラクター)ビームを準備しろ。目標は〈ブリュンヒルデ〉」

 コンソールで状況を確認する。〈ブリュンヒルデ〉を追跡しているのは王国宇宙軍のランカスター級駆逐艦二隻だ。まともに撃ち合えば巡洋艦に勝てる相手ではない。〈ロスバッハ(こっち)〉の姿を見て引き返してくれればいいのだが。

「王国軍駆逐艦、発砲! 標的は〈ブリュンヒルデ〉!」

 とうとう一線を越えたか。コンソールで確認したが、〈ブリュンヒルデ〉はまだ王国の領海内だ。

「牽引ビームを照射、〈ブリュンヒルデ〉を公海まで引っ張り出せ」

「艦長、攻撃許可を!」

 そう言ったのは砲術長だが、艦橋にいる全員が目線で同じことを訴えている。

「〈ブリュンヒルデ〉を本艦の防御力場(シールド)に引っ張り込むのが先だ」

 駆逐艦は艦砲が〈ロスバッハ〉に当たりそうになる直前で攻撃を止めた。

 〈ロスバッハ〉は〈ブリュンヒルデ〉を自身の防御力場の中に引き込むと、人工重力場を展開して最大加速度で離脱した。二隻の王国駆逐艦は領海を出ることなく、Uターンして引き返した。

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