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聖女なんてやってらんない(シャノン視点)

 は? 生涯独身ってどういうこと? この私が結婚できないの? じゃ、殿下は誰と結婚すんのよ! 絶対に認めないわよっ!



 私の手を取って、「聖女様」と、瞳をうるませていた殿下も、陛下の命令には逆らえないのか、一言も反論せずに言いなりだし。

 あー使えねーやつ。ムカつく!

 もうちょっとで陛下に向かって「ふざけんな!」って、怒鳴りつけるところだったわ。




「聖女様。お母上がお見えです」


 むしゃくしゃしていたから、ちょうどよかった。言いたいことが山ほどあるのよ。

 うやうやしくかしずく騎士は、ただの使い。

 国王や王子こそ、そうやって私の前にひざまずくべきでしょ。

 一度も顔を見せに来ないなんて、本当に許し難い!




 あの日、光るクリスタルを手にしたとき、私の運命が動き出したと思ったのに。

 いざ王宮に来てみれば、敷地の離れにある、こんな塔の狭っ苦しい部屋に案内されたまま放ったらかし。


「聖女様は代々、王都の中心にそびえ立つこの塔から、国中をそのお力で慈悲深く照らされてきたそうです」


 下っ端の騎士になんかに説明されたって、ありがたくもなんともないし。

 ほとんど幽閉されているようなもんじゃない!




 螺旋階段をくるりと一回り下りると、下の階を担当する騎士が私を見てひざまずく。


「ふんっ」


 なんで「え?」って驚いた顔をする訳?

 私があんたみたいな騎士に、おいそれと声をかけるとでも思ったの?



 通された部屋では、お母様が優雅にお茶をいただいていた。


「お母様! どういうことなの! 話が違うじゃない! 私はアデリーンの代わりに殿下と結婚するんじゃなかったの? だいたい、こんなところに閉じ込められて、自由に外出もできないのよ! 私、あれから一度もお買い物にすら行ってないんだから!」


 部屋の入り口を警護している騎士がギョッとした顔をしてこっちを見た。


「盗み聞きしてんじゃないわよ。外で見張っていなさい!」

「は、はっ!」


 騎士が慌てて部屋の外へ出て行く。

 ふん。どいつもこいつも。ムカつくったらありゃしない。


「シャノン。落ち着きなさい。まさか陛下が、純潔を失うと聖女の力も失うって信じているとはね。そんな伝承を真に受けているなんて……。まあ、あなたが聖女の力を発揮すれば、そのうち、嫌でも言うことをきくようになるわよ。そうなってもらわないと困るわ」


 ……困る? お母様が? 相変わらず、自分が一番なのね。


「聖女の力を発揮って? クリスタルを掲げて適当に祈っておくだけでしょ?」

「そうよ。クリスタルさえあればいいのよ。王都が魔物に襲われないのは、あなたが祈っているからだって言いなさい」

「なあんだ。そんなこと。じゃあ、もう随分日にちがたっているし、陛下に言ってくるわ」


 お母様まで、さっきの騎士と同じような「え?」って驚いた顔をした。


「ま、まだ早すぎるわよ。やっと国中に聖女が現れた知らせが届いたくらいよ。せめて、あと一月か二月は待った方がいいわ」

「そんなに? じゃあ、お母様。せめて自由に外出できるように陛下と話をつけてきてよ」

「ま、まあ、そうね。それくらいは許されてもいいはずよね。わかったわ」




 三日後。明らかに高位だとわかる身なりのよい騎士がやってきた。


「聖女様。陛下より、聖女様を王宮へお連れするよう、命を受けてやって参りました。どうぞお支度を」


 やっとなの? 随分待たせてくれたわね。





 王宮はきらびやかで、廊下を歩いているだけで気分がアガる。

 やっぱり私はここに住むべきだわ。



 陛下の前まで案内されたけど、聖女の私がひざまずく必要ある?

 どこからか「おほん」と咳払いが聞こえた。

 つまり、ひざまずけってことね。ふんっ。


 仕方なくひざまずいて挨拶をすると、陛下はにっこり笑った。


「聖女様に、東方の魔物の討伐をお願いしたい。トリアノン領で魔物による被害が拡大しているらしいのでな。ぜひ、騎士の先頭にたって、その聖なる力を存分にふるってほしい」


 はあっ? 何を言ってんの? トリアノン領? ど田舎じゃないの!


「それなら、私がここから騎士の皆様に向けて、祈りを捧げますわ」

「いやいや。これは聖女様のお披露目もかねておるのでな。皆に、聖女様が魔物を討伐する姿を見てもらうのも、大事な目的の一つなのでな」


 はあああんっ?!


 この私が、そんな辺鄙な田舎になんか行く訳ないでしょ。

 そもそも、大切な聖女をわざわざ危険な目に遭わせようなんて、どういうつもり!

 誰が魔物の討伐になんか行くもんですか。クリスタルを持って祈れば、なんだってできるはずでしょ。


「では、出立の日は改めて伝えるとしよう。それまではゆっくり休まれよ」


 はあ? 私、一言も「行く」って言ってないでしょ。なんでそうなるのよ!


 周囲にいた貴族連中まで、「やれやれ助かった」とか「これで安心だ」とか、勝手に押し付けてんじゃないわよっ!


「では、お部屋までお供します」


 いつもの身分の低そうな騎士が声をかけてきた。……ムカつく。

 今に見てなさいよ! 覚えてらっしゃい!

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークに評価、いいねまで、本当にありがとうございます!

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