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聖なる力の解放

 周囲を埋め尽くす邪悪な負の感情。

 怨念。嫉妬。憤怒。貪欲。悲嘆――。

 それらが絡まり合いながら増大し、べっとりとした粘液となって、森中を覆い尽くそうとしている。



 ……いけない。

 これに包まれてはいけない。





 ……誰に、何に向かって吠えているの?

 ……その怒りの、悲しみの源すら、もう思い出せないでしょう?

 ……今こそ解き放つのよ。

 ……ゆったりと自分自身を見つめて。

 ……自分を苦しめているものを手放して。

 ……辛かったでしょう。もういいのよ。

 ……あなたたちにも、行ける場所があるわ。

 ……さあ、旅立ちなさい。





 ……なに、これ? 体から力が抜ける。

 体が空気に溶けて、森と一つになったみたい。


 辺りは真っ白だけど。霧が出ているのかしら。

 この清々しさ。あの湖と似ているわ。

 ……感じるわ。温もりを。




「アデリーン! 大丈夫か? 怪我はないか?」


 ……ユリウス? 私、ユリウスの腕の中にいるの?


「これが噂の癒しの歌声なのか」


 テオ様の声だわ。


 他にも大勢の話し声が聞こえる。ああ、でも目を開けていられないわ……。


「あのお方は、聖女様――なのか?」

「見てくれ! 冬なのに花が咲いているぞ!」

「本当だ! さっきまで黒い泥のようなものが溜まっていたのに」

「ああ、空気が気持ちいい。清浄な空気に変わっている!」





 気がついたときは、既に城の中だった。

 毛布に包まれて、ホールの椅子に座らされていた。


「はあ。やっと気がついたようだな。大丈夫か」

「ユリウス?」

「ああ。驚いたぞ。突然お前が光りだして――」

「え? 私が?」

「ああ、天国に来たのかと思ったくらいだ。もう見渡す限り光に包まれていた」

「本当に?」


 ドタドタと大きな足音が聞こえる。それがこっちに近づいてくる。


「聖女様! あ、えっと。奥方様。この度は、なんとお礼を申し上げたらよいのか……。私は、いや私どもは、もう……」


 感極まって泣きだしたのはレオナード様だ。


「魔物は全て討伐した。もう心配ないそうだ」


 そう話すユリウスの手を、レオナード様が握って、ぶんぶん上下に振っている。




「魔物は、剣で切り倒すことができます。ただ、そうやって倒しても、不浄のものに宿り、復活することがあるのです」


 ……テオ様の声。戻られたんだ。


「――ですが、聖なる力によって昇華したものは、もう魔物にはなりません」


 ああ、私、また目をつぶっているわ。

 ……それでユリウスは怒ってないのね。




「テオ様! 聖女様の部隊も帰還しました。負傷者が六名ほどおりますが、幸い命に別条はありません」

「そうか。お前は王宮に知らせるんだ。俺はレオナード様と話してくる」

「はっ」


 タタタッと走り去る騎士の足音と、テオ様とレオナード様の話し声が遠ざかっていく。




「テオから聞いたんだが、結局、聖女様のクリスタルは、光らずじまいだったそうだ」


 ……シャノン。落ち込んでなきゃいいけど。

 再び目を開けると、ユリウスが誇らしげな表情で私を見ていた。


「森の奥の方に大挙して現れた魔物たちも、お前の光を浴びた途端、一瞬で消えたそうだ。騎士たちどころか、聖女様まで、ポカンと口を開けて驚いていたらしい」


 ……私の光? あの白い霧のことかしら。

 近くにいたユリウスだけじゃなくて、先頭の方にいたテオ様たちにも見えたってこと?


「テオ様がそう仰ったの?」


 ユリウスが、みるみるうちに険しい目つきになる。


「どうして、あいつの名前を呼ぶんだ!」

「い、いや、そんなんじゃなくって」


 問答無用だと、ユリウスが私の体を引き寄せた。

 私の上唇を軽くなぞるように、ユリウスの唇がすべっていく。


「あ、おほん」


「きゃっ!」


 テオ様!

 あのテオ様が、顔を真っ赤にしている。


 私たち、それだけ恥ずかしいことをしていたって訳ね。


「もうすぐ騎士たちがここに来ますので、そういうことは、どうかお部屋で」

「ああ、そうする」


 ユリウスは、なぜか勝ち誇ったような顔で威張っている。

 ……もう。

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