聖女じゃ無いんです!なので勇者とも王子とも結婚はしません!
ヴィザンリード王国では、国王を始め国の重役たちが揃って頭を抱えていた。
「うーむ……、どうしたものか……」
魔王が復活し、各国から勇者だったり、魔導士だったりとその国随一の力を持つものを輩出し、魔王討伐隊を組むとの要請に、弱小国のヴィザンリード王国は出せる者が居なくて悩んでいたのだ。
「我が国は、魔法も剣術も栄えていない…。一年中気候が良いだけの観光地だ……。魔王討伐に行けるような人物など…」
「隣国は勇者を見つけ出したらしい。他国からは剣に優れた王子を選出したとも聞いた……。となれば、我が国からは『聖女』でも出さねば役不足であろう……」
しかし、『聖女』など居ない。ヴィザンリード王国に居るのは、三人の王女だけである。ふと、国王は自分の娘達の顔を思い浮かべ、縋るような気持ちで声を絞り出した。
「アミリアならば…誤魔化せるかもしれぬ…」
「あ、あの、運だけは良いアミリア王女殿下ですか!!」
「『強運』の持主であるアミリア王女殿下ならば、『聖女』に成りすませるかもしれませんなっ!!!!」
一筋の光がヴィザンリード王国に差した瞬間であった──
「へ………?」
当の本人を除いては──
◆◆◆
一年後──
「魔王が討伐されたぞーーーーっ!!!」
「流石は各国の選抜パーティーだっ!!!英雄たちを出迎えろーっ!!!!」
長年に渡り人々を苦しめていた魔王がついに倒されたとの一報が大陸全土に駆け回った。各国の強者を集めた魔王討伐パーティーの活躍は人伝えに広まり、英雄たちの凱旋に人々は色めいていた。
その中で一人だけ、今にも倒れそうな顔色で天を仰ぐ者が居た。それは、ヴィザンリード王国の第一王女であり、『聖女』と言われるアミリア・ヴィザンリードであった。
──ああ、神よっ!!!民を欺くわたくしをお許しくださいっ!!!どうか、最期までバレませんようにっ!!!!
アミリアはこの一年を振り返っていた。まさか、人よりちょっと運が良いだけの自分が『聖女』を名乗らされ、魔王討伐パーティーの一員に選ばれるなんて思っても見なかったのだ。
すぐに正体が露見し、国に帰されると高を括っていたが、何故か『強運』により、聖女として過ごせてしまっていたのだ。
何せ、勇者や剣豪、魔導士といった各国の代表となるメンバーが強すぎたのだ。『聖女』の癒しの力など一切必要なく、無傷で魔王討伐まで行ってしまった。アミリアはただ祈る振りをするだけで、全く力になって居ない。応援だけは人一倍頑張ったが……
魔王に至っては、聖女の聖なる祈りで弱体化させる作戦を練られた時にはもう終わりだと覚悟したが、魔王城に行ったら魔王は何だか前日にお腹を壊したようで弱体化しており、簡単に討伐されてしまった。聖なる祈りは使用せずに済んだのだ。
そんな幸運が積み重なり、何の力も発揮しないまま、アミリアは『聖女』として魔王討伐を終わらせてしまったのだ。
後は気付かれずに母国に戻るだけである。最後まで『聖女』の振りをして、円満にこの魔王討伐の旅を終わらせたい。そう心から祈っているのに──
「アミリア、どうか私と結婚し、我が国の王妃となってはくれないか。我が愛しの聖女よ」
「いいやっ!!俺と結婚して、冒険の日々を送ろうぜっ!!」
──どうして勇者様や王子に婚姻を迫られているのよーーーーっ!!!!!
アミリアは心の中で大いに叫ぶのであった──
◆◆◆
「ディスター様、ランベルト殿下、わたくしはお二人の気持ちを受け取ることは出来ませんわ。母国に帰り、母国の為に尽くしたいと、そう思っております」
この一年かぶり続けた『聖女』の演技で、お淑やかに応えるが、勇者であるディスターも、一国の王子であるランベルトも全く引こうとしなかった。
「何故だっ!!君以外に誰が王妃に相応しいと言うのだ。旅の中で健気に祈り、一生懸命皆を鼓舞する君に、もう私の心は囚われている。どうかこの手を取ってくれ」
──いやいや、似非聖女よりも相応しいお相手は沢山いらっしゃいますから!!むしろ正体が露見したら一番やばい相手だわ。断固拒否!!
「堅苦しい王宮なんか、アミリアに似合わねぇよ!俺と冒険しよう!」
──いいえ、わたくしは冒険など出来ません!だって普通に運がいいだけで祈りとか癒しの力なんでありませんから!!
脳内ですっぱり断り文句を繰り返すが、真実をいう訳にもいかず、困ったように笑みを浮かべるしか出来ない。一刻も早く逃げ出したい。そんな思いで居ると、アミリアの前にふっと影が出来る。
「二人とも、アミリアを困らせてはいけませんよ。真実を言ってあげましょう。アミリアは私と婚姻の約束をしているので、貴方たちの求婚は受けられないのですよ」
「なっ!!!!」
誰よりも驚きの声を上げたのはアミリアであった。ディスターとランベルトの前でアミリアを庇うように立ちはだかったのは、魔導士であるミケルド・ヴィーであった。
黒髪に紫色の切れ長な瞳に銀縁眼鏡をかけたミケルドの綺麗な顔がアミリアに近付く。耳元で、
「貴女の正体を露見されたくなければ、話を合わせてください」
そう囁かれ、アミリアは肩を揺らした。
──ば、バレているわ、ミケルド様にぃぃぃぃぃ!!!!
ガタガタと震えながらも、アミリアは必死に笑顔を作った。ここで怪しまれるわけにはいけない。
「ほほほほほほ。そ、その恥ずかしくて内緒にしていましたの。そ、そう言うことですわ」
「そ、そんな……」
「お、俺は諦めないぞっ!!!!」
ショックを受けたような二人に、アミリアは心の底から謝りたい気持ちだった。しかし、『聖女』と偽ったのがバレて、処罰を受け、自国が攻め滅ぼされるよりはマシだ。今はミケルドに従うしかない。
「では、婚約者と二人っきりになりたいので失礼します」
「お、おい、待てっ!!」
ミケルドは怪しい笑みを浮かべ、転移魔法を発動させる。魔法陣の光に包まれたアミリアとミケルドは、勇者と王子の前から姿を消したのであった──
◆◆◆
転移したのは、薔薇が咲き誇る庭園のような場所だった。二人っきりの庭園で、アミリアはミケルドを恐る恐る見つめた。するとミケルドは驚くくらい優しい表情でアミリアを見つめており、その蕩けるような視線に射貫かれ、危うく腰を抜かしそうになったアミリアであった。
「ひぇっ!!」
「心外ですね、そのように驚かれるなんて。やっと貴女と二人きりになれたと言うのに」
まるで口説かれているような甘い雰囲気アミリアは思いっきり目を開いた。あのいつもクールで表情を変えず、冷静沈着な魔導士のミケルドは何処に行ってしまったのだろう。
「ミ、ミケルド様、その、先程のお言葉は一体っ!!わたくしの正体とはっ!!!」
動揺する気持ちを誤魔化すかの様に捲し立てると、ミケルドは面白そうに目を細めた。
「おや、『鑑定』が出来る私が気が付いて無いとお思いでしたか?貴女は『聖女』ではありませんね?」
「ぐっ!!!!」
思いっきり核心を突かれ、アミリアはカエルが轢き潰されたような声を上げてしまった。やはり、ミケルドにはバレていたのだ。
「魔王を倒した今、貴女はこのまま『聖女』と認識されたまま国に帰りたい。そうではありませんか?」
「そ、その通りです!!どうか見逃していただけませんか!?」
あと少し、あと少し『聖女』で無いことがバレなければ、無事に任務を終えて国に帰れるのだ。魔王も何だかんだで倒せたし、どうか穏便に全てを闇に葬りたいと願うアミリアは必死の形相でミケルドに懇願する。
「そうですね、私のお願いを一つ聞いて下されば、貴女の正体は口外しません」
「ミケルド様の…お願い?」
何だかとっても嫌な予感がする。アミリアの野生の勘がそう告げている。
「はい。先程も言いましたが、アミリア、私と結婚してください」
「えええええ!!!本気ですか!?私、ただの『運がいい』だけの弱小国の王女ですよ!?ミケルド様には相応しくありませんよぉぉぉぉ!?」
ニッコリと微笑んだミケルドは、先程の求婚を取り消すつもりなど無さそうに、アミリアの手を取った。
「では、勇者や王子の求婚を受けるのですか?それはそれで面倒くさそうですけれども。貴女の正体を知り、フォローできる私が最適ではありませんか?それに私は国には所属していますが、貴族でも王族でもありません。お金だけは腐るほど在りますので、貴女が嫁いで下さっても堅苦しくなく、かつ優雅に暮らせますよ?」
自分を売り込んでくるミケルドの言葉に、『優良物件』という肩書が後ろに見えた錯覚まで起きてしまう。魔王討伐の旅でも、ミケルドはアミリアを影ながらフォローしてくれ、何なら少しときめいていたのは秘密だ。
しかしうまい話過ぎて勘ぐってしまう。何故、魔導士としても最高峰の彼が、『聖女』でもない冴えない自分を選ぶのだろうと。
「貴女を愛する気持ちならば誰にも負けません。好きです、アミリア。私と生涯を共にしていただけませんか?」
「えっ!?ミケルド様、わたくしの事好きなのですか!?正気!?だって、わたくしは『聖女』でもない弱小国の王女ですよ?ミケルド様に何の得もありませんよ?」
心の底から驚いたように言葉を発するアミリアにミケルドは深いため息を吐いた。そして、アミリアの頬に手を添えて、近距離でそっと呟いた。
「例え貴女が何もないその辺に転がっている石ころだとしても、アミリアならば愛せます」
「石ころ……」
「私はこの有り余る魔力で誰からも恐れられ、普通の人間扱いなどされなかった。けれども、貴女だけは普通の『ミケルド』として接してくれた」
「え……!?だって、ミケルド様は、ミケルド様ですわ!そんな普通なことで……」
それが『普通』と言ってのけるから、こんな異質な自分に捕まってしまうのだとミケルドはアミリアを少し哀れに思ったが、もう逃がすつもりなど無かった。
「どのような弱い敵と戦っていても、精一杯声を張り上げて応援してくれる貴女が大好きです。それに何の力も無いはずなのに必死に神に祈る姿も…可愛らしかった」
「っ!!!!」
「まだまだありますよ?貴女を好きな理由。聞きますか?」
──ええええ!!!本当に、本気なの!?
真っ赤に染まったアミリアの顔に、ミケルドの顔が近付いて、唇が触れ合いそうになる。
「大好きですよ、アミリア」
重なり合った唇を、アミリアは嫌だとは思わなかった。それ以上にドキドキと胸が高鳴り、不相応だからと封じ込めていた気持ちが溢れそうになる。
──ああ、わたくしの『幸運』を使い果たしてしまったのかもしれませんわ……
アミリアが何の効果もない祈りを捧げていた時に、さり気なく皆に補助魔法を施してくれていたミケルドも、戦闘中もアミリアだけに結界を張って守ってくれて、何かある度に気にかけてくれていた彼の優しさに、ずっと惹かれていたのだ。
「こんな私で…構いませんか…?」
「はい。貴女がいい」
ポロリとアミリアの瞳から涙が零れ落ちた。
「わたくしも、ミケルド様が…好き……」
「ああ、可愛いアミリア。生涯貴女を愛し抜き、幸せにすると誓います」
「ふ、ふつつかな、ただの王女ですが、よろしくお願いいたします!」
こうして、『聖女』アミリアは、魔導士ミケルドと結ばれ、末永く幸せになったと、後の世界史に刻まれたのであった──
◆◆◆
「なあ、俺ら凄い当て馬じゃね?」
「ミケルドには勝ち目が無いからな。アミリアの幸せを祈るのみだ」
「強がって、流石は王子様だな。もう仕方ない、一緒に冒険するか!?」
勇者と王子が冒険者として名を轟かせるのも、また別の話である──
END
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