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本当に学業を修めに来ただけです  作者: 樫本 紗樹
番外編

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結婚式

 ボジェナは無事首席で六年の過程を終え、大学を卒業し教授になった。メイは自分の役目は終わったと大学を去ったが、それでも今後も協力してくれる事になっている。そして、ボジェナは結婚式の日を迎えていた。

 レヴィ式に則り、ボジェナは白いウェディングドレスを身に纏っていた。このドレスはラナマンの仕立屋が用意した物だ。身に着けている宝飾品もラナマンの商人から購入した。領地に還元したいと言うフリードリヒの思いに、彼女は反対する理由もない。

 そして式の前に、ボジェナを訪ねる二人の女性が居た。一人はライラ、そしてサマンサである。

「はじめまして。フリードリヒの姉、サマンサです」

「はじめまして。ボジェナです」

 結局、ボジェナは婚姻届に署名をしていない。今日、皆の前で署名をして正式に夫婦となる道を選んでいた。しかし教授になりレヴィ王国での永住権を手に入れた彼女にとって、既に母国の名字など語る必要のないものだ。

 初めて会うサマンサは慈愛に満ちた笑みを浮かべている。ボジェナはフリードリヒとライラから聞く話で良い人なのだろうとは思っていたが、自分が認められなかったらどうしようと一抹の不安を抱いていた。しかしそれは杞憂だったようだ。

「フリッツはとても寂しがり屋で傷付くのを恐れる子なの。あの子を嫌いにならず、出来れば一生愛してあげてね」

 サマンサはボジェナの手を取ってそう言った。懇願されるような瞳を向けられ、ボジェナは困惑する。確かに今日まで何度も早く一緒に暮らしたいとは言われていたが、寂しいからだとは思っていなかったのだ。

「女性に対しての振舞いは私が叩き込んだわ。エドお兄様のようにはならないと思うから、それは安心して頂戴」

 サマンサの言葉にボジェナは頷く。ボジェナも婚約者として五年以上過ごしていたので、レヴィ王家には詳しくなった。エドワードが色々な情報を集め、またナタリーとアリスの行動を監視している話も聞いている。

「サマンサが叩き込んで、あの無表情なの?」

 二人のやり取りにライラが割り込む。それを聞いてサマンサは辛そうな表情を浮かべる。

「フリッツは心を許さないと表情が出せないの。勿論、作る事は出来るのだけれど。多分、ツェツィーリア様との関係が根深いのだと思う」

 一度ケィティを訪問して以来、フリードリヒは両親に会ってもいなければ手紙さえ書いていない。今回の式にも呼ばなくていいのかボジェナは確認したが、不要と言われてしまっていた。そもそも親族で今回の結婚式に呼ばれたのはサマンサとライラだけである。

「私は両親に愛されていたからフリッツの本当の心はどうしてもわからないの。難しいとは思うけれど、寄り添って欲しいわ」

「はい、頑張ります」

 ボジェナも母の記憶は乏しく、父は思い出したくもない。それでも乳母とバルバラの温かさ、そしてアルロの親切があって今がある。フリードリヒとは世間が何と言おうと、二人らしい家族になりたいと彼女は思っていた。

「それと研究についてなのだけれど、兄は気にせずボジェナさんの極めたい研究を進めてね」

 メイが携わっていた研究はエドワードがナタリーの為に依頼をしたものだ。私利ではあるが、女性の為の医学は今までなかったのだから、国王命令でなければ簡単には進まなかっただろう。

「私は女性の為の医者になります。フリッツさんからも論文の題目が何になろうと応援すると言われていますので、色々と取り組む予定です」

「それなら良かったわ。フリッツが国王の側近でいるのは、やりがいもあるのでしょうけれど、ボジェナさんの為でもあると思うの」

 ボジェナはサマンサが何を言いたいのかわからず問うような視線を送る。サマンサは優しくボジェナに微笑みかけた。

「国王である兄に意見を出来る人はとても少ないの。フリッツはボジェナさんに会わなければ、その立ち位置など望まなかったと思う。ボジェナさんには感謝してもしきれないわ。フリッツを立つべき場所に立たせてくれて本当にありがとう」

「そんな、私は何もしていません」

 恐縮するボジェナに、サマンサは首を横に振る。

「私が何度言っても聞いて貰えなかった。兄を支える為の勉強環境を整えたのに、医学へ進んだ時はどうしようかと思ったわ。それでも今ならボジェナさんに会う為に必要な道だったのだと思う」

 サマンサは異母兄弟でも仲良くするべきだと思い行動していた。しかしなかなか兄弟の仲は良くならず、自分の希望を叶える事無く嫁ぐ事となってしまった。それがずっと心残りだったのだが、ボジェナによってフリードリヒの心の持ち方が変わったのだ。常に無表情で淡々と生きてきたフリードリヒがボジェナの為に行動する姿を、サマンサはエドワードからの手紙で知ったのだが、近くで見守れなかったのが少し悔しい。

「失礼致します。そろそろ庭へお願いします」

 扉の奥から声がかかり、ボジェナの代わりにライラが返事をする。

「積もる話もあるけれどまずは結婚式にしましょう」

「はい」

 ボジェナは頷くと三人は庭へと向かった。



「本当に連れてくるとは思わなかった」

 フリードリヒは呆れながらセオドアを見つめる。セオドアは息子を抱えていた。

「息子にはヨランダ殿下をと思っているのだが、どうだ」

「まだ諦めていないのか」

 フリードリヒはわざとらしくため息を吐いた。後継を優先した故に、セオドアは家柄と年齢で結婚相手を決めていた。しかも正妻が妊娠中に側室を迎えており、ボジェナ以外に興味のないフリードリヒからしてみれば、セオドアは理解出来ない存在であった。その上まだ王家との繋がりを諦めていないと知って、付き合いをやめるか真剣に悩む。

「ボジェナ様の用意が終わりました」

 使用人の声に庭に集まっていた人々が振り返る。この場にいるのはフリードリヒ、セオドアとその息子、サリヴァン家の使用人達、アルロ、メイだけだ。そこにボジェナ、サマンサ、ライラが歩いてくる。フリードリヒはウェディングドレス姿のボジェナを見て嬉しそうに微笑む。それに気付いてボジェナも微笑みながら彼の元へ歩み寄る。

「とても綺麗です」

「ありがとうございます。フリッツさんもとても素敵です」

 フリードリヒとボジェナはお互い微笑み合うと、来客の方へ向かい合う。来客達は静まり、二人に注目する。

「本日は私達の為にお集まり頂きありがとうございます」

 フリードリヒとボジェナは一礼をする。

「私達はお互いを支え合い、尊重し合う夫婦になる事をここに誓います」

 フリードリヒとボジェナは再び一礼をする。あまりにも短い誓いに来客達は戸惑う。それを察してバルバラが拍手をすると他の者も続く。バルバラは事前に内容を聞いていて短いと思ったが、フリードリヒに長くても仕方ないと言われて従うしかなかった。

 フリードリヒの従者が机を運び、そこに婚姻届と筆記具を置く。まずはフリードリヒが、次にボジェナが署名をし、再び拍手が沸き起こる。ボジェナは嬉しくて心から微笑む。その彼女の微笑みを見て、フリードリヒも微笑む。ささやかな結婚式はこの後、夕暮れまで続いた。

 こうしてフリードリヒとボジェナは夫婦としての一歩を踏み出した。その後死が二人を分かつまで、誓いの言葉を守り、二人は仲良く暮らすのである。

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