1.幼馴染、宝くじ当選しました
俺の家の隣には、同級生の女の子が住んでいる。
中学に上がるまではお互いの家に泊まったり、幼い頃には結婚の約束を誓ったりと、幼馴染特有のとても人には言えない甘酸っぱい思い出がある。
そんな2人にも別れは突然やってくる。
男女の違いを意識し始め自然と距離がひらく思春期特有のアレだ。
例外なく俺達もその流れに翻弄される事となる。
その後偶然同じ高校に入学、再び距離が縮まる……と言ったお約束な展開もなく、俺は男子校、あっちは女子校に通っていた。
このまま大人になるまで、すれ違ったまま……。
別にそれで構わないと思っていたあの日までは……。
「ただいまー、母さん腹減った。飯出来てるー?」
「アンタ、親をメイドが何かと勘違いしてないかい?」
「は?母さんがメイド?ないない、自分の顔見て言いなよ。似合うわけないじゃん。歳考えて物言えよな」
ゴチン……鈍い音と共に頭に痛みが走った。
「黙らっしゃい。アンタ今日ご飯抜きね。まったく……お隣の鈴璃ちゃんは親孝行だってのに。どこで育て方を間違えたのか……」
頭を擦りながら、クソババアがメイドとか言うなと心の中で罵倒する。
「母さん、さっき鈴が親孝行とか言ってなかった?」
「言ったよ。鈴璃ちゃん宝くじ当たったんだって」
「え、マジで!?すげえじゃん、いくら当たったって言ってた?」
どうやら金額までは教えてくれなかったらしい。
大した金額じゃなければ、別に言ってもいいよな。
言わない所が怪しい。
「俺ちょっと本人に聞いてくるわ」
金の匂いを嗅ぎつけた俺は本職のハンターにも引けを取らない速さで移動する。
すぐ隣だけど。
ぴんぽ〜ん。
誰も出てこない、もしかして留守か?
居留守かもしれない、念の為もう一回鳴らしてみるか。
ぴんぽ〜ん
ガチャッ
ガンッ!!
ドアチェーンが引っかかって扉がしっかり開かなかった。
「どちら様でしょうか?」
「あ、鈴のお母さん。お久しぶりです雄一です」
「あら、雄君?久しぶりじゃない、元気だったかしら」
「はい、元気にしてますよ。ところで鈴は居ますか?」
「鈴は…………と、友達と遊びに行ってるわ」
今絶対おかしな間があったよな?これは居留守を使われている可能性がある。
ここはちょっとかまをかけてみるか。
「あ、そうなんですね。それじゃちょっとスマホに連絡してみるかな」
もちろんブラフである。俺は鈴の番号を知らない。
「あ、そう言えばあの子部屋で寝てたかもしれないわ。ごめんね、オバサンうっかりしてて。雄君ちょっと待ってて。今、呼んでくるわね」
そう言って扉が閉じられた。
鈴のお母さんの言動が明らかにおかしい。
間違いない、クロだ。
鈴は高額当選をしている、推測が確信に変わる。
暫し待つが、鈴が出てくる素振りはない。
本当に昼寝でもしているのだろうか?
ドアノブをそっと引いてみる。
鍵まではかかって居なかった様で、チェーンに阻まれたものの15cm程の隙間が出来た。
そこから中を覗くと、声が聞こえてきた。
「鈴?寝ぼけてないで、ちゃんと聞いて。今下に雄君が来てるから絶対に余計な事は言わないでね。宝くじの件を聞かれても絶対に金額は言っちゃダメよ」
「ん、わかった」
目を擦りながら階段を降りてくる鈴が見えた瞬間ドアを閉めた。
流石に隙間から覗いていたのがバレると不味い。
ガチャッ
ガンッ!!
ガチャッ
一瞬開いた扉がすぐに閉まった。
ガチャッ
ガンッ!!
チェーンを外せよこのバカ。
再び鈴と目が合った。
「雄、どした?」
お前も隙間からかよ!?
ちっ、マイペースなのは相変わらずか。
まぁ、仕方ない。
鈴のペースに合わせてたら話が進まないからな……。
「鈴、お前が宝くじ当てたって聞いたからさ」
「ん、当てた」
「おお、すげえじゃん。それでいくら当てたんだ」
「3億」
「え……?」
「雄、耳遠くなった?3億」
まじかよ……高額とは思っていたが、まさか3億とは思わなかった。
「鈴!?金額は言わないでって約束したじゃない!!」
鈴のお母さんが慌ててこちらに近づいてきた。
「お母さん、鈴を僕に下さい。絶対に幸せにします」
鈴をかけた……間違えた。
3億円をかけた僕の闘いがこうして幕を開けた。