第6話 英雄様は意外と外道
恨まれても構わない。あの時から、俺は罪を背負い続けているのだから。
第6話
「おっと、落ち着け俺…」
仮面を着けてて助かった…
今の俺は間違いなく、人に見せられない様な顔をしているだろうから…
はぁ、これじゃあ余計に不審者だ…
「という訳だ、お嬢ちゃん。この家をさっさと攻略するぞ。」
「はぁ!?ちょっと待って!?何がなんだか解んない!それに早く離して!」
と、困惑の表情と共にジタバタし始めるお嬢ちゃん。
しかし、今彼女を降ろせば逃げようとするだろう。こんな危険な状況で…
まぁ、この状況で俺を警戒しない方が可笑しい。むしろ、正しい判断だろう。
ん?これは………よし、コイツ等を利用するとしますか。
「…そうか、分かった。だが、気をつけろ…」
と、俺は彼女を離す。その瞬間、彼女は脱兎のこどく走り出す。
勿論、この現状と俺から逃げる為だ。
当然だ。当たり前の行動だろう。
此処が異界ではなければの話だが…
『新しい餌発見!』
『女だ!年頃の女だぞ!』
『ハヤク、タベタイ!オマエ、オレ、マルカジリ!』
『I want to eat you!』
「きゃっ!何よ、コイツ等…」
走り出した彼女の前に、大量の悪霊達が現れる。奴等の醜悪な姿に怯えた彼女はいとも簡単に囲まれてしまう。
このままだと、彼女は肉体的にも精神的にも汚されるのだろう。奴等はそういう存在だ。
心を侵し、肉体を貪り、自分達と同じ存在へと貶める。そうやって、仲間を作るのだ。
まぁ、そんな事は…
「俺がさせないんだけどな。」
『『『『ぴぎゃぁあああ!』』』』
彼女を悪霊達の前に割り込み、力の限り拳を振るう。奴等の身体は簡単に薙ぎ払われ、その場から消失していく。
相変わらず、断末魔が煩い奴等だ。それさえなければ、良い素材を落とす格好の獲物なんだがな…
「大丈夫か、お嬢ちゃん?」
「ひっ…」
「…俺に怯えるのは正直解る。何処からどう見ても不審者だしな。」
彼女が落ち着く様に、これ以上は怯えさせない為に俺は言葉を紡ぐ。
「しかし、今君が居る場所はさっき様な奴等が沢山ゴキブリの様に沸いてくる場所になった。」
「そ、そんな………」
あの化け人形に追い詰められていた時と同じ様に、彼女の顔は絶望に染まっていく。
ヤバい、余計に怯えさせちゃった!
「…でも、今は俺が居る。信頼しろとは言わん。むしろ、こんな奴を出会った直ぐに信頼する様な奴は、お人好しか馬鹿のどっちかだ。」
彼女は俺の言葉を黙って聞いてくれている。
ああ。ああ、そうだ。そう、それで良い。
「だが、俺はお前を助けると言った。俺は最後までそれを貫き通すつもりだ。お前が俺に対して何を言おうと、思おうと関係なくな。」
かなり無茶苦茶な事を言っている自覚はある。だが、無理にでも話を進めない限り、彼女は何度でも逃げようとするだろう。
だからこそ、俺は彼女を一旦離したのだ。今の状況を、どんな危険な事態に陥っているかを教える為に。
「だから、俺から離れるな。さっきみたいに守りきれるとは限らないからな。」
事実を突き付け、心を迷わせる。そうすれば、彼女は俺を頼るしかなくなるだろう。
はぁ、かなりクズな事をしている気分だ。
…でも、悪役なら何度でもやってきた。今さらの話だろう。まぁ、割と泣きたくなるけどね。
「…俺の手を取れ、お嬢ちゃん。」
この光景を見て、ふと思い出してしまう。あの異世界での出来事を…
あの時の彼女はこんな気持ちだったのだろうか?それとも、罪悪感など感じずに嬉々として手を押し付けて来たのだろうか?
「…………………………………………………………………はい。」
ああ、罪悪感で押し潰されそうだ。
だからこそ…
俺が必ず彼女を助けるとしよう。何が起きても絶対に。
異世界メモ
異界 (ダンジョン)
基本的に自然発生する魔物達の巣窟。
適度に生息する魔物達を間引きしないと、スタンピードが起きてしまう危険な場所であり、その間引きは冒険者が行っている。
定番の様に、難易度はSからEまでと設定されており、難易度が上がれば上がる程に強く困難に、そして利益を産む物となる。
ごく稀に強い力を持つ魔物の影響で異界を産み出す事があるが、今の所は意図的に産み出された事はない。