第11話 私の勝ち 『ひとりかくれんぼ』の終了
お姫様は眠りにつき、王子様は一人で動く
第11話
「よし、ちゃんと握ったな。」
「…………は、はい。」
ルティを握りしめた彼女は、今にも消え入りそうな声で答える。
その反応は当然だろう。何故なら、自業自得とはいえ、今から殺しを行うのだ。
本来なら意図的に何かを殺す事など無縁な子に、何かを一人で殺させるほど俺は外道ではない。
『くっ、やめるんだ!そんな事をしても、何も解決などしないぞ!』
奴の戯れ言など、聞くだけ無駄だ。
それにこれが正しい解答なのは、奴の反応で丸分かりだ。
「…………………行くぞ!」
「………………………はい!」
『やめろぉ!』
彼女は目を瞑りながら、俺と一緒にルティを奴の心の臓がある場所へと突き立てる。
『グプッ…く……そ………』
彼女を方を見ると、泣きそうになりながら震えていた。
嫌な感覚が襲っているのだろう。かつての俺がそうだった様に…
それでも、彼女は…
「私の勝ち!私の勝ち!!私の勝ち!!!」
絞り出すかの様な声で、宣言する。自身の勝利を。この下らない遊びの終了を。
ああ、よく頑張った。
これから先は…俺の番だ!
『ああぁ!私の役目がぁ!!私の力がぁ!!!』
「いい加減黙れ、木偶人形。中心と共に、灰になってろ!」
お嬢ちゃんからルティを離してやり、俺はルティを振り上げる。
あの木偶人形を、確実に地獄へと送る為に。この反吐の出る茶番を終わらせる為に!
「久しぶりに行くぞ、ルティ!『フェニックス・スラッシュ』!」
『ぢ、ぢくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
炎の斬撃が木偶人形を切り裂き、それと同時に出現した中心さえも焼却する。
これで『ひとりかくれんぼ』も終了し、異界も崩壊する筈だ。
「はぁ、終わった…」
少しだけ膝を着いてしまう。はぁ、やっぱり疲れるな、この力は…
「…ひっく!だ、大丈夫ですか……」
「…大丈夫だよ、お嬢ちゃん。」
不味い、少し心配させてしまった様だ。
それに…これ以上は此方も限界だ。
「…あの……その…………」
「…言いたい事は解ってるよ、お嬢ちゃん。」
「…………へ?」
「…お疲れ様。今は………ゆっくりお休み。」
俺は『睡眠誘導』と彼女に向かって呟く。
すると…
「ま、待っ…急に眠く……すぅ………」
彼女はゆっくりと瞼を閉じ、眠りに落ちる。
そう、そのままゆっくりお休み。そして、こんな悪夢なんか直ぐに忘れる事を願ってる。
『良かったんですか、パパ。』
「良いんだよ、ルティ。これから先は野暮だよ。」
『ひとりかくれんぼ』が終了した以上、これから先は関わらなくて良い領域だ。
まぁ、それだけじゃない。単純にこれ以上は見せたくない物を見せてしまいそうだったし…
…ふぅ、気持ちを切り替えよう。次は………
「…………さて。それじゃあ、黒幕さんにご対面と洒落こもうか!」
『レッツゴー♪』
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「なっ、もう異界が崩壊しただと!?」
あの異界は実験の一つだ。最初から崩壊を前提としていた物だ…
だが、早すぎる!異界が誕生して、まだ一時間しか経っていないんだぞ!
奴等が動くにしては早すぎる!せいぜい、奴等なら異界に辿り着いている頃くらいの筈だ!
「くっ、仕方がない。この場所から撤退するか!」
その行動は無意味な物となった。
何故なら、目の前に…
「へぇ、何処に撤退するのか教えてくれるか?」
『教えてくへる?』
悪趣味な仮面を着け、剣を肩に乗せた不審者が立っているのだから。
そして、こうも思った…
もう、逃げられない。既に、手遅れなのだと………
異世界メモ
睡眠誘導 (スリープ)
文字通り、睡眠を誘導する無属性魔術。
格上には効かないし、そもそも眠気がないと発動しても無意味な魔術。
そもそも作られた経緯が、不眠症を解決する為の物であり、悪用などには向いていないのだ。
これで眠りにつけると、幸せな夢が見れるとか見れないとか。
悪用しようとすると、逆に使用した側が眠りについてしまうので、一部のクズからは嫌われている魔術。しかも、悪夢のアンパッピーセット付きだ。