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12人の魔女 vol.2

作者: ロゼッタ

前回の続きです。今回の主役は、5月の君。魔剣士の活躍、ご覧ください( ^ω^ )

前回:https://ncode.syosetu.com/n5095gk/

暑い、暑い日が続く。9月になろうかと言うのに、連日気温は40度を越える。室内で風通しを良くしなければ、クーラー無しでは熱中症で死ぬだろうと誰もが思う。世田谷区の外れにある道場。歴史は古く、江戸時代から続く由緒正しき流派。その名は、傀皇流。稲妻のような連撃に特徴がある。建物は江戸時代当時のまま、関東大震災、東京大空襲も無傷で難を逃れており、東京都の重要文化財に指定されている。道場の広さは、畳で言うと、200畳はあろうか。板の間は、なんと張り替えたことがない。トイレ、照明以外は全て往時のままだ。クーラーなどはない。鍛練中は窓と言う窓を全て開け放っている。世田谷区の外れにあるこの道場。回りは、ちょっとした竹林になっており、風通しはいいし、この空間だけがひんやりしている。竹林も、道場の所有地だ。気温はなんと、26度。奇跡のような場所である。実は、この奇跡、人為的に起こしている者がいる。起こしている人物は、この道場の師範代で男装の麗人。その容姿、紫色に輝き腰まで届きそうな長髪、切れ長の目、シャープに尖った鼻。背丈は176センチほどでスラッとした長い美脚。しかし本来の彼女は、茜色のとんがり帽子、茜色のローブに身を纏い、五月の君と言う呼称で呼ばれている魔女である。この道場、滅多に門下生が出入りすることはなかったが、ある時から人が押し寄せるほど大人気に。原因は、五月の君。ある時、竹林の前、道場へ続く渡石の手前で一人の女子高生がうずくまっており、介抱している友人とおぼしき二人が対応に苦慮していた。その様子は、竹林前に配置している地蔵を模した式神を通じ把握。道場で木刀を振っていた五月の君が、その手を止めた。師範、ちょっと外に出てきます。上座に鎮座し、こくんとだけ頷く師範。おんとし86。最近では足腰が弱く、耳も遠い。今も、何を言っているか分からないが、取り合えず頷いたのだろう。実質、道場は五月の君が担っている。女子高生たちがもう、救急車を呼ぼうと思い始めた時、大丈夫かい、君たち?竹林の方からドキッとするほど爽やかな声がかかった。いつの間にか道着を着衣したとても綺麗な女性?男性?が見下ろしている。顔だけ見ると女性だが、胸が出ていないので彼女たちの判断に迷いが生じた。五月の君が苦しむ生徒を見ると、お腹を押さえている。『盲腸炎か、胃腸炎か?いずれにしても、場所を変えよう。』君たち、この奥の道場にこの子を移動したい、着いてきてくれるかい?そう言った五月の君。腹痛で苦しむ生徒を軽々と抱え微笑む。乙女の女子高生からは、それがキラキラと輝く太陽のように見えた。は、はひ・・自身の瞳を爛々と輝かせ、乙女二人は五月の君に続いて道場へと歩を進めた。


人の作りし灯りが一つ、また一つ消え行く頃、魔道に身をやつし者の集いあり。その集いをサバトと言う。この世に魔女なんて・・いるんです、ひっそりと。世界中、裏社会・・これでは犯罪になるので裏世界とでもいいましょうか。そこから現世と関わりを持ち彼女達は、生活してるのです。東京にも、勿の論、いますとも。世田谷区在住の魔女のサバト、世田谷の人口約94万人に対し、魔女の数は12人。魔女がいない区もあるし、一人のみで、サバトができない区もある。因みに東京都全域では、魔女人口36人。日本全国では88人。そんな中で、世田谷区は、突出していると言えよう。普段、仕事をしている魔女もいる。なのでサバトは、毎夜、22時に始まり、0時に閉会。それが、世田谷区サバトの決まりごと。過半数以上の出席でサバトは成り立つ。強制はしていないが、この世田谷サバト、ほぼ毎日全員が参加している。メンバーは、本名で呼び会うことはしない。リーダーは、一月の君と言う呼称、以降、十二月の君まで、呼称がつく。サバトでは、他愛もない話しから、人生相談、魔術論まで、なんでもありだ。同時に持ち寄りの物で楽しいお茶会も兼ねており、ご自慢の手料理を披露など賑わいを見せている。この世田谷サバト、会合は、リーダーの一月の君宅で行われ、幹事が持ち回りで開催する。幹事はカレンダーの月の君。今、月は九月なので、九月の君が幹事役だ。そ~れでは、み~なさ~ん、サバトを始めましょ~う。黄色のローブを着衣した、少したれめの九月の君の発声でサバトは始まった。


今日は、なんの話にしようかしら


純白のローブを身に纏う一月の君。気の優しい白髪のお婆ちゃんといった印象を受ける。巨大な屋久杉を使用したテーブル。そこに魔女達は腰かけており、ハーブティー、スポンジケーキ、マカロンなどのスィーツも置かれ、香りだけで癒される。


それでしたら・・五月の君が挙手をする。どうぞ、と一月の君。私の通う道場のこと何ですが、門下生が急に増えてしまい、ほとほと困っているのです。ふうっ、と五月の君はため息をつく。へぇ、確か五月の君の道場って、私の隣の番地でしたよね。黒のマントに黒のローブ。11月の君が大好物のプリンをまるごと口にほうばる。それを口の中で潰して呑み込むのが大好きなのだと。前回、話題の中心だった十一月の君。犬の糞を家の前に放置する飼い主にぶちギレ、呪いを実行。呪いの媒体が糞しかないため、犬に呪いをかけることに。毛が抜ける呪いをかけたら、ピタリと糞がなくなった。三日くらいで元に戻る程度にしてあげたので、また始まったら次こそは飼い主へと思っている。あぁ、君とは隣番だったな。隣番でも基本魔女たちはお互いを干渉しない。別にルールではない。自由気ままが彼女たちの心情。自然、そう言う雰囲気だ。


今日のおすすめは、深紅のローブで薬草マニア、八月の君が煎れたハーブティー。バタフライピー、レモングラス、コモンタイムを混ぜたものだ。バタフライピーは青い花。バタフライピーを煎れると青い色が発色するので鮮やかな青いティーができる。老化抑制、心身の疲労回復効果があり、見た目もさることながら、のど越しもいい。五月の君は、一口、二口と噛み締めながら飲み込む。「あぁ、美味い、心も体も落ち着きます、八月の君。」微笑む五月の君。「あ、あまぁ、お、お褒めに預りゅ、光栄でしゅ。」八月の君、極度のあがり症である。顔面紅潮し、超高速で震えている。で、どのくらい門下生が来たんです?褐色の肌に巨乳、青のローブ、七月の君がチーズケーキを頬張る。「2000人だ。」ふ~ん・・って2000人!?七月の君が咳き込む。あらあら、大丈夫?終止笑顔、グレーのローブ、十二月の君が水をすすめる。えっ?あの道場、そんなに人は入らないのではないでしょうか。堅物眼鏡、銀色ローブ、二月の君。今日も度の強い眼鏡がよく似合う。地理、地形に詳しい。あぁ、50人くらいでいい広さだよ。それが2000人ときたらお手上げだ。会話に挟まり、ぼそぼそと聞き取れない声が聞こえる。見た目、眉毛の濃いくりくりした目の子どもである。紫色のローブ、身長136センチの短髪の魔女、十月の君だ。あら~ん、可愛いわ~ん。こころちゃ、んんっ!、あら、また言っちゃた、十月の君。十月の君が顔を赤らめ頬を膨らまし、九月の君をポカポカ叩く。ごめ~ん、つい、可愛くって名前を言ってしまうの~。叩かれながらも、九月の君は楽しそうだ。これがやりたくて仕方がない。因みに、聞き取りが困難な十月の君の言葉を容易に通訳できるのは、この場において九月の君しかいない。九月の君は、特別に耳がいい。意識を集中させれば、特定対象の音を20キロ先まで感知することができる。「で、十月の君はなんと?」「あぁ、そうね~、どうしてそうなったのだ~、です~ぅ。」なるほど、切っ掛けだな。もっともだと五月の君は頷く。実は道場前の歩道で倒れている女子高校生を助けてな、どういうわけか、その子達が門下生になりたいと言い出し、翌日からどんどんその学校の生徒が増えてしまい、その友達やらなんやらで、わけがわからんのだ!五月の君は、歯噛みしながら拳を握る。『原因はあんただよ。』8人の魔女達は皆思ったが、声には出さない。私が木刀を振るたび、キャーだのヒーだの五月蝿くてかなわんのだ!五月の君は、両手をテーブルにおき、体を震わせた。『いや、だからあんた目当てだっての。』8人の魔女たちは、ツッコミを入れたい。はいはい、一旦休憩ですよ~。黄緑色のローブ、ふくよかな体系、料理大好き、三月の君が厨房から香ばしいパンケーキを持って現れた。これには、今まで寝ていた顔に木彫りの道化仮面をつけ、桃色のローブ、四月の君も反応する。サバトが始まると早々に食べて、飲んで満足して眠りこける常習者だ。長さ60センチのパンケーキを5本焼き上げ、真ん中に切れ目を入れ、中に生クリームとクリームチーズ、乾燥させたラズベリーを粉末にしてかけた一品だ。繋ぎ合わせて3メートル。流石は三月の君、10人の魔女たちは感心し、それぞれが好きな大きさに切り分け、それを口に迎え入れる。うん!美味い!美味しいです!賛嘆の声が魔女たちから上がる。三月の君、表の顔は行列のできる洋菓子店店主。開店10時で朝の4時から並び始めるほどだ。ところで、五月の君、エプロンを外し、三月の君が着席する。はい、三月の君、何か?先ほどの話し、厨房まで聞こえていましたわ。私でよければ、協力しましょうか?ハーブティーを口に含み、三月の君は笑みを浮かべる。えっ、何か良い手があるのですか。五月の君は身を乗り出す。ええ、集団催眠ですけど。三月の君の説明では、門下生たちに美味しいが幻惑を引き起こすスイーツを食してもらい、かかったところで道場の記憶を魔法で消去と言うことだ。スイーツが三月の君のものだと何の抵抗もなく喜んで食べてくれるだろう、妙案だと満場が一致した。「いや、助かります、三月の君。師範の孫娘の綾が門下生が増えた辺りから元気がなくて。人がいきなり増えすぎて混乱してるのかなと。今まで師範と私、綾だけだったのだから。」『いや、それもあるだろうけと、嫉妬だよ、多分それ!』10人の魔女たちは思ったが、鈍い五月の君が面白く、見守ることにした。


「では、五月の君、三月の君が協力してくれますので。三月の君、よろしくお願いしますね。」分かりました、一月の君。一月の君、三月の君が共に会釈する。すみません、感謝いたします。五月の君は、深々と頭を垂れた。


では、本日のサバトは閉会いたします。


一月の君の挨拶で、サバトは閉会。みなさ~ん、六月の君以外で明日のサバトを欠席される方いらっしゃいますぅ~。九月の君が手を振る。幹事は毎日閉会後に、次のサバトの確認をするのだ。大丈夫、だ、です、言い方は違えど、皆大丈夫のようだ。ちょっと、いつまで食べてるの!もう帰るのよ!二月の君が、四月の君を引っ張る。「大丈夫、お土産に切り分けるから。」いそいそと三月の君がパンケーキを切り分ける。3メートルあった長さも半分となり一人1斤分のお土産だ。まだまだ食べるの!四月の君がだだっ子になる。そんなこと、さ、せ、ま、せ、ん!二月の君が、四月の君を羽交い締めにして引きずる。やだやだ!暴れる四月の君と手を焼く二月の君。サバト閉会時の名物しになっている。はいはい、四月の君は皆さんの倍あげるから落ち着いて?三月の君が四月の君だけ2斤で切り分け、渡してくれた。ワァオ!喜んで受けとる四月君。その頭を二月の君が叩く。ちゃんとお礼をいいなさい!まるでお母さんだ。三月の君、ありがと!へへへぇ~喜んで屋敷を出る四月の君。皆さん、毎度すみません。二月の君が一礼し、後を追った。『いえいえ、お疲れ様です。』皆、四月の君の奔放さには、正直手を焼いている。この委員長のような性格!二月の君の存在は、本当に有りがたい。ほっとしたように他の魔女たちも屋敷を後にした。


皆を見送ると、一月の君は扉を閉めた。すると不思議なことに、今まであったレンガ造りの古めかしい家は消え、そこには五階建てのビルが立っていた。


五月の君は、道場の中央にいた。今日も五月の君目当てで門下生が押し寄せている。今日の鍛練は特別ですと師範には何度も伝え、微妙に理解してもらった。綾にも説明すると、あの有名店のパンがですか!と驚愕していた。いつかは並びたいと思っていたらしい。師範には母屋にいてもらい、綾は三月の君のサポートをしている。五月の君の背後には山積みされたバターの香り漂うパンがある。今日は行列のできるパン屋「満面笑」新製品の試食会と言う特別イベントで門下生に案内をしている。皆、いつもとは空気が違うが、超人気店でしかも新製品の試食ができるとあって、しかも師範代から手渡しされるともなれば、興奮冷めやらぬである。三月の君、今日はありがとう。五月の君が耳元に小声で呟く。構いませんわ。こちらも試作とは言え、濃厚なバターを使用、特殊錬成した天然酵母のパン、名はわた雪。食べて衝撃を受けるはずですよ。ふくよかな容姿で満面の笑み。まるで菩薩のようである。では、五月の君、始めましょうか。三月の君合図でイベントはスタート。憧れの師範代に手ずから渡され、かつ、それが超人気店のパン。最初の一人、あの盲腸炎だった生徒がさっそく一口頬張る。??確かにパンを口に入れた。が、溶ける溶ける、パンが口の中で溶ける、そんな比喩しかできないくらい口の中で柔らかく広がる。その後にくる濃厚なバターの味。舌全体を包みこむが如くである。どうだい?美味しいかい?微笑む師範代にとろけるパン。はいっ、とっても・・夢心地で生徒は道場を後にする。何せ2000人だ。食べてもらい、感想を聞く。一人5分の時間で、道場には20人づつ入る。9時から始めて終わりは17時すぎ。8時間以上のイベントがやっと終わった。2000人全てが素直に美味しいと答えており、三月の君は大満足だ。三月の君、これで全て配り終えたわけだが、この後は?また耳元でこそこそ話す師範代に、綾は少し嫉妬する。これからですよ、魔法は。パンに魔法をかけていますの。記憶操作のね、道場のことは忘れるように。あっ、後で食べる貴女と綾さんの分は大丈夫!もし、本当に剣術を習いたい子がいたら、また来るわ。少なくとも、4人はそんな子がいたように思うしね。三月の君はウインクする。終始笑顔で道場を後にした。


「おかしいですね、皆さん来ません・・」翌日以降、2000人の門下生はピタリと来なくなった。「そ、そうだな、まぁ気にするな。」綾の言葉を避けるように五月の君は、木刀を持ち、道場中央へ。静寂な時が道場に戻り、上座に座りうつらうつら眠りこける師範。道場中央で凄まじい連撃を披露する師範代。いままでの風景だ。あぁ、いいなぁ・・綾がうっとりしている時、「すみません、見学したいのです。」道場入口から声がかかった。

次のサバトでは、どんな会話があるんでしょうねぇ。

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