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再鎖国した日本と征夷大将軍  作者: 門外不出
6/21

攻守

大将軍府将軍執務室


「将軍、琉球王国からのホットラインです。」

 鈴木君から受話器を渡されながら、情報表示画面を確認した。…なるほどね。


「どうしましたか、こんな時間に。」

 明らかに興奮した琉球国王の雰囲気には気づかない振りをしつつ、彼が言いたいだろう主張を聞くことにした。


「私の警告を軽視した報いを受けるのです。」

 こいつは本当に馬鹿だ。自白してどうする。


「一体何のことですか。報いとはどういうことですか。」

 ようやく気が付いたらしい。さっきまでの興奮状態が落ち着いたようだった。

「我が国は貴国との再併合を望みました。だが、あなたは無視した。我が国の窮状を無視してね。」

 だまって、先を促した。


「我が国は国力も弱く、日本にはとても及ばない。だが、我が国を無視した日本に対して、蟷螂の斧かもしれないが一矢報いることはできる。」

 もうそろそろいいだろう、時間が無い。


「潜入部隊はもう確保しましたよ。スパイではなく、彼らは名誉ある軍人として捕虜にしています。」

「え、…あの、どうして?」


 こいつは本当にバカだ。また自白している。だが、裏は無いんだろう。


「通告があったんですよ。琉球王国は我が国共々嵌められたんですよ。うまい話には疑ってかかることですな。」


 何も言えずにいる。ようやく踊らされていた事に気が付いたんだろう。


「捕虜はお返しします。現場の指揮官から彼らの行動は優秀だったと聞いています。」

「あ、ありがとうございます。」


 マザーの提案に乗ってみよう。

「統一朝鮮には気を付けた方がいいですよ。」

「え?」

「統一朝鮮なんでしょう、この計画を持ってきたのは。」

「え、いや、そういうわけでは。」

 内政は非常に手堅く評価も高いのに、外交ではまるで子供だな。庇護を求めるのも仕方が無いことか。


「我が国への併合は依然難しいですな。」

 落胆のため息が聞こえる。そういえば請願があったな。


「貴国と我が国には、相互不可侵も含め平和条約が締結されていない。まずは平和条約を締結し、民間交流から始めるのは如何か。」

 マザーからの情報提示では、これは我が国周辺状況に好転をもたらすものらしい。


 ネガティブ要素はスパイの潜入だったが、破壊工作を阻止できれば問題無い。鎖国しているので、外国人にできることは限られている。

 ただ、彼らは元々は日本人だったので、見分けは難しい。そこは他国とは違うところだ。


「是非お願いしたい。」


「では、捕虜の返還も含めて交渉を始めましょう。まずは知っていることを教えていただけますかな。大地君、後は任せたよ。実務者で詰めてくれ。」


 琉球王国側ホットラインは聞かれていた。そして命令は伝達された。


 国籍不明の潜水艦が海底に敷設していった箱型の機器に、超長波で指令が伝わった。機器の一部にワイヤーがつながったまま浮上を始め、水面下10mで停止した。


 深夜2時に、前触れは無く全ての機器から巡行ミサイルが発射された。



自衛隊統合作戦本部地下指揮所


 『領海外至近で多数の熱源を探知。迎撃態勢を最高度に設定。同盟国及び国連に通達。熱源はロケットブースターと推定。戦時警戒態勢を発令。』

 オートモードの自動警戒音声が指揮所に鳴り響いた。


 当直指揮官の石崎1佐から具申が来た。

「将軍、迎撃は自動シーケンスで対応できます。反撃攻撃許可をお願いします。」


将軍府将軍執務室でも同時にモニターされており、状況は全て把握できている。


「敵潜にか。」

「そうです。」

「許可する。不幸な事故が起きるんだな。」

「え、……ああそうです。」


 少しのざわめきの後、短い命令が下された。


「追尾中の影にステルス攻撃指示。」

「了解、影にステルス攻撃を指示します。」


 モニターが切り替えられ、音声が入ってきた。


 敵潜は全く気が付いていないようで、モニターから聞こえてくるスクリュー音が徐々に大きくなっている。


 影が静かに近づいているようだ。磁力で敵潜とつながっている影は、ワイヤーを巻き込むことで気づかれずに接近することができる。

 スクリューももちろん備えているが、わざわざ音を立てる必要は無い。海中の音はあちこちで聞かれているので、静かに行動できるならそれを捨てる必要は無い。


「敵潜まで、ワイヤー残り50m。」

「ワイヤー残り5mで探針音発信。船体下部で起爆設定。」

「了解。ワイヤー残り5mで探針音発信。敵潜下部で起爆設定。」


「ワイヤー残り30m。」

 モニター音声以外は静まり返っている。


「ワイヤー残り10m、探針音発信準備。」


「ワイヤー残り5m、探針音発信。」

 探針音と反響音、そして影のスクリュー音が交雑し、爆発音で突如音声が終わった。


「ソーサスに音源を切り替えます。」

 爆発音とゴボゴボという空気が海中に出ていく音が続いていく。

「敵潜の撃沈を確認。」


 指示が確認できなかったので、私は指揮所への音声回路を開いた。

「潜水艦母船を大至急撃沈海域に派遣し、敵船の情報収集を実施して欲しい。」


 石崎1佐からすぐに回答があった。

「すみません、報告していませんでした。事前に指令済みです。」

「統一朝鮮が運用していたと思われる。製造国も含めて詳細な調査を頼む。」

「了解しました。」


 音声が途切れ、通常の司令部画面に戻った。探知できた巡行ミサイルが表示されている。徐々に数が増え、全部で30基が確認された。


「ⅠR及びレーダーの出力最大。確認された30基以外の探知無し。広域探知は継続。30基に対しては個別探知を継続。」


 石崎1佐の指示が聞こえた。

「日本の国土全体に対して30基の巡行ミサイルか。迎撃を集中できないのがやっかいだな。これもテストってわけか。各国のGPS電波に変化はあるか。」

「ありません。」

「では全てのGPS系にジャミング開始。我が国の衛星系はブルーモードに移行。」

「了解。」


「巡行ミサイルの航跡が乱れ始めました。GPSを使用していたようです。」

「時間稼ぎができた。迎撃態勢はどうなっている。」


「バブルからのミサイル迎撃で21基を破壊。イージス艦が6基を破壊。残り3基が依然として進行中です。同時多発広域防御なので、対応が難しいです。」

「9割墜としているのに、難しいか?」

 石崎のからかい口調にも渡邊は動じなかった。


「弾頭がBCなら海上で全基破壊しないと不安が残りますから。」

 渡邊の肩に手を置いて石崎は言った。

「それでいい。俺たちの仕事は常に完全を求められている。万全を期してくれ。」

「了解。」

 渡邊は目標に対して複数弾頭を必ず使用するよう該当部局へ再度通達した。



扶桑型イージス艦山城の後方上空 航空母艦加賀所属HⅤ-22『ウッディー』


「IFF(敵味方識別装置)確認。異常無し。」

「戦闘中の山城が近いから気を付けないとな。」

「山城は何を追ってるんです?」

「巡行ミサイルだ。」


 機長の市原一尉はディスプレイを確認し、付け加えた。


「最後の1基だな。残りは墜とした。」

「山城はイージス艦なんで、こいつも堕ちますね。」

 副機長の長田三尉は、市原の眼光に目を伏せた。


「すみません、機長。今のは願望でした。」

「求めらているのは結果だ。それを忘れるな。」

「了解です。」

「加賀からの指示はあるか?」

「ありません。」

「ではバリヤーCAPを継続する。パッシブレーダーとIR監視のみだ。」


 山城のイージスシステムから発射されるレーダー波をパッシブで解析する。非ステルスなら山城とこちらで探知できるし、ステルスなら山城で探知できなくても角度が違う位置にいるこちらでは探知できる可能性がある。


 IRは自ら放射しているので、ステルス化は難しい。いずれにせよ、こちらは盛大に電波も熱も発している山城に隠れて行動中だ。



扶桑型イージス艦山城艦橋


「最大戦速継続中。CM2、ロックオン保持。迎撃指示請う。」

 CICからの要請に、艦長の伊丹が応えた。

「スタンダードミサイルでの迎撃開始。20秒開けて2発だ。」


「豪勢ですね。」

 CICに詰めている副長の沖田から茶々が入った。沖田は艦のみんなが思っていることをいつも上手く代弁してくれる。

「上級司令部からの命令だ。弾頭がわからんから確実な破壊が最優先で、敵潜は沈めたから継続攻撃の可能性は低いってことだ。」

 現場としてはありがたい。ぶっ放せって言ってくれたんだからな。


「司令部より伝達。ブルー以外のGPSジャミングが掛かります。」

「おいおい大丈夫か?」


「何が大丈夫じゃないんです?」

「CMの進路が変わってもしこっちに向かってきたら、スタンダードミサイルの最短射程内に入る可能性が高いじゃないか。」

「CM2の進路が変わりました、本艦前方への進路です。」


 伊丹は苦笑いしながら言った。

「な、悪い予感ほど当たるんだよ。…これで論文でも書いてみるか。」

 冷たい目線に気が付き、わざとらしく咳込んだ。

「対艦防御急げ。ダメコン担当、助言を頼む。」


「ファランクス、試射中に給弾詰まりが発生し作動不能。」

「…撃てないの?」

「え? ああ、撃てません。」

「CIC、了解。給弾詰まりの対応を急いで欲しい。」

「了解。」


「艦長、こちらCICです。CM2ですがSM3での迎撃は距離が短く対応不可、ファランクスも給弾詰まりで対応不可です。艦砲で迎撃を試みますが、多分当たりません。」

「了解。とりあえず躱すよ。取舵30度。」

「取舵30度。」


 変針で艦体が傾いた。CICには冷静な声で不利な戦況報告が入ってくる。

「CM2が本艦をレーダーロックオン。…進路変更し本艦との衝突コースです。」

「撃った奴ら、周りは全部敵だから何かあったら突入設定かよ。」

「艦橋へ進路変更を依頼。ファランクスはまだか?」

「まだです。艦砲での迎撃開始します。」

 多分無駄だが、何もしないよりは抵抗したい。


 悲壮な覚悟は入電した彼女の声でかき消された。


「山城CICへ、こちらウッディー機長の市原。こちらでCMの迎撃を行う。友軍に墜とされなくないので指示後1分だけ攻撃を止めて欲しい。」

「…1分後にCMが飛んでいたら、こっちに構わず迎撃してくれ。」



航空母艦加賀所属HⅤ-22『ウッディー』


 ロックオン済みだったAAM4を10秒開けて2発発射した。

 CM2は初弾の回避を行い、急激な進路変更を行う。

 初弾は追従できずロストしたが、結果減速することになったCM2に次弾が直撃して爆発した。



扶桑型イージス艦山城艦橋


「CM2がレーダー及びIRロスト。迎撃成功と思われます。」


 CICでは静かな報告だったが、艦橋では歓声が上がっていた。右舷400m先で迎撃成功の炎と煙が上がったからだった。


「危なかったな。」


 さすがにいつもとは違う上気した表情で伊丹が言った。


「ファランクスが復旧したとの連絡がありました。

「終わってから登場か。あいつらにお礼を伝えてくれ。」

「あいつら?」


 伊丹は窓の先を指さした。翼を振って、市原機が去って行くところだった。


 艦橋要員は帽振れか敬礼のどちらかをしていた。

 伊丹もこれまで誰も見たことがないほどの敬礼で見送っていた。


 機影はどんどん小さくなっていき、青空の中に見えなくなった。

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