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再鎖国した日本と征夷大将軍  作者: 門外不出
20/21

鉄槌

 日本国 大将軍府将軍執務室


「最終チェック完了、オールグリーン」

 モニターの中の末永は復唱し、私の承認を促した。

「本作戦実施の最終段階です。実施しますがよろしいでしょうか、将軍」


「もちろんだ。これまでの各員の準備に感謝する。攻撃対象地域には既に3回退避警告を終えている。大地君、現地の状況は?」

「周辺2kmは規制線が張られ退避完了しています」


 私は頷き、自分自身を落ち着かせるため少し間をおいて続けた。

「今回の人為的な疫病によって自らの命を失ったり、家族や大切な人を失った全ての人たちの哀しみや怒りに向き合い、災いを起こした者達へ報いの鉄槌を下す。同じあやまちが二度と行われないように」


 末永が引き取って続けた。

「作戦は予定通り実施だ、標準時18時00分に開始。各員所定の準備にかかれ。大気圏外自衛隊衛星群司令部山県司令、以後の戦術作戦指示は貴官に委ねる。よろしいか?」



大気圏外自衛隊 衛星群司令部


「了解しました。以後、本官の指示で戦術作戦を実施します」

「状況報告や支援はこちらで引き続き実施する。…では、時間合わせ。・・・3,2,1,作戦開始」


「作戦開始します」

 山県は復唱すると、右側に控えていた副官に指示した。

「長門3佐、作戦開始。第一次攻撃は標準時19持00分、現地時間12時00分」

「了解しました、作戦開始。着弾は標準時19持00分、現地時間12時00分。現況は全てオールグリーンです」


 少し間をおいて、長門3佐が続けた。

「目標は4ヶ所。ドイツ大統領官邸のベルビュー宮殿、作戦指導したドイツ連邦情報局第4局、そしてウイルスを開発したバルク社本社ならびにプロイセン研究所」

 質疑が出ないのを見まわして確認して続けた。

「目標に対して小惑星弾を使用。着弾1分後に次弾を撃ち込む」

「はい、完了しています」

「では、衛星群に対して指令準備」

「準備完了しています」


 長門は続けて言った。

「では標準時19持15分、攻撃開始。衛星群に指令、以後はオートモード」

「衛星群に指令、今。以後オートモードに移行」


「衛星群、指令受領しました。以下オートモードに移行します」

 移動速度が速い場合、人間の認識・判断・指示では遅すぎる。大気圏外自衛隊の指揮範囲はほぼオートモードになる。


「小惑星弾8基、軌道変更終了。予備弾4基は19時45分まで進路そのまま。突入体に問題無ければ、その後は地球長楕円軌道に戻ります」

「了解した。次弾の準備状況は?」

 長門3佐は作戦の再周知も含めて確認した。


「先日軌道投入に成功した地球観測衛星ガンマの第2段フェアリングから分離したオベリスク8基は、予定軌道を進行中。5分後に第一次減速を開始します」

 オペレータの返答に、長門は満足そうに頷いた。


「山県司令、作戦は順調に推移しています」



 ドイツ連邦共和国


 規制線のすぐ外側で、人々は何が起きるのかと群がっていた。ドイツ政府からはテロ予告があったとの情報しか出ていなかったが、SNS上では疫病を蔓延させたのがドイツだとか、目的は第4帝国を作ろうとしたなどとの話が広がっていた。

 周辺国の状況や自国で行われた違う名称の予防接種で、それがおそらく事実であることをドイツ国民も周辺国も認識していた。


 だが、疑わしいだけでは何もできない。何もできないはずだった。


 昼間の太陽の明るさを何倍も上回る凄まじい光が周辺を覆いつくし、轟音に主役を譲り渡して消えていった。凄まじい破壊音が終わり、つかの間の静寂が場を支配した。

 緊張が緩んだその時、新たな閃光と衝撃音がこの事態が終わっていないことを告げた。誰もが更なる追撃を恐れて、逃げ出していた。


 巻き起こった粉塵が風で流され静寂に包まれた中心部の近くに、杭を大きくしたような物体が現れていた。

 それぞれ各面に英語、ドイツ語、スペイン語、日本語でこう記されていた。

「人類を危機に陥れた、愚かな企みをここに記録する。彼らに災いあれ、」と。

 この災厄を記録し、後世に伝えるためのオベリスク(記念碑)だった。



 日本国 大将軍府将軍執務室


「本作戦は完了しました、目標は全て完全破壊。衛星からの映像です」

 末永の姿が消え、偵察衛星からの映像に切り替わった。わかりやすいように以前の映像も比較のため出ている。これがベルビュー宮殿のあったところか。


「第1目標のベルビュー宮殿です」

 私が頷くと映像が切り替わった。

「第2目標のドイツ連邦情報局です」

 がれきの山だ。末永が続けた。

「第3目標のバルク社本社、第4目標のバルク社プロイセン研究所」

 すべて破壊され、オベリスクも視認できた。

 いずれ撤去されるだろうが、歴史に刻まれるだろう。


「オベリスクの映像は既に拡散されつつあります」

 大地君の報告を聞き、作戦が終了したことを実感した。


「目的を達したようだ。本作戦は終了する。末永君、ありがとう」

 敬礼する末永が画面から消えた。

 私は大地君に次の指示を行い、椅子に深く腰掛け眼を閉じた。


 使用された小惑星弾は全て鉄隕石の直径5m級。地球側は蒸発機構付きの耐熱フェアリングを装備し、宇宙側は末端が推力部で、小惑星との中間部は落下時誘導部。いわゆるスマート爆弾の誘導制御部と同じもの。

 こいつはとてつもない質量と落下速度で突入する、火薬を使用しないスマート爆弾なのだ。


 地球周回軌道から急減速して落下軌道に遷移。大気圏突入時は耐熱フェアリングが蒸発しながら小惑星を保護し、同時に保護外となる推力部は焼失していく。十分に減速し周辺のプラズマ生成が無くなった段階で、残存している推力部と耐熱フェアリングを分離。以後は巨大なスマート爆弾として、衛星からの精密誘導で目標へ突入する。

 破壊力は小惑星の運動エネルギーと、砕けない密度に由来する。


 小惑星地球衝突最終警報システム(Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System,通称 ATLAS)は衝突軌道の小惑星を監視している。衝突軌道でない小惑星は監視されていない。これを逆用しているのが今回使用した小惑星による攻撃システムなのだ。


 この攻撃を止めることは非常に困難だ。大質量なので破壊するには相応の質量や炸薬が必要となるが、それを地表から迅速に打ち上げることはとても難しい。相手は落ちてくるだけだが、地表からは重力に逆らって加速する必要があるからだ。

 我が国はこの攻撃兵器を実用化する際に、当然防衛も可能とした。それが大気圏外自衛隊が保有する衛星群だ。いずれ相手も同じ武器を持つことは想定しておかなければならない。


 鉄槌はくだされた。


 これで終わりなら良いのだが。

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