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再鎖国した日本と征夷大将軍  作者: 門外不出
19/21

パンデミック

 大将軍府将軍執務室


「現在の感染状況は?」

 大地君は手元のタブレットを操作すると、メインモニターを指さした。

「島根県を中心とした周辺4県へのロックダウン命令により、その他都道府県への蔓延は確認されていません。島根県以外には鳥取県で若干の感染確認がされています。その他周辺3県では感染確認されていません」

「封じ込めは何とか成功したみたいだな。引き続きmRNAワクチンの製造を進めてくれ。我が国以外へも供給できるよう最優先で体制を整えて欲しい」

「了解しました、ご指示を進めます」


 大地君は部屋を出る直前、私に問いかけた。

「不幸な出来事は起きるのでしょうか?」


 私は少し考えて、言葉を選んで応えた。

「起きないことを期待しているが、ほぼ確実に起きると私は考えている」


 大地君は表情を消して、ただ頷いて去って行った。



 一ヶ月後 大将軍府将軍執務室


「大地君、新型インフルエンザに備えたワクチン接種状況は?」

 B兵器による新型インフルエンザ対応も落ち着き、我が国は専守防衛として全国民へのワクチン接種を進めている。求めに応じてアメリカを含めた友好国には有償援助で配布している。国策なので無償でも良いのだが、友好国からの輸出促進政策も含めてそうしている。


「15歳以下の若年層を除いては8割が接種済みで抗体獲得期間も過ぎています」

「では、集団免疫は獲得できているのだね」

「はい。今後は若年層へも接種を薦めていきます」

「インフルエンザ脳症など重篤化した際のリスク懸念を明示すれば、リスク管理できる我が国民は適切に判断するだろう」

「ええ、心配には及びません」


「国内の他の状況は?」

「今回のB兵器由来のインフルエンザ禍により、国民の国防意識は高まっています。国防関連のベンチャー起業が多数あります。既に友好国企業と協業が始まっているものも10数社あります。いずれも友好国政府からクリーン保証されている企業です」

「緊張はその反動を生む。しばらく我が国はいろいろな分野で活発な成長が見られるな」


 次の質問が予想できたようで、大地君の顔はわずかに曇った。

「周辺諸国の状況は?」


 大地君はすぐに答えず、自らを落ち着かせるように静かに深呼吸した。


「新型インフルエンザが蔓延しています。発症後の致死率は50%以上ですが、発症2日前から咳やくしゃみ等でウイルスをばら撒くそうです。空気感染するので1人の感染者から何人に感染が広がるかを示す「実効再生産数」は6だそうです」

「6? 通常のインフルエンザの倍じゃないか」

「我が国で蔓延した際もそれくらいでした。幸いにも我が国では適切に都市封鎖できたため蔓延防止できましたが、諸外国では間に合わなかったようです」

「友好国から支援要請は来ていなかったよな?」

「はい。友好国は我が国からの情報提供により入国制限や隔離など水際対策を徹底しており、ワクチンや標準治療法の展開により問題無く対応できています」


「原発国は?」

「中華連邦です。複数の自治区から始まり、現在では国内全てで蔓延しています。中華連邦国民及び滞在者は他の全ての国から入国禁止となっており、世界的な蔓延防止処置となっています。残念ながら完全な封鎖は間に合わず、友好国以外の多数の国で蔓延が始まっています」


「ドイツの状況は?」

「特に封鎖も行っていませんが、自国民の感染は確認されていません」

「それはおかしい」

「はい。調査を進めたところ、半年以上前に半強制的なワクチン接種が行われていました。名目は重症化懸念のある季節性インフルエンザ対策とのことです」


「EU全体では?」

「蔓延している国とそうではない国で分かれています」

「ドイツ以外で蔓延していない国は?」

「オランダ、ベルギー、スイス、オーストリア、チェコ、ポーランド、デンマークです」

「フランスを除くドイツ周辺国か」

「そのようです」

「自国の国境ではなく、防衛線を外側に作ったということか。……少し分かりやす過ぎるように思えるが?」

「感染力と致死率からいって、余裕が無かったのではないでしょうか」


 私は少し考えてから応えた。

「そうだろうね、それが一番すっきりする。それにしても恐ろしいものをばら撒いてくれたものだ」

 極力感情を交えないように言ったつもりだったが、大地君は気が付いたようだった。


「中華連邦は新型インフルエンザにやられて、ドイツは対策できている。国家レベルで」

「はい、そうです」


 大地君は一瞬だが表情に出る。それが良い場合もあるので注意はしない。


「我が国は実験台にされ、中華連邦も結果的にそうなった。そういうことだな」

「…そう思われます、残念ですが」

「ドイツは全部わかっていた、残念ながら」


「そうです、残念ながら」

 大地君は怒りを隠さず、そう言った。


「我が国から反撃の『鉄槌』はどうされますか?」

「もちろん関係国には適切に行うよ。ところで統一朝鮮と琉球国は?」


「琉球国は我が国からの警告を真摯に実施したので、新型インフルエンザの流入阻止は成功しています。我が国から無償提供したワクチン接種率も6割を超えました」

「過ちもあったが、少なくとも国民に向き合った為政者だったか」


「……統一朝鮮では先日政治犯の処刑が行われました。衛星発射失敗によるものという理由ですが、救助活動中の我が国民に向けて発射された弾道弾が自国に落とされた不祥事の責任を取らされたもののようです」

「救助した漁船員達はどうなっている?」

「難民申請手続き中です。目的地はアメリカです」

「まあ、そうだろうな。我が国は鎖国中なので原則難民の受け入れはしていないし、母国からスパイ認定されることは確実だからな」


「新型インフルエンザの影響は?」

「中華連邦との往来が多かったため、国内全域で蔓延しています。政府首脳部でも感染者が多数でていて、大統領も入院とのことです」

「我が国への救援要請は?」

「来ていません」

「では静観するしかないな」


 私は少し考えてから大地君に伝えた。

「半年前に行われたドイツのワクチン接種の件から調査を始めて欲しい。ファイブアイズにも依頼してくれ。どこの製薬会社で製造され、どのような株だったのか。どこからどういう指示だったのかも」

「わかりました」


「パンデミックとしての評価は?」

「発症後の致死率が高すぎるのと、航空機による往来がほとんど途絶えているため、いわゆる先進国のみで蔓延しています。その他の国では厳重な水際対策が取られているため、これ以上の拡大は無さそうです」


「コロナで一度ひどい目にあったからな」

「はい、あの時は初動での封鎖遅れと水際対策の不徹底が、世界的な蔓延につながりました」

「我が国は鎖国により水際対策は徹底している。憲法改正により封鎖も法に則って実施できるようになった。あの時とはかなり違う」

「はい。今回も封鎖が遅れていれば全国に蔓延し、相当数の人的損害になったとのマザーの見解が出ています」


「マザーの評価は?」

「A+だそうです。コメント付きですが」

「コメント?」

「最終評価は反撃の結果も含めて行う。A+は現時点までの暫定評価とのことです」

「まあ、そうだろうな。では、大地君先ほど依頼した調査を早急に進めて欲しい」

「了解しました」


 大地君がいなくなり、執務室は私一人になった。自分たちだけが生き残った地球で、ドイツは何をしようとしたのだろうか。それともこれほどの事態になるとは想定していなかったのだろうか。


 私室側の扉が開き、江崎さんが顔を覗かせた。時計を見ると12時だった。

 美味しい食事は気分転換には最高だ。少なくとも食べている間は、料理の味わいに心を委ねていればいい。私はすぐに私室に向かった。


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