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再鎖国した日本と征夷大将軍  作者: 門外不出
15/21

鉄槌

 護衛艦山城所属ヘリコプター 「エッジシールド」機内


「機長から全員に通達。統一朝鮮からミサイルが発射された。着弾予想はこの付近だ。友軍はオーバーキルで迎撃対応している。我々はこのまま救難を継続するぞ。」

「了解。」

 通常弾頭なら、着弾精度が相当良くないと被害は受けない。核弾頭なら多少逃げても、助からない。いずれにせよ、逃げるという選択肢は無かった。

「機長、磯島です。」

「どうした?」

「あそこに残っている石頭に、ミサイルがもうすぐ来るって伝えても良いですよね?」

 磯島は救難対象である漁船を指さして言った。

「ああ、もちろんだ。さっさと逃げ出してくれるだろう。」

「じゃあ降りる前に伝えてやりますよ。発光信号機、借りますね。」

 磯島は山下から発光信号機を借りると、残っている漁船員に向けて手早く信号を送った。

「なんて送ったんです。」

 山下が興味深げに聞くと、磯島は真面目な顔で答えた。

「貴国からこの場所に向けてミサイルが発射された。弾頭は不明。着弾まで時間が無いので、一度だけ救助のため降下する。その後、我々は最大速度で離脱する。」

 言い終わって、耐えきれないように破顔した磯島が続けた。

「我が国なら、国民がいる場所に絶対にそんなことはしない。こんなことを言っても誰も信じない。でも、あの国ではそうじゃないらしい。」

 磯島が漁船を目で示した。

 山下は全力で手を振って救助を求める漁船員を見て、自分たちが置かれている危機の深刻さに身震いした。



 自衛隊統合作戦本部地下指揮所


「全軍に通達。統一朝鮮から発射された弾道ミサイルの弾頭は、我が宇宙軍によって軌道が変更された。我が国近傍への着弾は当面無い。宇宙軍は引き続き弾頭の監視を続けている。全軍は引き続きオーバーキルでの迎撃に注力せよ。」


 末永は受け取った紙片を読み、表情を一瞬緩ませた。

「当初着弾予想地点で継続されていた民間船の救助活動は、無事終了した。要救助者全員を確保し、離脱しつつある。」

「迎撃態勢は現状のまま継続せよ、以上。」


 全軍通達回路を切断し、宇宙軍からの秘匿通話回線をつないだ。基本的に秘匿回線は使用しない。情報公開と共有が、我が軍の対応の速さを支えている。秘匿通信は、その理由が明示される。

「統一朝鮮との外交交渉(通告)? どういうことだ。」

「山県です。統一朝鮮の弾頭ですが、宇宙軍により任意の軌道に変更可能と判明しました。考案したのは参謀部の長門3佐です。作戦名は「スキップボミング」です。」

「最後にどこに落とすんだね?」

 末永は作戦名と秘匿通信理由でおおよそわかっていたが、確認した。

「平壌です。」

「それを統一朝鮮に通告し、いい加減自爆させろという訳だな。」

 一呼吸おいて続けた。

「本来なら目標を外れた時点で自爆させるべきものを、弾頭種別を今さらながら秘匿しようとしている奴らの頭上に落としてやるのか。」

 少し待って、末永は続けた。

「将軍、この作戦は実施に値します。」

 将軍府に対して秘匿は一切できない。

「作戦を了承する。彼の国への通告も了解した。いつ落とす?」

「45分後です。」

 山県が答えた。



 大将軍府将軍執務室


「わかった。では40分後に彼の国に通知しよう。彼の国にとっては鉄槌だが、ブーメランの方がふさわしいかもしれん。」

 私は大地君に同盟国への連絡と、彼の国への通達文の文案を検討するよう伝えた。自分が投げた石が、戻ってくる。「天に唾する」という、ことわざ通りじゃないか。



 統一朝鮮大統領府 青瓦台執務室


「ミサイルの現況はどうなっているんだ。」

 金大統領は苛立った感情を隠さずに怒鳴った。

「何らかの影響で、当初の軌道から変わりました。追尾システムの探知外に離脱したため、現在位置は不明です。」

「では、自爆もできないのか。」

 日本相手なら根拠も無く強気な金大統領だったが、今になって核弾頭だったことが不安になったようだった。

「自爆すると落下地点周辺に放射性物質を拡散することになります。海上なら問題無いでしょうが、他国の領土だとまずいことになります。」

「自爆しないとどうなる。」

「起爆装置は作動中で、このままならどこかの場所の高度50mで作動します。作動高度に達するまでなら起爆を停止できます。」

「起爆したら、どこかで核爆発が起きるんだな。我が国はそれでお終いだ。起爆しなかったらどうなる?」

 何とか責任逃れをするため、ギラギラした表情で金大統領が聞いた。

「どこかに弾頭が落ちます。重量と速度があるので、被害は大きいです。でも起爆するよりははるかに小さな被害で済みます。もし落下地点が海上で、船などがいなければ被害は無いでしょう。」

「なるほど、それはいい。海に落ちれば、弾頭種別もわからない。最高だ。」


 どこに落ちるのかこっちでコントロールできないことをすっかり忘れている大統領を冷ややかに見ながら、側近は確認した。

「弾頭の自爆指令はどうしますか。」

 自分の発言が録音されているのを確認した。誰が決定し、誰が責任を負うべきなのかはっきりしておかなくては自分の身が危ない。

「自爆は不要だ。起爆装置は作動停止。」

 少なくとも核戦争の危機だけは脱した。それ以外の危機は継続中で、しかも自ら起こしたものなのだ。



 大将軍府将軍執務室


 大地君から受け取った統一朝鮮への通告文に目を通した。皮肉を聞かせた良い文案だ。

「大地君、これでいこう。」

「ベーカー大統領から提案された件はどうしますか。」

「ああ、提案に乗ろう。見返りをどうするかだが、高病原性インフルエンザの現況はどうなっている。」

「島根大学で実施した低体温併用治療が功をそうしているとの報告がきています。」

「では、見返りはインフルエンザの変異と標準治療法の提供としよう。変異型のRNA解析結果はもう伝えてあるんだよな。」

「はい。」

「では見返りの準備を進めてくれ。ベーカーには提案を受けることと、見返りについて私から伝えるよ。我が国の通達5分前に実施してもらう。」

「了解しました。」

 大地君はすぐにその場で指示を出し始めた。無駄が無くてよろしい。


 現場はみんなうまくやってくれている。私も私の仕事をしよう。

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