迎撃準備
自衛隊統合作戦本部地下指揮所
「幕府ならびに全軍に通達。統一朝鮮が弾道弾を発射。着弾予想地点は竹島東50km。弾頭の種別は不明、繰り返す弾頭の種別は不明。」
末永は少し間をおいて続けた。
「着弾予想地点では我が軍が民間船の救助活動を依然として実施している。繰り返す、依然として救助活動を実施している。迎撃は全てオートモードだ。今一度確認して欲しい。オーバーキルで良い、決して躊躇するな。」
大気圏外自衛隊 衛星群司令部
「山県司令、武器使用無制限でオーバーキルOKだそうです。」
参謀部の長門3佐が嬉しそうに伝えた。
「全部試したいってことか?」
答えは聞かなくてもわかっていたが、聞いておく必要があった。
「実戦配備されているのです。その戦力を適切に使用して、効力や運用面について確認しておくことは我が国にとって大切なことであると思われます。」
涎をたらしそうな表情で答える長門を見てこらえきれなくなった笑いを、何とかうつむいて耐えた山県は取り繕えた厳かな表情で通達した。
「武器使用は無制限だ、初期対応は我が衛星群しかできない。…我が軍の全力を持って対応されたい。もう一度言うが全力だ、着弾予想地点では我が軍が救助活動中だ。彼らを最初に守る事ができるのは我々だ。」
山県の通達が終わるのを待たず、長門は指示を各所にしているようだった。嬉々として彼女は動いている。彼女の有能さは全軍に知れ渡っているくらいなのだ。総参謀部が実施した世界大戦規模のシミュレーションで彼女の智謀は対戦相手のAIを凌駕して、世界設定すら修正を余儀なくさせたのだった。そのレベル以下の設定は大幅に変更され、参加した人間や報告を受けた人間を震撼させるものだった。
彼女の指摘は簡単だが深刻なものだった、大気圏外からの干渉は非常に大きな範囲と効果をもたらすと。
そうして大気圏外自衛隊衛星群が新規編成されたのだ。
山県は長門の嬉しそうな表情を見ながら、始末書を書く準備を始めた。
オーバーキルを許容するって? 統一朝鮮軍が…、いや違うな。統一朝鮮政府がどうなってもしらんぞ。
山県は少し考えて、考えを改めた。
まあ、別にいいか。先に手を出したのはあいつらだからな。民間人に被害を及ぼさなければ問題無い。軍人の命はこっちもあっちも別勘定だ。
「司令、報告します。」
報告ってことは、もうやっちまったってことを教えてくれるってことなんだろ。
山県は何を聞かされるのか身構え、衝撃に耐える準備を終えた。
「悪い報告から教えてくれ。」
良い話は別に後でも影響は無い。悪い話は対処時間を少しでもかせぐため少しでも早く聞きたい。管理職になってから山県の習慣だった。
「悪い報告はありませんよ、司令?」
きょとんとした表情の長門3佐だったが、これに何度も痛い目にあってきただけに安心はしなかった。
「では良い報告は何だね?」
「弾道弾迎撃を確実にするために、高出力レーザーの照射を発振可能な2衛星から実施中。目標はロケットモーターの推進剤部分です。これが成功すれば統一朝鮮国内か近海に堕ちると思われます。電磁誘導弾はレーザー照射による損傷で軌道が変わる可能性があるため待機しています。」
しごくまっとうな報告じゃないか。……おかしい、これで済むはずが無い。
長門3佐の顔をを慌てて見ると、危機に対してふさわしい深刻そうな表情をしているが、目が笑っていた。楽しくって笑いがこみあげてくるのを何とか抑えているのがわかった。
嫌な予感は悪寒レベルまで急上昇した。聞きたくなかったが、聞かない訳にはいかなかった。
「まだ報告することがあるんだろう?」
「ええ、あります。」
もう表情を隠そうともせず、楽しそうに答える。ああ、聞きたくない。
「何だね?」
「今回発射地点と目標との水平距離が短く、固体燃料ロケットのためロフテッド軌道となっています。今回正常に燃焼終了した場合の最高高度は2千3百kmと推定されています。」
いつの間にか長門3佐は満面の笑顔に変わっていた。
「我が衛星群は準天頂軌道をとっており、高度は3万km以上なので通常撃墜しかできません。しかし、今回標的が昇ってきてくれましたので、弾き飛ばすことも可能です。既に発射準備完了し、自動追尾中です。」
あー、頭が痛くなってきた。
「長門君、弾き飛ばす理由と方法は?」
彼女の笑顔が明らかに曇った。
「いや、理由も方法も想定できているが、齟齬が無いよう確認しておきたいんだ。」
私が彼女に聞いた理由が合理的だったので、笑顔が戻った。彼女の上司を務めるには、彼女の能力までには足りないまでも理性と合理性がある程度以上必要なのだ。有能な部下の能力を最大限に発揮してもらうのが、その分野では劣っていても上司の務めだから。
「弾頭の種別が不明なので、うかつに落とすことはできません。ですので一旦弾き飛ばして時間を稼ぐことが最善だと判断しました。」
「で、方法は?」
「南半球上空にいる衛星群から電磁誘導弾を発射し、敵ミサイル弾頭に対して衛星軌道の接線方向よりも宇宙側に運動エネルギーを与えます。これで再突入の角度を変え一時的に大気圏で弾きます。次の再突入までの時間に完全破壊します。」
本来なら目標たるミサイルよりも高高度にいる我が衛星群からは撃墜、すなわち地球へ落とすことしか考えられない。だが長門3佐が指摘してことは、タイミングによって目標は重力的には横にいるんだから弾き飛ばせるというものだった。高度も位置も相対的なものだから、変えられる。彼女の感性は大気圏外自衛隊で最大限に発揮できるが、航空でも潜水艦でも3次元行動が可能な空間ならば発揮できるものなんだろう。
「で、実施までの猶予時間は何秒あるんだ?」
「残り40秒くらいですね。」
「では実施してくれ、上級司令部には通達しておく。……その後の完全破壊までの計画もできているんだろ。」
彼女は副官に作戦実施の指示を与えると私に向き直った。
「もちろんです。変更された軌道を30パターン程度想定して対応準備をしています。最終的に軌道が判明次第即時に対応してもよろしいですか?」
「もちろんだ、任せたよ。」
「了解しました。では、失礼します。」
見事な敬礼をし、副官の方へ向かっていった。
「さて、私は私の仕事をしよう。」
緊急同報システムが、私の音声入力を文字に変えて待っている。すぐに通知釦を押した。全軍及び幕府、同盟国軍司令部にも敵ミサイル迎撃方法について即時同報されたはずだ。今も見ているだろうレーダーやIR探知画面、どんな変化が表れるのか、みんな食い入るように見始めるのだろう。




