反応
統一朝鮮大統領府 青瓦台地下危機管理室
「独島で熱源反応多数、日本軍の攻撃と思われます。」
「駐留している海兵24中隊との連絡不能。」
「独島でさらに大規模な高熱源反応が発生、位置は弾薬庫付近です。」
「弾薬庫まで攻撃するのは継戦能力の破壊だ。日本は救護だけではなく、独島の戦力破壊や上陸まで行う気なのか?」
李大佐は想定から外れだした事の成り行きに、少し不安になってきた。それに対応する準備はできていない。元々統一朝鮮の海軍兵力は知れている、空母も無い。ひょっとしたらという思いで、馬大佐を見た。
視線の先で、馬大佐は静かに首を振っていた。
少なくとも冷静だった、現場は。
統一朝鮮大統領府 青瓦台執務室
「日本がこの機に乗じて独島を奪還しに来たというのは間違いないんだろうな。」
統一後は南北交互に最高指導者を出すという制度に従い、元北朝鮮出身である金 雅男大統領は側近に再確認した。中華連邦からの事前説明では、そこまでエスカレートしないということだったが、上手くいかないものだ。
そして我が国の領土が攻撃されるなど、大統領の地位を脅かされる危険な話だった。このままではいけない、反撃が必要だ。
「核装備のノドンは該当海域へ発射可能か?」
「可能ですが、発射準備で30分は掛かります。それまでに敵が我が領海を離脱する可能性が高いです。」
「領海外でも構わない。我が軍に攻撃を仕掛けた輩をそのまま返す訳にはいかない。」
「現時点で、我が国は正式に日本に対して宣戦布告していません。領海外での核攻撃は国際社会からの非難を浴びます。我が国が逆に核攻撃を受ける可能性があります。」
金大統領は過去の教訓を思い出した様だった。
「君の進言はもっともだ。もう少し慎重にすべきだね。」
金大統領は少し考えた後で続けた。
「我が国は独島領海にミサイル発射実験を行うのだ。」
「理由はどのようにすれば?」
「技術上の問題で早急な実施が必要だと通告すればいい。偶発的な事故で、実弾頭のミサイルが使われ、領海外で起爆してしまうのだ。…適当な責任者も用意しておいてくれ。悪質な政治犯がいればちょうど処刑できる。」
側近がそっと肩をすくめたことには気づかず、金大統領は独りごちた。
「日本に虚仮にされたままで、終わるわけにはいかない。」
大将軍府将軍執務室
「統一朝鮮からミサイル発射実験の通告がありました。独島、我が国の竹島領海内に着弾とのことです。30分後とのことです。」
常に冷静な大地君は感情を押し殺そうとし過ぎて、逆に感情が見えてしまう時がある。明らかに怒りが見えていた。
「まだ、何か補足があるんだろう。」
「救助活動中の我が国艦船を攻撃する意図があると思われます。」
「そうだろうね。…末永君、聞いているよね。」
末永作戦本部長がすぐに応えた。
「もちろんです、将軍。対応案はいくつかありますが、ご説明が必要ですか。」
「今から私が言うことに最も近い案を実施して欲しい。」
少し間をおいて続けた。
「竹島領海内への着弾は無視しろ、通告通りだから無害だ。もし核弾頭なら竹島は消滅するかもしれないがね。」
「着弾予測が竹島領海外なら迎撃しろ。再突入前でも良い。状況は全て公開する。我が国を攻撃する気がある国や組織への警告にもなる。全力で迎撃にあたってくれ。救助活動中の彼らを全力で守ることが最優先だ。頼んだぞ。」
「わかりました、将軍。全力で対応します。」
自衛隊統合作戦本部地下指揮所
将軍との通話を終え、末永は全軍に通告した。
「これより迎撃は戦時体制に移行する。迎撃は全てオートモードに切り替え。対象は我が国のEEZ圏内。武器使用は無制限。繰り返す、武器使用は無制限。」
専守防衛という、我が国の矜持が問われる事態だ。
「救助作戦の現況は?」
「市原機乗員の回収は終了。山城は現場を離れつつ海保機の援護を継続。同時にBMD(弾道弾迎撃)準備完了しています。」
「海保機は要救助者の1人が救助を拒否していて、作戦完了していません。帰投燃料の関係もあり、市原機救援作戦が完了した山城搭載機が代替して救助に向かいます。」
「該当海域にはまだ関係者が残るのだな。」
「そうなります。」
「では、より一層迎撃に努めるしかないな。」
末永は通信員に全軍通達するよう指示した。
「こちら統合作戦本部、末永だ。作戦海域には要救助者及び我が国関係者が依然として活動中だ。彼らの安全が最優先だ。諸君らの持てる力を発揮して欲しい。」
護衛艦山城 ヘリコプター甲板
着艦したヘリコプター、コールサイン エッジシールドから市原機搭乗員は素早く離れていった、磯島を除いて。磯島は機体に戻ると旧知の救難員に聞いた。
「山下、どうして出力を落とさない、この後に何かあるのか?」
「海保のヘリが帰投燃料の限界で現場を離れます。この機が代替で進出します。」
「何でだ? 海保の奴らも有能だ、全員確保できるだろ?」
「……救助を拒否してるのが1人いるらしいです。日本に助けられるのはイヤだって言ってるらしいですよ。」
「バカのために命をさらさなきゃならんのか、相変わらずだな。」
苦笑を交わして、磯島は山下に言った。
「俺は韓国語も話せる。この救難作戦に加わりたいと伝えて欲しい。」
山下は機長に伝え、機長はどこかに確認しているようだった。
「磯島さん、許可が下りました。…私は英語と中国語ならいけるのですが、韓国語はまだまだです。すみませんが、頼ります。」
「了解。相変わらずお前は、冷静に最善を探すな。頼もしい後輩だ。」
磯島は続けて言った。
「救助時に不測の事態が起きる可能性がある。その時も冷静に、適切に判断してくれ。」
山下が磯島らしからぬ反応に戸惑っていると、磯島が笑っていった。
「こういうのをフラグを立てるっていうんだろ、娘に聞いてようやくわかった。フラグへし折ってくるから安心しろ。」
山下は苦笑して親指をあげた。全然変わっていない、この人は。
すぐに離艦したエッジシールドは救難地点に向かっていった。
自衛隊統合作戦本部地下指揮所
「統一朝鮮国内の舞水端里で高熱源反応。弾道ミサイル発射と推定。現在経路及び着弾地点解析中。」
静かな指揮所内だが、解析結果を全員が気にしているのは明らかだった。
「着弾予測地点は竹島東50km地点。竹島の領海外です。」




