緊急対応
大将軍府将軍執務室
AIを使った情報表示の良い所は無駄な情報のろ過と、そのままなら埋もれてしまいそうな重要情報の抽出だ。見落としを少なく、判断形成に必要な情報を得られる。
島根大学付属病院の取り組みと展開を見ていた時、緊急アラームが割り込んだ。
「竹島付近で、交戦?」
詳細表示すると、公海で遭難信号を出していた統一朝鮮船籍漁船の救難信号を受けて救助行動中の我が国航空機に対して、統一朝鮮軍からミサイル攻撃があり生存確認ができないとのことだった。
「潜水艦を沈められたことの意趣返しってことか。それはリスク高すぎだろ。」
思わず言った独り言を大地君に聞かれていた。
「将軍、どうやらそのようです。統一朝鮮大統領府からその旨の指示が出ていたという無線傍受もあります。」
「では、国連並びに同盟国、当事者である統一朝鮮に以下を通知。」
「公海上で遭難信号を出していた統一朝鮮船籍漁船の救助中に、統一朝鮮から何の権限も無く攻撃されたため我が国の航空機1機が所在不明となった。」
やったことの代償は払ってもらおう。
「我が国に対する敵対行動として統一朝鮮に警告するとともに、我が国は領空並びに領海に対して戦時体制に移行する。領海の無害通航権は同盟国の事前通告船以外は現時点をもって無効とする。領空隣接の防空識別圏で我が国の指示に従わなかった場合には撃墜も含めた処置を行うことをここに通達する。」
「統一朝鮮は、事実無根だとか漁船に対する無分別な攻撃だとか言ってきますが、それに対してはいかがしますか?」
大地君は、試すのが好きなようだ。
「交信記録と、レーダー記録を公開する。ベーカーに依頼して両方とも米軍の記録を公開しよう。」
「それで捏造だの何だの反論してきたら、米軍のものだと公表するわけですね。その後に我が国の記録も公開して有無を言わせないように。」
「その通りだよ、大地君。彼らにはいずれ実行犯として報いを受けてもらうよ。」
竹島沖に向け過負荷航行中の山城ブリーフィングルーム
「市原機がレーダーロストした。遭難信号を出していた統一朝鮮漁船の救助活動中に、統一朝鮮軍から攻撃を受けているとの報告があった。撃墜されたのかは不明だが、それが原因の可能性が高い。」
伊丹の説明にブリーフィングルーム内は一斉に殺気立った。
「統一朝鮮への報復攻撃はしたのですか?」
砲術長の飯島一尉は動揺も怒りもなく、表情を消した言った。
「まだだ。報復もありだが、今はそんなことより彼女達も含めた救助が最優先だ。」
伊丹は雰囲気を和らげるように続けた。
「海はまだ冷たいから、救助して山城温泉に入ってもらわんとな。」
ブリーフィングルームに詰めいていた要員は大笑いして、さっきよりもはるかに高まった殺気をともなって唱和した。
「山城温泉は、勇者をいつでも歓迎します。」
「では、我々も最善を尽くそう。」
伊丹の静かな声に、持ち場に皆向かって行った。
島根大学出雲キャンパス みらい棟
「患者の体温は?」
ICU主任看護師の岡本がモニターを確認して中林教授に答えた。
「34.0度です。他のバイタルも異常はありません。」
紅林は見学室の窓越しに全てを見ていた。中林に何かあった場合、紅林が全権を引き継ぐことになる。覚悟はもちろんあるが、できればそれは避けたかった。中林の代役を務めるには相当の才覚が必要だ。
「では、このまま低体温で治療を行う。」
中林はスタッフ全員に聞こえるよう少し声を高めた。
「現在患者は低体温による活性低下で、免疫反応及びウイルス増殖とも低減している。サイトカインストームによる自組織阻害の低減と、アビガン投与によるウイルス増殖阻害が間に合えば、容体は好転する。」
一人一人の眼を見交わした。
「モニター記録を忘れないように。標準治療法の確立までもっていくぞ。」
少し間をおいて彼女は続けた。
「この未知の疾病に対して私達のこの現場が最前線で、…ひょっとしたら最後の砦なのかもしれない。みんなの叡智が必要だ。公開フォーラムも設置した。どんな疑問でも意見でもいい、何が人類を救う手立てか誰もわからん。気になったことでも、意見でも、何でもいい。現場でもフォーラムでもどこでもいいから出して欲しい。我々も現況について何も隠し立てなく公開する。…事態は一刻を争うんだ。」
「いいですね、将軍。」
中林教授の依頼は当然のものだった。
「もちろんだ、中林教授。全面的に支援する。必要ならば、免責も考慮する。」
すぐに大地君に所定の手続きを進めるよう依頼した。
竹島東公海上
「全員収容しました。打撲等の軽症以外、傷病無し。」
長田の報告に市原はうなずいた。
「漁船員は?」
「まだ漁船に留まったままです。」
「こっちに来いって言っても、撃墜された方には来たくはないよなぁ。」
HRS(Helicopter Rescue Swimmer)資格を持つベテラン航空士の磯島が、ちらりと市原を見て言った。
「しょうがないだろ、あれは避けられん。」
磯島は階級は下だが、経験豊富な年上のベテランだ。扱いにくそうな関係だが、お互いの仕事には敬意を払い、その上で茶化すのが好きだということが共通点だった。お互いに言いたいことを言うが、お互い様なので気にならない。
「で、どうやって救難する?」
「喫水線があの様子じゃ、浮いていられるのは持って2時間でしょうね。発光信号でそれを伝えますよ。早く離船しないと助からないってね。」
磯島は市原に敬礼をして続けた。
「うちの優秀な機長がいなかったら、俺達もお前らも生き延びられる可能性が無くなっていたんだぞって続けてね。」
市原は笑って答礼した。




