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「[ログアウト]も消えている」
「そんな!それは一体、どうして」
謎のブラックアウトにGMコールとログアウトの消失。何か異常な事態が起こっている事は容易に想像できる。各種エラーと対応アップデートを繰り返していたサービス開始当初ですらここまで重大なエラーは起こっていなかったからだ。
深刻なバグで済んだらいいけどな、と渉が呟いた時だった。
机上の統合参謀本部直通の電話がけたたましく鳴り響いた。この電話がかかって来ると大抵の場合良くない出来事を伝えられる。だが、当然無視する選択肢はない。
電話を取り、受話器を耳に当てると聞こえてきたのは統合参謀本部付き空軍大佐のいつになく興奮した声だった。
<緊急事態の報告があります>
「内容は?」
<先ほど陸海空海兵各軍のデータリンクシステムが同時に切断されました。現在では復旧しておりますが、人工衛星との一時的な通信途絶が原因と思われます。また、国外に派遣されていた人員、車輌、艦艇、航空機及び物資が国内に戻っています>
「何!?それで、緊急事態とはそれで全てか」
<いえ、実はつい先ほど偵察衛星KH-12から送られて来た画像には我が国からおよそ4000kmの位置に未知の大陸が映されていました>
「それを先に言ってくれ。で、その画像は今どこにある?」
<間も無く私の部下がお届けに参ります>
「わかった」
受話器を置くとほぼ同時に扉が叩かれた。入室許可を聞くや否や複数のカラー写真を持った少佐が部屋に入室した。
持ち込まれた写真は海岸線や平原、森を小倍率で、街を大倍率で写していた。
市街地の風景は中世のヨーロッパを思わせ、本来ならそれだけでも驚嘆すべきものだが、そこではある動物が牛や馬のように背中に荷物を載せて運んでいた。
「これは恐竜か…?」
「ええ、そのようです」
それは、トリケラトプスに似た四足歩行の巨大な生物だった。
地面に置かれたタバコの箱の銘柄がわかるほどの解像度を誇る偵察衛星に白亜紀に生息していた生物が写る。あまりにもアンバランスだ。
まさか俺達は"異世界"にでも飛ばされたのか?まるで一昔前に流行ったネット小説じゃないか。
「この大陸に調査隊を派遣したい。榛名、現在即応可能な艦隊は?」
「第4艦隊です」
問われる事を想定していたであろう榛名が即答した。
「旗艦は『ジョージ・ワシントン』だったな」
「はい。他にタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦『アンティータム』、『フィリピン・シー』、『チョーシン』、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦『ジョン・ポール・ジョーンズ』、『ポール・ハミルトン』、『ルーズベルト』、『デューイ』、バージニア級攻撃型原子力潜水艦『バージニア』、『ハワイ』、サプライ級高速戦闘支援艦『サプライ』が加わり、以上が第4空母打撃群です。
さらに隷下部隊の第2駆逐隊から同じくアーレイバーク級ミサイル駆逐艦『ステザム』、『べンフォールド』、『メイソン』、『グレヴリー』。
第4揚陸即応群からワスプ級強襲揚陸艦『イオー・ジマ』、サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦『アンカレッジ』、ハーバーズ・フェリー級ドック型揚陸艦『カーター・ホール』。
揚陸即応群には即応待機中の海兵遠征隊(兵力約2200人)を搭載させます」
「わかった。俺も艦隊に同行しようと思うから近衛師団から警護部隊の選抜も頼む」
「お任せ下さい」
榛名は今からは副総帥だけでなく近衛師団長としての職務も行う。
隣室に設けられた副総帥室に向かう為に退出する榛名の背中を見送り、ふと執務机に目を落とすと厚さ0.5mmほどの書類が目に入った。
「出港までに間に合うか…?」
この書類も何処かに飛ばされたら良かったのに、と嘆息した。