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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マキさん。

マキさんは料理が上手だ。

プロにも負けないくらいに上手で美味しい料理を作ってくれる。

特に出し巻きが美味しく絶品!

今日も休日の昼下がりに季節はずれのお手製の冷麺を作ってくれた。

「いただきまーす。」

食べる前は食材と食材を作ってくれた人と、料理を作ってくれたマキさんに感謝して食べる。

卵ときゅうりとトマトとキムチが入ってる。

甘辛の汁だれが美味しい、麺のコシも絶妙でいい。

口に入れたらほっぺたが落ちそうになった。

これが美味しいの体現、本人にしか分からないけど。

「どう、おいしい?」

私の前に座ってにっこり微笑むマキさん。

料理もおいしいけど、マキさんの笑顔も別な意味でおいしい。

さらさらの髪はうらやましくて、スタイル抜群で、料理上手。

大学の助教授をしているらしい、なんでも考古学とか。

なんだ、インディジョーンズみたいなヤツなんだって言ったら笑われた。

で、その考古学の助教授と私が一緒に居るかというと私は家出娘でマキさんに雨の日に拾われたのです。

ネコじゃないんだから・・・って友達には言われるけど気にしない。

マキさんも気にしてないから(多分)。

私の両親はとっくに亡くなっていて親戚の家に居たけど逃げ出した、まあ色々苦労があるのですよ。

一度、私は親戚の家に帰されそうになったけど親戚のおじさんに会ったマキさん、すごく怒って家から出てきた。

なんかやりあったな?と思ったけど何も言わなかった。

それから思いがけない言葉を聞く。

『あんな家、帰らなくてもいいわ。あなたが居たいならずっといてもいい。』

・・・おじさん、何言ったんだろう(苦笑)。

最初は家出はよくない、帰りなさいって私を諭してたのにこの180度転換。

「今夜から出張でしょ、マキさん。」

「そうね、2週間くらい。アオイにはまたさびしい思いをさせちゃうわね。」

「やだなー、子供じゃないんだから。ちゃんとアルバイトしてご飯食べてるよ。」

私とマキさんは10つくらい離れていて、ジェネレーションギャップとかもちゃんとある。

でも、年齢を感じさせない若さがマキさんにはあった。

よく居る、自分の好きなことしてる人は年取らないって・・・そういう人がマキさんなのだ。

自分のしたいことが見つからないからアルバイトの日々、ずっとしているつもりはないけど何か自分のしたい事が早く見つかればいいなと思う。

いつまでも居候で、マキさんに迷惑ばっかりかけられないし。

「気をつけてね、鍵はちゃんと閉めるのよ。」

マキさんは心配性。

夜遅くなると、バイト先にまで迎えに来てくれる。

ただし、仕事が忙しくなければだけれど。

助教授は忙しいらしく、迎え2割でメール8割かな(笑)。

メールはすごく多い、迎えに来られない分たくさん送ってきて私も時々携帯を切ってる時もあるくらい。

そんなに心配しなくてもいいのに、子供じゃないんだよ。

あと1ヶ月で成人するのに、私。

「マキさんこそ、事故とか気をつけてよね。無理すると集中力が欠けるんだから。」

ちゅるっ、と麺をすする。

シコシコして歯ざわりがGOOD!

「はいはい。アオイも気をつけなさい、あなたモテるんだから。」

「・・・それ、私が心配してる意味と違うよ。」

「私の心配は2つ、アオイ自身の安全と変な男が近寄ってこないかって事。」

「変な心配だね。」

「あと1ヶ月、油断ならないわ。」

私は笑う、そんなに心配しなくてもいいのに。

今の私はマキさん以外の人に心動かないよ、二十歳まで待ってくれたマキさんを裏切らない。

 私を保護してくれたマキさんは同性愛者だった。

もっとどろっとしたものを想像していたのに本人はあっさりしていて、ちょっと驚いた。

人によるのだろうけど誰かれも、ではなくちゃんとポリシーもあるらしい。

やっぱり一緒に生活していると愛情が湧くのかな?

最初はそんなに意識しなかったけど、徐々にマキさんの視線に含まれるある種の感情を感じはじめた。

さすがにオトナだからあらかさまにぶつけてこない、私じゃなければ分からない感情で上手に隠していた。

 でも、なんどもため息をつく姿を見たら聞きたくも言いたくもなった。

我慢ってすごくつらいよね。

私も我慢はしていたからつらいのは分かっているから、マキさんの苦しさが分かる。



『マキさんは私の事、どうしたいの?』

ある日、聞いてみた。

本当に突然に聞いたから、マキさんは飲んでいたオニオンスープを噴出した。

そんでもって咳き込んで、しばらく話ができなかった。

ごめん、タイミング悪くて。

「どうって・・・」

「私の事が好き? どうにかしたいと思ってる?」

「・・・ちょっと、何よそれ。」

少し怒ったように言った。

「最近、ため息の回数ふえてるよマキさん。」

「・・・・。」

私が言うとうっ、と引く。

「無理って、体に毒だよ。」

「なんで無理してるのよ、私が。」

「私が気付かないと思ってる? そんなに子供じゃないよ、オトナでもないけど。」

ちょっと遅めの夕飯、ハンバーグは私の手作り。

マキさんに教わって、試作何十個目のもの。

今日のはちょっと自信があるんだよね。

「私があなたを引き取ってるのは何かを見返りにと思ってるってこと?」

そうは思ってない、イトコのおじさんに比べたらマキさんは神様だ。

「マキさんだけがそう思っていて、罪の意識を感じてるだけで私はそうは思ってないよ。」

「だって、すごく都合が良すぎじゃないの私。」

箸を置いてマキさんが正面を向いて言った。

「しょうがないよ、そうなっちゃうんだもの。必然か偶然か。」

私を拾ってくれたのは親切だからだし、住まわせてくれたのだって変な意図はなかったのも分かる。

普通はそこまで親切にしてくれないけど、マキさんからヨコシマな事は感じなかった。

「だから、いつもなんて嫌なヤツなんだって思ってるの、自分を。」

「自虐的。」

「・・・ほっとけ。」

「私、マキさんのこと好きだよ。」

「ありがと。」

あっさり流す? オトナのくせに事実を認めないなんてひどい。

「本心から言ってるのに、ちゃんと受け止めてよ。」

マキさんの方から熱い視線送ってきたくせに・・・私は何度目かのにやられちゃって好きになっちゃったっていうのに。

「どういうことか分かって言ってるの、アオイ。」

「分かってるよ、子供じゃないって言ってる。」

時々、マキさん別な香水の匂いをつけて帰ってくる。

多分、どうしょうもなくて他の人としちゃうんだなあと思う。

その事については、マキさんの事は好きだけど今はまだ嫉妬するほどじゃないから責めない。

「・・・あまり大人びてるのも困りものね。」

苦笑するマキさん。

「環境が環境だったから、勉強して早くオトナにならないと生きていけなかったもの。」

「アオイ。」

「あ、変な哀れみとか止めてよ? そういうの嫌いだから。」

「ごめん。」

「どうなの?」

「・・・・・好きよ、アオイ。」

マキさんがやさしく言う、耳に心地よく響く。

「うん。」

「一緒に暮らしてると情が移るのね、自分でもびっくりしたわ。」

だけど、誰でもというわけじゃないと思う、イトコの家に居てもその家族に愛情を受けた事がなかった。

血が少しでも混じっているなら、少くらい愛情を分けてくれても良さそうなのに。

ま、あの家族に期待はしなかったけど。

「でも、ちゃんとけじめはつけるわ。」

けじめ? なんか漢っぽいなぁ、マキさん。

「あと1年でアオイは二十歳でしょう? 二十歳まで待ってる。」

「1年も待つの?」

そういう事を言われるのは想像してなかったから拍子抜け。

男の人だったらマキさんみたいな悠長な事、言わなかったかもと思う。

「光源氏も紫の上を待ったのよ?」

「全然、うちらと違うじゃない。」

比較するところがまた、違ってるって。

「何事も急ぎすぎるとよくないわ。1年なんてあっという間だもの、待てるわよ。」

「そこら辺がオトナなの?」

「え?」

「・・・なんでもない。」

今、どうこうして欲しいとは思ってないからいいか。

ホントのことをいうと少し不安がある、期待もあるけど不安の方が大きい。

だって、私にとっては知識はあるけど実際は未知の世界の事だから。

でも、マキさんなら私が不安にならないようにリードしてくれると思う。

私は笑顔のマキさんを見ながらそんな予感がした。



成人式は行かなかった。

いまさらイトコの居るところに戻るつもりもなかったので、写真館で写真を撮って家で祝った。

もちろん、料理はマキさんで大学はお休み。

あとで、その影響で結構大勢の生徒が困ったと聞くことになるのだけれど。

「やっぱり、着物はいいよね。」

写真を見ては何度も言うマキさん、私は呆れてご飯を食べている。

相変わらずマキさんの料理は美味しくて、一杯食べられた。

ちょっと着物がきつかったような気が・・・。

「もう、いいよ。早くご飯食べたら?」

「だって、アオイの晴れの日の衣装よ。何度見てもため息が出ちゃう。」

・・・・思いっきり、恥ずかしい。

これじゃあ、親バカみたいだし。

「マキさんの成人式は?」

「ちょっと、そんなこと聞くの?」

「流れ的にそうでしょ? 絶対。」

「成人式には行かなかったな、田舎には帰りたくなかったし。実際、忙しくて帰れなかったから。」

「しなかったの?」

「ええ、研究室で缶ビールで祝っただけ。」

いつの時代なのか、そんな二十歳のお祝い。

「だからね、アオイにはちゃんとして欲しかったの。」

着物も写真も全部、マキさんが用意してくれたもの。

私はほんとに幸せだと思う、こんなに大事にされて。

血のつながりが無い他人の私にこんなに親切にしてくれる、見返りも求めないマキさん。

「私には姉妹が居ないから姉妹ごっこもしたいのかもしれないわね。」

「お姉ちゃん♪って呼んで欲しいの?」

「アオイに呼ばれると変な感じ。」

ごっこしたいって言ったから、言ったのにわがままだなあ。

はじめてのビールを飲んだ。

「に、苦い。」

「ふふふ、初めてはそうなのよ。」

TVのCMじゃあ美味しそうに飲んでるのに・・・こんなに美味しく感じないとは。

まだ、炭酸飲料のほうがマシ。

「私はいいや、烏龍茶を飲むから。」

半分くらいまで飲んでやめた、無理してこんなもの飲む必要はないもん。

「美味しいのに、お子様ね。」

「何とでも、私はビール腹になりたくないし。」

「今日は飲むわよ、アオイの成人した日でめでたいんだから。」

「飲みすぎると大変な事になるよ。」

「大丈夫、大丈夫って。」

そう言いながらガンガン缶ビールを開ける、お酒は飲む人だけど今日はピッチが早い。

私はちゃんと忠告したんだから、飲みすぎると大変な事になるよ・・・って。

買ってきたケースは空になった、私は1缶の半分しか飲んでないのに。

ありえないでしょ、マジメにと驚愕する。

オトナの飲酒はすさまじいと思った、コレが平均かは分からないけれどね。

お酒はマキさん、食事は私が処理するという役割になってしまった。

デザートがおはぎってちょっと微妙だったけど、甘くて美味しかった。

食事が終わる頃になると、マキさんが半分以上つぶれていた。

 だから言ったのに。

呆れながら、食器を片付けた。

時計の針は既に日にちが変わり、2時間以上経っていた。

酔っ払いの相手は大変だと心底思った日だ。

早くお風呂に入って今日は寝るかな・・・。

マキさんの方を見ればソファーでだらしない格好で寝ている、その顔は幸せそうなので起こさなくてもいいか。

あそこまで連れて行くのは至難の業だった、酔ってるから支えが無く体重のほとんどが私の体にのしかかってくる。

よろよろとよろけながらようやくソファーに移動させたのだ、さすがにベッドまでは運べない。

かちゃかちゃと食器を洗い、水を切って乾燥させる。

洗濯は明日にやるとして、お風呂。

ビールを飲んだせいか少し、顔がぼーっとする。

飲んだ直後はもっと悪かったので少しはよくなったのかもしれない。

私はよく考えずにお風呂に向かった。



むぐ。

寝ていたのか、意識がなかった私は口の中につめたいものを流し込まれたのを感じて目を覚ました。

目が開く前に口から流れるものを感じる。

 これは、水?

こぼれた以外のものはゴクリと飲み干した。

喉が渇いていた、水は口内を潤し、喉を潤し私の意識をはっきりとさせた。

目をゆっくり開けて見ればすぐ近くにマキさんの顔があった。

「アオイ!」

だらしなく寝ていたのは覚えていたから必死な表情のマキさんに驚いた。

起きたんだ、もう朝なの?

「マキさん。」

「大丈夫?アオイ。」

心配そうに覗き込むマキさん、どうしたんだろうと思う。

何がどうなっているのか私には状況がよく飲み込めていない。

「どうかしたの?」

「どうかしたのって・・・アオイ、お風呂でぐったりしてたのよ。」

お風呂で? あ、そうか思い出した。

食事が終わって、お風呂に入ったんだっけ。

少しふらついたけど、ソファーにマキさんを運んだくらいだから大丈夫だと思って・・・。

「ごめん・・・」

「ほんとにびっくりしたんだから、お酒飲んで状態が悪い時はお風呂に入らないのよ。」

「うん。」

年長者や経験者の言う事は良く聞くほうなので頷く。

多分、これがいい失敗になって次からはしなくなるのだ。

「・・・ここ?」

「アオイのベッドよ、お風呂から運んだの。パジャマ着せる時間がなかったから裸のままだから落ち着いたら着替えてね。」

「え?」

そう言われて身体に触れると確かに何も着ていなかった。

「お、重かった?」

さすがに恥ずかしい、真っ裸を見られた。

「そんなに。それよりぐっと我慢するのが辛かったわ。」

ベッドに腰掛けて私の額を撫でる。

その仕草が優しく懐かしい感じがした。

「我慢?」

「そうよ、目の毒よ。意識の無い人をどうこうするのは私の趣味じゃないから。」

また、思い出した。

今度はかなり重要なこと。

「マキさん、私・・・」

「今日は止めるわ、アオイの体調が良くないし。」

「でも。」

「そんなに急ぐことでもないでしょ? 1年待ったんだからあと少しも待てるわ。」

そう言ってマキさんは身を屈めて私にキスをした。

 さっきのは口移しで水を飲ませてくれた、実質ファーストキスでコレが2回目かぁ。

レモン味じゃなかった(笑)。

「お休みなさい、アオイ。」

「お休み・・・」

悪い気がした、せっかく待ったのに伸ばしてしまうなんて。

今後は気をつけないと、と反省した私だった。

 ゴメンね、マキさん。




その日は急に来た。

しばらく忙しくて忘れてて、えっ、今?!って感じ。

マキさん、大学が忙しいらしく帰ってこない日が多かった。

今更、居ない事がさびしいわけじゃないけどやっぱり毎日顔は見たい。

それに、美味しいご飯が食べたいし(笑)。

【今日は早く帰るわねッ】

その日は、そんな意気込んだメールが私の携帯に入っていた。

私は笑って返信する。

【何かいいことあるの?】

しばらく経ってメールが着信。

【決めたの。覚悟、決めなさいよアオイ。】

・・・覚悟って、随分唐突過ぎるような気も。

3日くらい会ってないと切れるのかな? 

マキさんの言いたい事は分かったのでこう返信した。

【玄関で三つ指ついたほうがいい? お風呂にするか、ご飯にするか聞いたほうがいい?】

かなり笑えるメールだと思う。

今度はちょっと間があってメール。

【・・・萌えるわね。】

萌えか・・・マキさん、その単語があまり似合わない。

【じゃあ、ご主人様って言って欲しいかも。】

一番遠そうなマキさんからそういうことを聞くと少しショック。

無理に若い作りしなくても・・・と思ってしまう。

とはいえ、マキさん私よりは若くないけど同年代の人に比べれば若いと思う。

日本中の古墳や史跡、発掘に飛び回ってるから超アクティブ。

【はいはい、分かりました。】

最後にため息マークをつけてメール送信。

どれくらいで来るかなと思っていたら全然来ない、そのかわりにインターフォンが鳴った。

もう、誰よ。

マキさんの反応見たかったのに。

「はい、いま出ます。」

内鍵を開けて扉を開けた。


ばっさり。


私の視界が遮られた、いきなり何にも見えなくなる。

ただ、視界は遮られたけれど鼻にいい香りが入り込んでくる。

チクッと痛い気もしないでもないけど。

「な、なに!?」

思わず後ずさった。

後ずさってからやっと目を開けられた。

目の前には大きめな、赤い薔薇の束がある。

「????!!」

いきなりのことに現状把握不可能、少々パニくってる。

そんな私に声が割って入った。

「ふふふん、じゃん★」

花束がよけて、自慢げなマキさんが顔を出した。

「なに、これ?」

「薔薇の花束でしょ、見ればわかるじゃないの。」

そりゃあ、分かるけど・・・なんで私にってこと。

誕生日でも記念日でもないのに。

「オトナになるアオイの為に。」

「・・・照れるからやめて欲しいなあ。」

嬉しいけど、照れる。

「私のキモチ。」

玄関の扉を後ろ手に閉めて、ずいっと私の前に立つ。

「受け取ってくれる?」

「前にもこんなことしてたの?」

マキさんカッコイイと思いながら、思わず聞いてしまった。

「うーん、どうかな。」

あ、逃げた。

マキさんの女性を口説く時のパターンかも。

「言っとくけど、アオイがうちに来てからはしてないわよ?こういうこと。」

「・・・・・。」

「”けじめ”つけるって言ったでしょ?」

「花を贈るのは意味があるのよ。感謝の意味もあるし、愛情の意味もあるし、告白の意味もあるわね。」

マキさんは照れずにすらすら言う、私はというと聞いているだけなのに激しく照れている。

「私がねアオイにこの花をあげる意味は、花をあげる代わりにこれからあなた奪いますって意味。」

「・・・聞いたことがない、そんな事。」

「当たり前じゃない、持論だもの。」

持論って・・・。


私が唖然としているとマキさんはささっと玄関を上がって、私の手を引いて部屋の中に入った。

「ちょっ、・・・マキさん?!」

「受け取ったわね、薔薇。」

「マキさんの手にまだあるじゃない。」

「キモチの問題よ、キモチの。」

話がかみ合わない、・・・かみ合わないというより話が一方的で私はドンドン引きづられて行く。

行き先は・・・寝室。

分かっていた事とはいえ、実際にそういう場面に立つことになって初めて私は身体が熱くなった。

「待った、待って、マキさん。」

「待たないわよ、覚悟しなさいメール送ったでしょ?」

「もらったけど、送られてそんなに経ってないじゃない。すぐに覚悟なんかできないって。」

もらってすぐにマキさんは玄関のインターフォンを押した。

絶対、すぐ近くでメールを送ってる。

私に考えさせてくれる暇すらないくらい、物事のスジをなぎ倒して・・・そんなに畳み掛けてどうするの?

「覚悟って、いつもなかったの?」

ふとマキさんが振り返って言う。

「あったけど・・・今、急にだから・・・」

掴まれた腕が痛い。

「アオイのあの時から踏み出す勇気が無くてそのままできたけど、今日がその時だと思ったの。」

忙しかったんじゃないんだ・・・ずっと思ってて、タイミングを計っていたんだ。

「・・・どうして今日なの?」

「私のアオイを欲しいって思う感情が、ピークになったから。」

そう言うと私の腕を引っ張り、強引に自分の腕の中に抱え込んだ。

私は何も言えずただ抱きしめられる。

マキさんが持っていた薔薇の花束は床にばさりと落ちた。

「好きよ、アオイ。」

感情がこもっている言葉。

伝わる、マキさんの心が。

私は恐々だけれどマキさんの背中に手を回した。

「私も・・・好き・・・」

声に出す。

今まで、声に出したことは無かった言葉。

マキさんに言われたことはあっても、こんな風に言った事はなかった。

「今までは対等じゃなかったけど、今夜からは対等になるのよ。」

「対等?」

「そうよ、今までは私は保護者だったけど・・・」

マキさんは抱きしめる腕を緩めて私を見た。

「・・・恋人になるの?」

「そう、アオイは嫌?」

私は首をゆっくり横に振った。

嫌なはずがない、好きなのに。

マキさんを独り占めできる存在なのに。

「嬉しいわ、煩わしいことなんかこの際、そこらへんに捨てるわ。」

「倫理観とか?」

「・・・こんな時に引くようなこと言わないで、アオイ。」

苦笑するマキさん。

「一応、気にしてるんだ。」

「一応って何よ、もう・・・これもで大学助教授なのよ。人を教える立場なのよ?」

「気にしてないよ、私。助教授だって人を好きになったら”ただの人”だもん。」

「まったく、アオイは・・・」

マキさんは泣きそうな顔をして(私だけそう感じた?)私にキスをした。

唇は触れてすぐに離れてしまい、私はそれを残念に感じる自分に驚いた。

 もっとして欲しい。

そんなことを思う自分が心の中に居る。

「マキさん。」

「うん?」

「もっとキスして。」

私の申し出に驚いたような顔をしたマキさん。

そんなに意外なの? 私が言うと。

「・・・そんなこと言うと、嫌って程するわよ?」

「いいよ。」

キスが気持ちのいいものだと知った気がする。

もっとして欲しい、その気持ちがずっと強くなる。

「アオイ。」

キスしてくれるかと思ったらマキさんってば、私の唇に指を当てた。

「?」

「この続きはベッドで。いい?」

私が頷こうとしたら、マキさんは私の反応を最後まで見ないでくるっと脇に私を抱えた。

「ーーー!?」

そんなに体重はある方じゃないけど、こんなに軽々抱きかかえられるほど軽くは無いはず。

それに、マキさんもう三十越えてるのに・・・ゴメン、言っちゃった。

「アオイの気が変わらないうちにね。」

変わらないって・・・私の気持ち(笑)。


あっという間に私はベッドに連行された。

夕飯の事が頭に思い浮かんだけれど、今それを口に出すとまたマキさんに呆れられるかもしれない。

お腹はあまり空いてないからいいかな、マキさんも私の事で集中しているし。

マキさんがベットに乗って来て顔を寄せてきた。

「アオイ、好きよ。」

「・・・さっき、聞いたよ。」

「何度でも言うわ。」

連呼されても恥ずかしいだけなのに。

マキさんが好きよ、と言って唇を塞いできた。

今度は押し付けるようにキスをし、肩腕ごと身体を押さえられた。

「う、んっ・・・」

そう激しくはないけれど深く探るようなキスに圧倒される。

私は思わずマキさんの服をきつく掴んだ。

薄目を開けてマキさんを見れば、端正な顔立ちだと分かる。

この人が。

保護者という立場から、恋人になるひとなんだ。

そう思いながら息苦しくも目もくらむような感覚に、私は身を委ねた。




嵐のような、という表現が一番ピッタリとすると思う。

しばらくの嵐とそのあとの凪な時間、少し身体がだるい。

喉も渇いたけど、マキさんの腕に抱きしめられて寝ているのでベッドから出られなかった。

本人はすやすやと寝ている。

私はというとまだ、興奮しているのかなかなか寝られないのに。

マキさんの腕を見る、意外と筋肉質だった。

こんな真近で何も着ていないマキさんを見るのはこれが初めて。

いつぞやは気を失っていたから全然、分からなかったし。

思い出すと少しどころか、大いに恥ずかしかった。

抑えることも出来ずに声を上げちゃって、お隣りに聞こえてなければいいんだけど・・・。

 でも、嬉しかった。

私が望んだ事なんだし。

何度も耳元で囁いたマキさんの声がまだ、余韻として残っている。

もういいよっていうくらい、ずっと囁かれたっけ。

そのおかげで、緊張が解けたのも事実だった。

緊張が解け、徐々にマキさんに私は開かれていった。

言うのもはずかしいから具体的には言わないけど・・・キス以外の事もこんなに気持ちがいいとは思わなかった。

触れた手や指、唇が這う時の感覚には産毛がざわつくほどの快感を覚えた。

 マキさん・・・。

声に出さずに心の中で言った。

マキさんの顔があんまり満足気(幸せそう?)なのでこのままでいよう。

くすぐったくないのかな?と思いながら私は今よりもっとマキさんに身を寄せた。

今は寝られなくてもいいか、明日はバイトも休みだし。

眠くなったら明日寝ればいいんだ、マキさんは放っておいて。

 あ。

落ち着こうとして、思い出してしまった。

薔薇の花束、床に落としっぱなしだ。

かわいそうに、本当に一瞬だけの小道具になってしまった。

あとでドライフラワーにしようと思う。

だって、記念の花だもの。

マキさんがスラスラ言った恥ずかしい事は横に置いといて(笑)。

私とマキさんが恋人になる日に買ってきてくれた花だから。


これからも買ってくれると嬉しいな、お花。


年の差、好きです(笑)。

書きなぐりました、変な部分があるとは思いますが楽しんで頂けたら幸いです。


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