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人は忘れる生き物である

「今日は日高は風邪で休みだそうだ」


秀乃川秀男は教師の道30年のベテラン教師である。

生徒たちは可愛くない時もあるにはあるが皆平等に可愛く大切に思っている。飾らない人柄と生徒の話に真剣かつ的確なアドバイスを送る頼れる教師として生徒たちから慕われている。

秀乃川の危険察知能力は極めて高い。

その危険察知能力の高さで遠ざけてきたトラブルは数知れない。

その能力のお陰でトラブルとは無縁の人生を送ってきた。

ついた異名はの荒野を駆け抜けるチーター秀乃川・・・・・

そんなチーター秀乃川の何気ない1日が始まる・・・はずだった・・・・・


「竹澤!お前、日高の家、家から近いだろう?だからこのプリント、お前が日高の家に持っていって・・・くれ・・・ない・・・か・・・・」


その時、秀乃川は教師になってから生徒から初めて殺意を感じとった。危険をすかさずキャッチするチーター秀乃川・・・・・さすがである。凛々の自分を呪い殺すかのような視線と凛々から発せられる凄まじい闇のオーラに飲み込まれそうになる秀乃川。


(なー!!なぜ、あの優等生の宮下があんな暗殺者みたいな目をするんだ・・・?先生何かした?!あの優等生の宮下がそんな目をするわけない!!きっと幻でも見たんだろう・・・・・)


「竹澤、お前が・・・日高に・・・」


凛々は誰にも見えない速さで秀乃川に向かってカッターナイフを次々に投げつけた。カッターナイフは秀乃川の顔すれすれに通り過ぎると全て黒板に突き刺さった。


(ぎゃー!!幻じゃなーい!!モノホンだー!!モノホンだったー!!なんで?なんでそんなに怒ってるんだ?!宮下、お前この前、腕に止まった蚊を殺そうとしてた俺に向かって『虫も大切な命なんだから殺したらダメです』って天使のような微笑みを浮かべて言ってたじゃないか?!秀乃川先生は虫以下なんですかー?!いかんいかん・・・まだHR中だ!!)


「えー、竹澤お・・・前・・・・・行って・・・くれ・・・・ない・・・か・・・・・」


凛々の右目に『呪』左目には『殺』という字が秀乃川にはその時ハッキリと見えた。


(な、なんでー?!よくわからないがお前は俺を殺して殺人者になるというのか・・・?早まるな宮下!!人生はこれからだ!!若者よ!!)


その時凛々の口が動いた。


(な、なんて言ってるんだ・・・?!)


『わたしに行かせなさい。もしもそれが守れなかったときは・・・』


(守れなかったときは・・・?)


『帰り道に気をつけて下さいね?お・ろ・か・も・の』


凛々は不気味な意味深な笑顔を浮かべると秀乃川の顔から血の気が引いた。


「ぎゃー!!先生が間違ってた!!先生が馬鹿だった!!日高の家にプリントを届けに行く任務は宮下以外ありえない!!世界中探しても宮下ほど日高の家にプリントを届けるのがぴったりな人はいないだろう!!いやーすごい!!今年も受賞間違いなしですね!!ベストオブザ日高のプリント配達人!!ひゅー!!宮下おめでとう!!お前のような生徒をもって先生は幸福者だな!!はははは・・・ははは・・・」


「はい、先生わかりました。私が日高くんの家まで届けます」


秀乃川は危険を察知することによりこの日もトラブルを無事、回避した。秀乃川はサウナにいるかのように尋常じゃないくらい顔中に汗をかいている。


「帰り道・・・」


「ひー!!」


「なんで私が適任かと。おろ・・・」


「ひゃー!!」


「おろおろしていられないわ!!私は日高くんの家にプリントを届けるという国家規模の最重要任務があるので早退します」


「はい!そうですね!いってらっしゃいませ!!」


秀乃川は深々と頭を下げ凛々を見送った。

すると凛々は最後に振り返りウインクをすると教室を出ていった。ハートを射ぬかれるクラスメイト一同。


「いってらっしゃいませ・・・!!」

教室中の生徒が深々と頭を下げ見送ったのだった。


(ふふふ・・・・・担任が愚か者じゃなくてよかったわ。愚か者だったら・・・・・ふふ。日高くんのお見舞い行くなんて恥ずかしくて自分からはとても言えない・・・・・!!だから目で訴えさせてもらったわ!!案外上手くいくものね)


そんな可愛い気持ちから生じた行為にはとても見えないが本人は無自覚である。凛々はいつもは礼儀正しく穏やかな生徒であるが、幼少の頃から日高のことになると人格が豹変するのである。


(予想通りの展開ね。日高くんの傘をわざと拝借したのはこの看病イベントを発生させるための布石・・・日高くんを看病する私・・・・・看病する聖母のような私を見てそのあまりの神々しさに日高くんはひれ伏すと、思わず好きだと言ってしまう。そしたら私はこっぴどくまるで鬼畜のようにフって新しい恋を・・・恋を・・・)


一方その頃日高は身の危険を感じたのか布団の中でうなされているのだった。


「着いちゃった・・・・・」


立派な2階建ての家の前で心臓を高鳴らせる凛々。

表札には日高と書かれている。


(本当に来ちゃった・・・・・!!どうしよう?!今日の髪型、変じゃないかな?!ご両親が出たらどうしよう・・・・・?!)


不自然なくらい髪とヘアピンを触りまくる凛々。

憧れの日高の家に来てみたはもののあまりの緊張に心臓が飛び出そうな凛々。


(何を緊張してるの?!こんな日が来るときのために6歳の頃から欠かさず毎日日高くんの家のチャイムを押し続けてきたじゃない?!)


ただの迷惑行為である。よいこは真似してはいけません。


(押すの・・・!押すのよ凛々!!)


「ぎゃー!!」


その時、日高の何やらただならぬ悲鳴と物音が聞こえた。


「日高くん?!何かあったのかしら?!」


日高のただならぬ悲鳴に心配なり驚くべき速さでチャイムを連打しまくる凛々。しかし応答はない。


(日高くん!!早く誰か・・・出てください・・・・・!!)


「だ・・・誰か!!助けてくれ!!」


その時また日高の悲鳴が聞こえた。


(日高くん?!もうなんで誰も出ないの?!)


ドアノブに手をかけ押してみるとドアが開いた。


(人の家に勝手にあがるのはとてむ非常識だけど日高くんの緊急事態だもの!!そんなこと言ってられないわ!!)


「お邪魔します・・・・・!!」


「ぎゃー!!」


家の中に入ると日高の悲鳴が聞こえた。


(日高くん?!部屋は2階だということは予めリサーチ済みよ!!今、行くからね!!日高くん!!)


2階へ続く階段を一切の音をたてず昇っていく凛々。


(2階の突き当たりが日高くんの部屋だということも予めリサーチ済みよ!!ここね!!)


ドアには英語で王の寝室と記されている。


(こんな恥ずかしい名前をつけるなんて日高くん以外ありえないわ!!よってここが日高くんの部屋・・・!!)


「そ・・・そんな!!や・・・やめてくれ!!お願いだから!!」


日高の悲痛な叫び声を聞いて咄嗟にドアを開ける凛々。


「日高くん?!大・・・丈夫・・・・・」


そこには紫色の豹柄のパジャマのボタンを全開にしおでこにカレーパンを手で押しあて猫をスマホで写真を撮っている日高の姿があった。


「もう!!そんなに可愛いと・・・可愛すぎて俺・・・呼吸困難になっちゃうだろう・・・?!!まぁ俺には敵わないけどな。ははははは」


「貴様は・・・何をやっとるんじゃー!!」


(な・・・なんで宮下が俺の部屋にいるんだ?!というか・・・)


「娘よ・・・学校をサボるなんてけしからんな。そんな子に育てた覚えはないぞ?今すぐ学校に戻りなさい!!」


「ご・・・ごめんなさいパパ・・・・・じゃないわよ!!風邪で休んでると思ったら一体何してるのよ?!」


「あぁ、今は隣の隣の山咲野さんの家のきなこちゃんと写真を撮っていたんだだよ。俺は現在進行形で美しくなっていくからな・・・・・今の俺を写真に残したいんだ・・・・・だって今の俺は今しかいないだろ・・・・・?安心しろ。今回も隠蔽工作に抜かりはない!山咲野さんの家には代わりにきなこちゃんによく似た餅などにかけて食べる食べる方のきなこを代わりに置いてきたからな。きな粉だけじゃ可愛そうだから餅も傍らに置いてきたしな。隠蔽工作、完璧・・・・・俺・・・天才すぎ!!」


「また人の家のペット勝手に拝借してきたんかい!!しかも隠蔽工作がこの間より雑ー!!なんで食べるほうのきな粉置いてくるんだよ?!100%猫じゃないってわかるよ!!きなこ違いだよ!!新種のいやがらせだよ!!風邪引いてるくせによくそんな元気がありますね?!」


「ふふふ。宮下は心配性だな~そんなんじゃ、怖くて何もできなくなるぞ?それに隠蔽工作は本当に成功したんだよ。だって山咲野さん『きなこちゃん~ここでしたか~餌の時間ですよ~』って俺が置いたきな粉と餅を抱き抱えて家の中に入っていったぞ?」


「山咲野さん狂ってる~!!大丈夫?!ねぇ、山咲野さん大丈夫なの?!もう山咲野さんが一体どんな人なのか気になって仕方ないよ!!まさかこんな人を馬鹿にしたとしか思えない隠蔽工作を信じるなんて・・・!!」


そう吐き捨てると凛々は日高の部屋をじっくりと眺めた。


(ここが日高くんの部屋か・・・)


カーテンは紫と水色のストライプ、緑色の一人掛けのレトロなデザインの愛らしいソファー、ヴィンテージ感漂う机と椅子・・・頭上にはシャンデリアが輝いている。とにかく洒落た部屋であった。凛々は一目で日高の部屋が気に入った。でも・・・・・


「なんてお洒落な部屋なの・・・でも・・・でも・・・・・」


凛々はポツリと呟いた。


「そうだろう?」


日高は満足げに微笑むと凛々に向かってウインクした。

日高は相変わらず額にカレーパンを押し当てている。


「でも・・・・・なんじゃこの異様な空間!!なんだこの鏡の数は?!鏡の中に吸い込まれそうだわ!!魂持っていかれそうだわ!!こんなに鏡必要か?!それと鏡の合間、合間に飾ってある大量の日高紗輝の写真なんなんだよ?!ご丁寧に写真館を撮った時の年齢、時間、生年月日、天気、その日食べたらカレーパンの個数を記載してあるし!!いらねーだろその情報!!ウザすぎるわ!!よくこんな鏡があって自分に見つめられる部屋で暮らせるな?!頭おかしくなりそうだわ!!・・・ってあんたぶっちぎりで頭おかしかったわ!!」


壁一面に様々なデザイン大きさの鏡がところせましに飾られている。


「それと・・・・・さっきから律儀にずっと額に押し当てているものは一体・・・何・・・?!」


「見ればわかるだろう?カレーパンだよ。風邪を引いたときにはカレーパンを額に押し当てたり、食べたりするとすぐに治るんだ。カレーパンすごい!!」


目を輝かせてそう話す日高は愚か者そのものであった。

風邪が治るのは日高がカレーパンを食べれば治るからと薬を飲むのを頑なに拒否するため母や妹が水に薬を混ぜて飲ませるという影の努力があってのものであるが、日高自身は全く知らない。


「そんなわけあるかー!!カレーパンで治るなら風邪薬なんてこの世に存在してないわ!!」


「え・・・・・」


日高は本日55個目となるカレーパンを口にいれようとしていたが凛々の話を聞き思わずカレーパンを床に落としてしまった。

今にも泣きそうな顔になる日高。

そんな日高を見て胸が締め付けられる凛々。


(本当に信じているのね・・・・・子供の夢は壊してはいけないわね・・・・・)


その時凛々は日高のベッドをふと見た。今まで気付かなかったが日高のベッドには愛らしいぬいぐるみがたくさん置いてあった。

凛々の視線をすぐに察知し、ぬいぐるみを布団でとっさに隠す日高。


「なんで隠すの?」


「・・・だって恥ずかしいだろう?男の趣味が・・・ぬいぐるみ作りだなんて・・・・・昔からぬいぐるみを作るのが好きでな・・・・・笑いたいなら・・・笑っていい・・・・・」


日高は自虐的にそう言うと寂しげに俯いた。


そんな日高に対し凛々がこの時思ったことは

『日高くんでも恥ずかしいって感情あるんだ・・・』だった。


例の虎のぬいぐるみと鈴木田さんの愛犬らしきぬいぐるみもある。


(ふふふ。これが本物か・・・可愛い・・・・・)


凛々は虎のぬいぐるみを愛おしそうに自分の膝に乗せ、ぬいぐるみを優しく撫でながらベッドにそっと腰掛るとまだ俯いている日高をやれやれといった表情で見つめた。


「私は・・・私は誰になんと言われようと好きなものを貫き通日高くんが素敵だと思いますよ?いいじゃないですか!!男性がぬいぐるみを作ったって。とっても可愛いですよ?このぬいぐるみたち。日高くんが愛情込めて作ったんだなってこのぬいぐるみを手にとってすぐにわかりました。こんな可愛いぬいぐるみを作れる日高くんはとってもカッコいいと私は思いますよ?それに日高くんはいつもどんな鴇でも堂々としていてくれないと、なんだかこっちまで調子狂っちゃいます」


そう言うと凛々は優しく微笑んだ。

その微笑みを見て日高はこの時思った。やはり俺は彼女が好きだと。そして今自分の気持ちを伝えようと決心した。


「宮下・・・俺・・・・・お前のこと・・・・・好きだ・・・・」


「・・・・・・・・・・」


部屋に流れる重い沈黙・・・・・

しかし5分経っても10分経っても凛々は何も答えない。

不審に思った日高は宮下を見つめた。

すると宮下は安らかな寝息をたてていた。


「目・・・目・・・目開けて寝てるー!!マジでー?!じゃあ、俺の告白聞いてなかったの?!」


告白は残念ながら凛々に届くことはなかったが、凛々が目を開けて眠るという自分の知らなかった一面を知れて少し嬉しく思う日高であった。


一方凛々は本来の目的を忘れ、

結局1度も聖母のように看病することはなかった。

そして日高の風邪が移ってししまい、学校を数日休むのであった。


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