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第4章 それぞれの想い~アドリアン

最後の章に突入します。

アドリアンside


 エルミールの出自について、いつかはわかると思っていたことだったので、アドリアンは特に何も感じなかった。

 あの後、ラウルが真っ青になって部屋に戻ってき、結局ほかの招待客への挨拶もそこそこに宿へ戻り、一人で酒を飲んでいた。

(エルミールがオイドリヒ王国の国王の娘(王族)という事はわかった、が)

 一つ疑問に思い当たることがあった。連れされられたラウルが真っ青になってアドリアンとエルミールを見比べていたことから、何かあるのだろう。

 彼はこれが現実なのだという事を確かめるように、再びグラスを空けた。


 4人の兄たちは何も言わなかったが、彼女が見つかってしまった以上、今の状態では、これ以上そのままエルミールを連れて旅に出るわけにはいかず、一度オイドリヒ王国へ戻すことにした。帰路の馬車中、3人ともそれぞれ思うことがあり沈黙を保ったまま、馬車内の重苦しい雰囲気とは対照的に、外は年末へ向けた人々でにぎやかな風景が流れていた。 

「エル」

 最初に話しかけたのはアドリアンだった。

「はい。なんでしょう」

 エルミールは視線を合わせないまま答えた。アドリアンに失望されたとでも思っているのだろう。

(うまく気持ちが伝わっていないだけだ)

 アドリアンはいつものように抱き寄せることはせずに、手を握った。

「――俺は、この3か月間エルと一緒に旅をした。今までの旅の中で一番楽しかった旅だった。エルミールはどう?」

 アドリアンは不安げに瞳を揺らした。そんな彼を見てエルミールは、逆に安心したとばかりに微笑んだ

「楽しかったです。あの離宮にいただけではできなかったことをさせていただけましたし、実際にいろいろなものを見させていただけただけでもうれしかったです」

 エルミールは本心から言っているようにアドリアンには見えた。


 そして、6日の旅ののち、エルミールがいた離宮にたどり着いた。アドリアンはエルミールを馬車から降ろした。

「また来る。それまで」

 アドリアンはいつものように額や頬ではなく、唇にキスを落とした。

「待っております」

 エルミールはスカートを軽くつまみ、お辞儀した。別れの挨拶が終わると、彼女は迎えに出た婦人にショールを羽織らせてもらい、中へ入っていった。その婦人は、アドリアンのことを一瞥しだけで、何も言わなかった。

「では、行きましょう」

 馬車の中で待っていたはずのラウルが降り着ており、アドリアンを中へ促した。

「ああ」

 そう彼は離宮を一瞥後、馬車の中へ入っていったが、馬車が動き出し、離宮が見えなくなるまでずっと離宮を見ていた。


「アドリアン様」

 それからも彼は旅を続けていた。エルミールを送り返したのちに向かったのは、国土の大半が森林で多くおおわれているデタマリア共和国という場所だった。その土地へ向かう途中の宿で、彼――ラウルはアドリアンに声をかけた。

「どうした」

 アドリアンは己の従者に席に座るよう促し、ラウルは示された席に座った。

「ありがとうございます」

 さらに、おつまみと酒を出し、自らサーブした。

「……」

「どうしたのだ」

 それでも無言になっている従者にアドリアンは痺れを切らして、尋ねた。

「アドリアン様はエルミール様のご年齢をご存知でしょうか」

 ラウルはそれでも言いにくそうに聞いた。確かに、女性の年齢を知っているか、なんて普通従者が聞くことではない。

「知らない」

 アドリアンは即答した。上の兄達――クレマン王太子、デニス王子とエリック、ジェラールは順に20歳、19歳と16歳だ。クレマンのことについては兄、と呼んでいた。だが、その後すぐに双子の王子が生まれている。

(まるでパズルのようだな)

「18歳か17歳か」

 ラウルに尋ねるように答えた。

 しかし、ラウルは首を振った。その仕草にアドリアンは驚いた。

「じゃあ――」


「14歳です」

 ラウルの言葉に一瞬考えが停止した。

「嘘だろ」

「本当です」

 彼が嘘をついているようにも思えなかった。

「私も最初は驚きました。確かに、14年前亡くなられた王妃様が妊娠されていたとは聞いたことがありましたが、死産なされたか生後間もなく亡くなられたと聞きましたので、その可能性を捨てておりました」

 ラウルに言われてみれば、確かにそんなことあったな、と薄っすら記憶の淵によみがえった。

「なるほど。だが」

 と、アドリアンは再び注いだ酒を飲みほした。

「あの大人びた具合はだめだろう」

「ええ、お酒を嗜まれないところから、単純にお酒が飲めないだけだと思っていました」

 アドリアンもラウルも同意見だった。この大陸では、お酒を飲めるのは20歳からとなっている。

(辻褄がようやくあった)

「だが、上流貴族のマナーをはじめ様々な知識を身に着けている。かなり周りの人が尽くしたんだろうね」

「ええ。あの国王のやり方に、近年では保守派の貴族たちも反発を強めているとのことですので、相当協力者がいたのでしょうね」

 ラウルもつまみを片手に酒を飲み始めた。

 そうして、2人の部屋での飲み会は朝まで続き、珍しく2人とも二日酔いになって宿を立った。

「朝日がまぶしいな」

「ええ」

「ああ、早くクレマン王太子たちはクーデター起こしてくれないかな」

「…」

 いきなり物騒な単語を言ったアドリアンにラウルはジト目を向けた。

「――エルに会いたい」

「そりゃあ、そうですよね」

 ラウルはぶれない己の主にフフッと笑った。

(エルは元気にしているかな)

 アドリアンは自分にとっての太陽(理想)である思いをはせた。

残り3話(4章部分が2話とエピローグ)をもって完結予定です。

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