第3章 邂逅~王太子視点
王太子・クレマン視点――
正直、ほっとした。
幼いころ、すでに物心ついていた俺ら4兄弟は、自分たちの父親がどんな人間であるかを把握していたから、死んだことにされていた『隠された妹』の存在を知った時、早く『本当の妹』として世間に知らしめたかったと互いに思った。幸い、俺ら4兄弟の周りには理解のある――というか、人道的な人間だけで、『隠された妹』の存在は4兄弟の乳母や家庭教師たちが挙って隠し続け、彼女を『王女』として恥ずかしくない教育を受けさせていくことに賛同した。4兄弟は父親に見つからないよう『隠された妹』に会いに行き、ドレスなども送り続けた。年が経つにつれ、彼女は離宮で開かれる夜会では給仕として働くようになっており、『隠された妹』だと気づかれるのを防ぐため、そして夜会中に働く『隠された妹』を見ていたかったため、夜会などではわざと『心に決めた女性がいる』なんて噂を流して、あえて貴族の女性を近づけなかった。そのため、俺らはいつしか婚礼期を逃しかけていたが、『隠された妹』の幸せと引き換えなら構わなかった。
そして3か月前、『隠された妹』がいなくなった。離宮で開かれたある夜会以降、偶々4兄弟共に仕事が立て込んで『隠された妹』に会いに行くことがかなわず、会いに行ったのは夜会が開かれてから1週間経った後だった。そしたら、離宮は寂れていた、と言ってもいいくらい活気がなかった。いつも通り「『隠された妹』に会いたい」と使用人に言ったが、使用人は首を横に振った。何事だと詰め寄っていたところ、妹につけていたある家庭教師――然る伯爵夫人――が来て、「お嬢様は身なりの良い、この前の夜会の出席されていた方と共にここを出ていかれました」と、言った。その後すぐに王宮に戻り、人払いをし、弟たちと話あった。しかし、その『身なりのいい男』には心当たりもなく、話をしてくれた伯爵夫人も具体的には話す気配がなかったため、俺らには手掛かりがなく、悪い男に連れ去られていないかだけ心配だった。
しばらくして、リンデンの王太子が結婚式を挙げたと報告があった。正確に言えば、招待はあったのだが、『隠された妹』のことが心配で見送っていたのだ。その後、時々外交で海外へ行き、『隠された妹』の情報をついでに集めていた。しかし、なかなか思うように情報は集まらなかったが、隣国の俺より5歳上の《遊び人大公》リューバルト大公に『特定のパートナー』ができたと知った。若き君主にパートナーができたという情報はどうでもよかったが、若い貴族令嬢から追っかけられていた大公にパートナーができたと聞いたので、今度は自分に貴族の令嬢から攻撃に遭うんだろうなと考えると鬱な気分になった。
ある時、ベルヒリク・ツァーブルの新総督から早馬で新総督就任パーティーの招待状が届いた。しかし、ルネ国王は箔付の招待であるとし、欠席の返事を出すまでもなく、使者の目の前で招待状を破り捨てようとしたが、脅迫まがいの招待でもあったため、進んで俺らは招待に応じることにした。脅迫まがいなのだから、それなりのことはしてくれるだろうという意味を込めて。ただし、使者は俺1人ではなく4人とも来いと言った。
その会場に入った時、すぐに俺らはある一点にくぎ付けになった。
『隠された妹』がいたのだ、『パートナーを決めた』はずのリューバルト大公の側に。
彼女はリューバルト大公に抱きしめられていて、耳元で何かをささやかれたと同時に崩れ落ちた。意識を失った『隠された妹』は奴に抱えられ会場を後にし、控室に入っていった。俺らはその控室の様子を見ることにした。『隠された妹』が入った部屋の扉は半開きになっていたが、奴の従者が扉の前にいたので、少し離れたところで見張った。そして、数十分後、『隠された妹』は目を覚ましたらしく、奴の従者が入っていったと同時に俺らも入った。
『隠された妹』が見つかってうれしく、つい奴に突っかかってしまったが、もちろんそんなことはないとわかっていた。『隠された妹』に大切な人ができた、そして、『隠された妹』を兄達よりも確実に守れそうな人物が現れたことに俺らは喜べた。そして、それが奴だったことに俺らは少なからず安心した。俺は『隠された妹』を『本当の妹』にすると約束した。近いうちに父親を追い落とすと、暗に示したのだ。
ただ、奴はおそらく知らない、本当のエルミールの年齢を。
だから、従者を連れ去って年齢を教えた。すると、顔を真っ青にしていた。うん、奴は知らないな。俺らはほんの少しだけ暗い笑みを浮かべた。
驚くがよい。『妹』の大人力を。
次話で兄妹の年齢が明かされます。